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医療ニュース記事の書き方に関する考察

2018/01/18

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

この原稿は月刊集中12月末日発売号に掲載予定です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2017年12月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

医療ニュースIBIKEN

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.新聞記事の書き方に関する考察

 2017年10月7日付け読売新聞(夕刊)の

「無痛分娩死 帝王切開『有効といえず』 医療事故調 緊急対応の問題指摘」は、

物議を醸した記事であった。

 

新聞記事の書き方として、

また、特に専門分野である医療ニュースの書き方として、

検証の材料を提供するものだと思う。


そこで、その記事を引用しつつ、

段落の構成や言葉の遣い方などについて考察することとする。

 

2.記事の見出しの不適切な点

まず、

「帝王切開『有効といえず』」という見出しでは、

帝王切開の何が有効といえなかったというのかが明確でない。

帝王切開の選択なのか時期なのか手技なのかなど、

どこに焦点が当たっているのかが全くわからないのである。

 

それも、「有効といえず」という医学的な言い回しと相まって、

全くわからない。


もう一つ、「医療事故調」というのも、不明確である。

院内の医療事故調査委員会を指すのか、

第三者機関の医療事故調査・支援センターを指すのか、

それとも、医療事故調査制度全体を指すのかなど、はっきりしない。


いずれの見出し部分も、

削除または大幅に変更すべきであったと思う。

 

3.記事本文の引用

記事は、次のとおりであった。

ただ、「○○」は記事においては、

実際の地名・名称・氏名・年齢がそのまま記載されていたが、

本稿においては省くこととする。

また、第3段落の医学的評価の部分は、大幅に省略した。


〈第1段落〉
「大阪府○○の産婦人科医院『○○クリニック』で1月、

無痛分娩をした女性が死亡した事件で、

専門医らでつくる医療事故調査委員会が報告書をまとめ、

院長・○○容疑者(○○)(業務上過失致死容疑で書類送検)による

容体急変時の処置について『蘇生に有効とはいえなかった』と

指摘していたことが、わかった。

府警も緊急対応に過失があったとしており、

医学的見地からもミスが裏付けられた。」


〈第2段落〉
「2015年に始まった医療事故調査制度に基づき、

第三者機関『医療事故調査・支援センター』(日本医療安全調査機構)が実施。

産婦人科医や麻酔科医らが、○○容疑者から聞き取りなどを行った。」


〈第3段落〉
「読売新聞が入手した報告書によると、・・・(中略)・・・。

人工呼吸が優先されるべきだったとした。」

 

4.記事本文に対する各種の疑問点

まず、第1段落・第1文にある

「専門医らでつくる医療事故調査委員会」は

どのような位置付け・性格の委員会なのかが、わかりにくい。

 

つまり、「○○クリニック」の院長が設置した

院内医療事故調査委員会なのか、

設置主体が第三者機関である院外医療事故調査委員会なのかが、

不明確である。


同じく第1段落であるが、

その末尾の第2文にある

「府警も緊急対応に過失があったとしており、

医学的見地からもミスが裏付けられた。」も、

思わせ振りな表現と評してよい。

 

府警もその報告書を持っているのか、

少なくともその報告内容を知っているのか、

それとも、府警は知らず読売新聞記者だけが知っているに過ぎないのかなど、

はなはだ思わせ振りなところが感じられよう。

 

次に、第2段落の第1文は、

まさに物議を醸したその一文である。

 

この一文だけを読めば、

「第三者機関『医療事故調査・支援センター』(日本医療安全調査機構)」自身「が」

今回の医療事故調査を「実施」した、と読むのが通常であろう。

 

まさか、この一文だけ読んで、

「第三者機関『医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)』に

報告するためにクリニック院長が設置した院内医療事故調査委員会「が」

医療事故調査を「実施」したとは、到底、読み込むことができない。

 

「報告書」とはいわゆるセンター調査の報告書だったのではないか、

という物議を醸したのも、故なしとはしないところであった。


この疑問の延長として、

第2段落・第2文の「○○容疑者から聞き取りなどを行った」

「専門医ら」である「産婦人科医や麻酔科医ら」は、

どこから派遣された人達なのかも、やはり全くわからない。

 

最後に、第3段落では、

そもそも「読売新聞」は誰から「報告書」を「入手した」のか、

が主な疑問となろう。

 

クリニック院長から直接に入手したのか、

事故調査委員会の委員から密かに入手したのか、

医療事故の遺族から正当に入手したのか、

それとも、府警から違法に入手したのかなど、疑いは尽きない。

 

ちなみに、筆者自身としても

読売新聞のためにも疑念をはらしたいと考えたので、

筆者が直接に「読売新聞大阪本社 役員室 広告宣伝部」に対して、

「昨今、産科の方々の筋では、

読売新聞はその報告書を捜査機関(警察・検察)から入手した、

などという情報が巡っています。

私としては、まさか、と思うのですが、

入手ルートは捜査機関からでは無い、

と否定してしまいたいのですがよろしいでしょうか?お教えください。」という

質問をしたのである。

 

そうしたところ、残念ながら、

「以前に電話で説明した通りです。」

「取材の過程に関してもお答えはできません。」などという

回答しかもらえなかった。

 

ただ、読売新聞としても、

取材源秘匿のルールからすれば、

やむをえない回答ではあったであろう。

 

5.物議を醸してしまった理由(推測)

 各種の疑問はあるが、

その根幹はやはり、

第2段落・第1文の「2015年に始まった医療事故調査制度に基づき、

第三者機関『医療事故調査・支援センター』(日本医療安全調査機構)が実施。」と

いう危うい一文を何故にわざわざ挿入したのか、という疑問である。

 

大胆な推測ではあるが、

その理由は、無痛分娩報道を担当していた記者と

特にそのデスクの焦りにあったのではないか、とも思う。

 

別に第2段落がなくて第1段落と第3段落だけだったとしても、

十分に記事として通用しうる。

何も危うい第2段落を入れなくてもよかった。


しかし、よりニュース価値の高い、

グレードの高い記事としたかったデスクの焦りが、

第2段落を挿入させてしまったのではあるまいか。

 

そして、その焦りからの挿入のために、

予期せず思いがけず、医療界に物議を醸してしまったのかも知れない。

 

 

 

 

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