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恐れてきたことが起きた 医療事故報告書が裁判に使われる!

2017/11/23

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

つくば市 坂根Mクリニック
坂根 みち子
(医法協 現場からの医療事故調ガイドライン検討委員会委員長)

 

2017年11月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

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2017年10月07日読売onlineに

以下のような記事が掲載された(記事ではすべて実名のため一部加工)。


○市の産婦人科医院で1月、

無痛分娩をした女性が死亡した事件で、

専門医らでつくる医療事故調査委員会が報告書をまとめ、

院長○○容疑者(業務上過失致死容疑で書類送検)による

容体急変時の処置について

「蘇生に有効とはいえなかった」と指摘していたことが、わかった。

 

警察も緊急対応に過失があったとしており、

医学的見地からもミスが裏付けられた(1)。


その前には、次のような報道もあった。(同様に一部加工)
豊胸手術死亡で名古屋市がクリニック立ち入り 産経ニュース2017年3月9日


豊胸手術を受けていた女性会社員(32)が意識不明になり死亡した事故で、

名古屋市は9日、

手術をした○○区の「○○クリニック」を立ち入り検査した。(中略)


また医療事故調査制度に基づく第三者機関への報告をしていなかったため、

届け出るよう要請した。

 

女性は2月27日夜、同クリニックで豊胸手術中に意識不明になり、

搬送先の病院で死亡。

愛知県警が28日、業務上過失致死容疑でクリニックを現場検証した(2)。

 

2015年に始まった医療事故調査制度は、

世界の医療安全の原則に則り、個人が特定されないように、

個人の責任が追求されないように定めた上で開始された制度である。


そのために、報告書はどこの誰のことかわからないように

「非識別化」することが省令で求められている。

 

ところが読売新聞の記事は、

報告書を元に書いており、

公開されてはならないはずの個人情報と行った

医療の評価が公にされてしまった。

 

報告書が入手出来るルートは非常に限られている。

制度の根幹を揺るがす重大な局面である。

医療安全調査機構には徹底した調査を求める。


そして、この事例に関わった医療事故調査委員は再研修が必要である。

紛争化している最中に、行った医療の評価をして過誤を認めれば、

その報告書は裁判において決定的な証拠として使われてしまう可能性があること、

その点も考慮して報告書の「非識別化」が求められていたことを

理解していなかったからである。


また読売の記者もスクープのようにこれを報道することが何故問題なのか、

永年にわたる医療安全の議論、責任追及でなく

再発防止に主眼をおかないと結局医療安全は高まらない、

そのためにこの制度が出来たということを全く勉強していない。

他の先進国ならこのような報道はされなかったであろう。

誠に残念な事態である。


同様に、医療安全推進の流れに水を浴びせかけたような警察の介入にも失望した。

故意の犯罪ならまだしも、

医療の結果責任を問うような業過罪の適応は世界の流れに逆行している。

 

日本で刑法を変えるのは非常にハードルが高い。

分娩施設が危機的状況まで減少する中で、

このようなやり方は角を矯めて牛を殺してしまう。

 

永年まじめにお産に取り組んできた医療機関が、

何かある度にお産の取り扱いを止めてしまったらどうなるのか、

社会全体で真剣に考えなければいけない問題である。

 

必要なのは、刑罰に処してお産を扱わないようにするのではなく、

より安全なお産が出来るようサポートすることである。

 

名古屋の事例は紛争化している最中に、

こともあろうか市の職員が、

医療事故調査制度に届け出(正確には報告)するよう要請している。

 

この制度による報告は「加えた医療による予期せぬ死であると

医療機関の管理者が認めた時」にするもので、

市の職員に報告要請の権限はない。

 

まして紛争化している時に前述のような不適切な報告書が出来上がり、

それが処罰のための証拠として使われてしまったら、

一体名古屋市はどのようにして責任を取るつもりであろう。

制度をよく知らないクリニック側が言われた通りにするのは目に見えている。


万が一にも、市の職員が警察と協議の上、

報告を要請したものでないことを祈る。

 

私たちはかねてより、

今回の制度は未来の患者のための制度であり、

紛争化したら この制度にのせるのは一旦待つように主張してきた(3)。

 

また当初より、報告書が個人の処罰に使われないよう、

報告書の書き方に注意を促し、

報告書を手渡さないようガイドラインに記載してきた(4)。


全国医学部長病院長会議でも、

紛争化事例の報告は一旦停止するよう、

日本医療安全調査機構の医療事故調査支援センターに同様の申し入れをしている(5)。


ところが、センター幹部 木村壮介常任理事や

運営委員会委員長の樋口範雄氏は全く聞く耳を持たず、

紛争化している事例であろうが報告するよう広報してきた(6)。


今年の1月31日に開催された委員会の記事(7)を挙げる。


日本医療安全調査機構は1月31日、

2016年度の第2回医療事故調査・支援事業運営委員会を開催、

係争中の事例であっても、

医療事故調査制度におけるセンター調査を実施することを確認した。

 

センター調査は、再発防止策策定のために行うものであり、

「そもそもそうしたこと(紛争等)と関係しない制度としてスタートしたのだから、

係争中だからと言って、手を引くのはどうか」

(運営委員会委員長を務める、

東京大学大学院法学政治学研究科教授の樋口範雄氏(肩書きは当時))。

 

そして危惧した通りのことが起きてしまった。

当事者の秘匿性と非懲罰性の担保という大原則が無視され、

医療安全の推進どころか、当事者が第2の被害者になろうとしている。


私はこのような事例が一例でも出れば、

制度は実質瓦解するであろうと警告してきた。

罰せられるのなら報告しなくなるのは当たり前である。


医療安全調査機構は医療事故調査制度のセンターとして不適格である。


医療事故調査制度には、

他にも日本医療機能評価機構が行っている

医療事故情報等収集事業がある。

 

組織の生き残りをかけて事故調のセンターポジションを確保した

日本医療安全調査機構は潔く撤退されれば良い。

 

全国の医療機関の管理者は、

警察や市の職員、センターの要請で事故報告することがあってはならない。

 

報告するかどうかの判断は管理者自身であり、

その判断により罪に問われることはない。

 

むしろ報告書の書き方や

どういった事例を報告するかをミスリードしている

センターの言う通りにすると、医療安全の推進どころか、

医療機関の存続に関わる問題となり、

かつ残りの人生をかけて民事と刑事訴訟で

闘わなくてはいけなくなることが今回のことではっきりした。


この国では、未だに再発防止のための制度と

責任追及のための制度の切り分けが出来ていないのである。

 


参考
(1)http://www.yomiuri.co.jp/osaka/news/20171007-OYO1T50015.html?from=tw


(2)http://www.sankei.com/affairs/news/170309/afr1703090035-n1.html


(3) Vol.004 「木村壮介氏は辞任せよ」

~医療事故調査・支援センター・木村壮介先生へ医療現場から辞任のお願い~ http://medg.jp/mt/?p=7245


(4)医療事故調運用ガイドラインhttps://www.herusu-shuppan.co.jp/874-2/


(5)「裁判になれば、事故調制度は停止を」

全国医学部長病院長会議が申し入れ

https://www.m3.com/news/iryoishin/462895


(6)紛争・訴訟事例でも“センター調査”実施

– 木村壯介・日本医療安全調査機構常務理事に聞くhttps://www.m3.com/news/iryoishin/476931


(7)“事故調”、係争例もセンター調査の対象に 

日本医療安全調査機構、運営委員会で確認

https://www.m3.com/news/iryoishin/499221

 

 

 

 

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