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日本は第三次生活困難期に入った

2018/02/06

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

~本稿は、1月25日刊行の書籍『看取り方と看取られ方』(国書刊行会)

 の序文を一部修正したものです。

 

医師 NPOソシノフ運営会員 小松秀樹

 

2018年1月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

医師転職情報収集

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本では、高齢者が増え、子どもが減り、格差が拡大し、

人びとが孤独になっています。

 

しかも、国家財政には巨額の借金が積みあがっています。


この度、

『看取り方と看取られ方―第三次生活困難期における支援策』(国書刊行会)を

出版することになりました。

 

『地域包括ケアの課題と未来―看取り方と看取られ方』(ロハスメディア社)の

改訂版にあたります。

 

地域包括ケアとは、

急増する高齢者の医療と介護を、

地域で一体的に扱おうとするものです。

 

前版では、地域包括ケアに関わる様々な問題を専門家、実務家に

それぞれ短く記述していただきました。

 

関心は地域包括ケアを超えて、日本の福祉全体に及びました。

 

高齢化と格差拡大の中で、

求められているのは多様な生活支援です。

 

生活支援の中に医療や介護が含まれるというのが前版の考え方でした。

現在、支援を必要としているのは、高齢者だけではありません。

格差が拡大し、貧困にあえぐ若者が増えています。

特に子どもの貧困は日本の将来に暗い影を落としています。


改訂にあたり、書名を変更し、

新たに「第三次生活困難期」という言葉を用意しました。

高齢者問題を含めて、現在進行中の日本社会の状況を、

全体としてとらえるためです。

 

前版では、理念と実情を行き来しましたが、

人びとの考え方がどう変化するのかについての考察は限定されていました。

 

その中で、猪飼周平氏の将来予想が注目されます。

猪飼は人びとの中で進行しつつある考え方の変化を記述し、

人びとの望むケアが、疾病の治癒を目的とする医学モデルから、

良好な生活の質を達成することを目的とする

生活モデルに大きく転換されようとしていると指摘しました。


猪飼氏は、2010年に上梓した『病院の世紀の理論』(有斐閣)で、

生活モデルに基づく将来のケアのあり方について、未来を予想しました。

重要だと思われるので紹介しておきます。

 

1、「健康」の概念が「病気と認められないこと」から

  「心身の状態に応じて生活の質が最大限に確保された状態」に変わる。

  医学モデルでは、病気の明確な定義が、診断や治療の背景にあった。

  ところが、生活の質は人それぞれに違っている。

  本人を含めて、何が良いのか厳密に知っているものはいない。

  新しい健康概念とは、多様性と不可知性を含み込んだ概念にならざるをえない。

  健康の明確な定義はもはや存在しないということになる。


2、予防を含めて、保健サービスの役割が大きくなる。

  時代の中心となる生活習慣病が基本的には完治しないため、

  治療の期待を引き下げ、治療以外のアプローチの相対的な位置を引き上げる。

  予防によって、病気に罹らずに健やかにすごせる期間(いわゆる「健康寿命」)と

  寿命のギャップを短くすることができれば、

  高齢者の生活基盤の充実に資することになるといえる。


3、保健(予防)・医療・高齢者福祉が、

  一つの目標の下に包括的ケアとして統合される。

 
4、健康を支える活動の場が、生活の場に近くなり、

  人びとの固有の価値・ニーズを理解するための

  情報収集に重きを置く活動へと変わっていく。


5、ケアの中心が、病院から地域に移行していく。

  生活を構成する要素が、圧倒的に多岐にわたるため、

  病院だけではサービスを供給できない。

 

6、ケアの担い手が医師を頂点とする階層システムから、

  多様な職種や地域住民とのネットワークに移行する。

 

私は上記、1、4、5、6の各項目に強く賛同します。

とくに、情報収集が重要になる、

ケアの担い手が医師を頂点とする階層システムから、ネットワークに移行する、

という予想は、今後のケアのめざすべき方向でもあると思います。

 

予防と健康寿命についての予想は、

医師としての知識と経験から悲観的にならざるをえません。

 

本書で、小野沢滋氏(「メタボ検診よりも虐待検診を」)や

近藤克則氏(「社会経済的要因による健康格差」)が述べているように、

私も、生活習慣病の予防のための保健サービスに効果を期待できるとは思いません。

 

さらに、予防によって

「健康寿命」と寿命とのギャップを短くすることができるとは思いません。

 

医学の進歩は逆にギャップを大きくしてきました。

ギャップを短縮することが可能だとすれば、

予防を含む保健活動ではなく、適切な条件が満たされた場合に、

以後の治療やケアを控えることぐらいだろうと想像します。

 

ある専門家から、北欧で寝たきりが少ないのは、

自分で食事を摂取できなくなった時は、

多くの人が死に時だと考えており、

食事介助が一般的に行われていないからだと聞きました。

 

今、日本社会は大きな転換期にあります。

 

人びとの考えていることは、時代の移り変わりで変化します。

しかも、社会のマジョリティの人たちの考え方は

社会に大きな影響を及ぼします。

 

現在、都市部で高齢者が急増していますが、

日本全体で人口が大きく減少していきます。

 

過疎地では高齢者も減少しています。

このままでは、経済も縮小するでしょう。

変化への対応に、人びとの考え方が決定的な役割を果たすはずです。

 

改訂版では、今後の社会保障の方向、

非正規労働者と社会保険、子どもの貧困などについての議論を加えました。

 

また、新たに、「死生観とコミュニティ」という章を設けました。

 

今、人びとのもつ死生観も変化しつつあるように思います。

死生観は、医療や介護に直接的な影響を与えますし、

日本ではコミュニティの根幹にかかわっています。

社会のあり様に大きな影響を及ぼします。

 

「あとがき」では生活困難期を、

「民衆の生活がそれ以前に比べて大きく落ち込んだ時期」と定義し、

日本の近代以後の二度の生活困難期に、

人びとが何を考えていたのかふりかえりました。

これは、時代の流れの中で、現在を位置づけ、今後の進むべき方向を考えるためです。

 

 

 

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