各分野の専門家が医師の転職や開業などに必要な情報を配信します。

トップ > 医師からの情報発信 > 医療事件報道のあり方 ―無痛分娩事故報道を契機に手直しをー

医療事件報道のあり方 ―無痛分娩事故報道を契機に手直しをー

2018/01/11

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2017年12月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

無痛分娩事故報道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.無痛分娩のメディアスクラム

無痛分娩をめぐる医療事件報道の有り様は、

とにかく凄まじかった。

 

いわゆるメディアスクラム(過熱報道)である。

最大手一般紙マスコミを中心に、

一大キャンペーンが行われたと評してよいであろう。

 

かつての群馬大学医学部附属病院の医療事件での

過熱報道を再現したかのような迫力であった。

 

群大病院は大学病院であり、まさに大病院である。

それに引き換え、無痛分娩で報道の対象とされたのは診療所、

それも一人医師産科診療所が中心であった。

 

ところが、新聞記事の書き方や分量は、

群大病院の時と比べて、少しも遜色が無い。

力に手加減が無かったのである。

 

目一杯の力を込めて過熱報道が行われたのでは、

群大病院とは異なり、一人医師診療所としては一たまりも無い。

 

無痛分娩を止めさせるだけでなく、

あたかも分娩そのものをも止めさせようとしているかのような報道であった。

 

さらには、その診療所そのものを

閉院に追い込もうとしているかのように感じられさえもする。

それほどの激烈な報道であった。

 

そのような状況であったので、無痛分娩事故報道の中には、

多くの検討課題が潜んでいたように思う。

 

これを契機にして、

今後の医療事件報道のあり方を手直ししてもらいたいところである。

 

2.無痛分娩事故報道の検討課題

 今後の医療事件報道の手直しに資するため、

無痛分娩事故報道の中で特に気付いた検討課題を3つほど挙げたい。

 

  • (1)刑事訴追の繰り返し報道

 

たとえば京都の産婦人科医院の事例では、

業務上過失致傷罪での刑事告訴をする予定である旨の予告記事を

2017年8月18日に出しておいて、1週間もたたない24日には、

ほとんど新しい材料もないのに

単にその刑事告訴がなされたというだけの記事を追加報道した。

 

わざわざ繰り返して報道するだけの必要性は感じられない。

しかるに、実名報道されている医院としては、

二度も「刑事告訴」と報道されてはダブルダメージである。

 

さらに加えれば、その事例はわずか2ヶ月後には、

「嫌疑不十分」として不起訴となった。

 

10月30日付けの日本経済新聞によれば、

京都「地検は『過失を認定するに足りる十分な証拠の収集には至らなかった』と

説明している。処分は27日付」という。

 

公訴時効の成立が

もう直ぐの11月の上旬に迫っていたことも合わせて考えれば、

起訴にまで至るのは難しいだろうと、

新聞記者には当初から予見しえた事例である。


こうしてみると、

あえて繰り返してまで派手に「刑事告訴」の報道を拡大させて、

医院のダメージを深刻化させてしまったことは検討に値するところであろう。

是非とも今後の検討課題とすべき事例である。

 

  • (2)調査漏えいの思わせ振り報道


たとえば大阪の産婦人科医院の事例では、

「医療事故調査・支援センター」による「センター調査」が実施されたところ、

そのセンター調査結果が漏えいして、

刑事捜査に活用されたかの如きにも読み取りうる、

思わせ振りな報道もなされた。


2017年10月7日付けの読売新聞(夕刊)の記事

「無痛分娩死 帝王切開『有効といえず』 医療事故調 緊急対応の問題指摘」が、

その「思わせ振り」な記事の代表であろう。

 

「専門医らでつくる医療事故調査委員会が報告書をまとめ、

院長○○容疑者(59)(業務上過失致死容疑で書類送検)による

容体急変時の処置について『蘇生に有効とはいえなかった』と指摘していたことが、

わかった。

 

府警も緊急対応に過失があったとしており、

医学的見地からもミスが裏付けられた。

 

2015年に始まった医療事故調査制度に基づき、

第三者機関『医療事故調査・支援センター』(日本医療安全調査機構)が実施。

 

産婦人科医や麻酔科医らが、

○○容疑者らから聞き取りなどを行った。

読売新聞が入手した報告書によると、・・・」という記事である。

 

これは、第三者たる産婦人科医や麻酔科医らの専門医らでつくった

当該産婦人科医院が設置した「医療事故調査委員会」の「報告書」を

読売新聞が入手したというものらしい。

 

第三者機関たる「医療事故調査・支援センター」の行った

「センター調査」のことではないようである。

そういう意味で、よく読むと、確かに読売新聞の記事は誤りではない。


しかし、速読した読者は、かなりの人々が勘違いしたことであろう。

誤認混同を招きかねない「思わせ振り報道」と評してよいかも知れない。


何故にそのような「思わせ振り」な書き方となったのか、

検討に値するところであろう。是非とも今後の検討課題とすべき事例である。

 

  • (3)事故集中・訴訟多発の印象付け報道


たとえば妊産婦死亡は、真に重大で衝撃も深刻な事態である。

2017年5月10日付けの読売新聞によれば、

「無痛分娩を巡っては、厚生労働省研究班が、

2010年1月から16年4月までに同医会(筆者注・日本産婦人科医会)が

報告を受けた妊産婦死亡298例を調べたところ、

無痛分娩だった出産が13例あった」という。年平均だと2例ほどである。


しかし、一連の無痛分娩の事故報道だと、

この半年から1年の間くらいに立て続けに

通常の2倍の4~5件くらいの事故が集中したような印象だったであろう。

また、それぞれがいずれも深刻な訴訟事件になっているかのような印象でもある。


4~5件の事件を1~2週間サイクルで、

代わる代わる3~4ヶ月にわたって、

繰り返し繰り返し報道し続けたために、

無痛分娩による事故が集中し、訴訟が多発しているかのように印象付けられた。

 

そのために、「無痛分娩」や「分娩施設」のあり方に対して、

人々の捉え方が極めて情緒的になりかねないところであったであろう。

是非とも今後の検討課題とすべきメディアスクラムのあり方である。

 

 

 

 

お問い合わせはこちら