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センターの重心を事故調査から安全対策へ

2018/02/10

 

この原稿は月刊集中1月末日発売号(予定)からの転載です。

 

井上法律事務所
弁護士 井上清成

2018年1月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

医療フェイクニュース

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.見かけ倒しのネット記事

 読売新聞大阪本社は、2017年10月7日夕刊に、

「無痛分娩死 帝王切開『有効といえず』 医療事故調 緊急対応の問題指摘」

という物議をかもす記事を掲載する。

 

さらに、翌8日に、今度はYOMIURI ONLINEに、

「無痛分娩死、急変時処置『蘇生に有効と言えず』」

というネット記事も掲載した。

立て続けであり、過熱報道とでも言えそうな様相である。

 

しかしながら、よく読むと、

記事の内容は一言一句、全く変わりがない。

つまり、見出しを、

「無痛分娩死 帝王切開『有効といえず』 医療事故調 緊急対応の問題指摘」から、

「無痛分娩死、急変時処置『蘇生に有効と言えず』」に取り替えただけであった。

見かけは立派だが、内容が伴っていない。

看板の掛け替えだけに過ぎず、見かけ倒しとすら評してもよいであろう。

 

2.行間を空けたために生じた想定外の事態

その見かけ倒しのネット記事ではあるが、

よく読むと、夕刊記事と違うところが4ヶ所ある。

 

1ヶ所だけ改行し、3ヶ所だけ行間を取った。

1ヶ所改行して、そこも含めて3ヶ所で1行ずつ、行を空けたのである。


通常ならば、何のことはない変更と言えよう。

しかし今回は、そのために、想定外の事態が生じてしまった。

 

まずは、ネット記事を引用する。

ただ、「○○」はネット記事においては、

実際の地名・名称・氏名・年齢がそのまま記載されていたが、

本稿においては省くこととする。

また、第4段落の医学的評価の部分は、大幅に省略した。

 

〈第1段落〉
「大阪府○○の産婦人科医院『○○クリニック』で1月、

無痛分娩をした女性が死亡した事件で、

専門医らでつくる医療事故調査委員会が報告書をまとめ、

院長・○○容疑者(○○)(業務上過失致死容疑で書類送検)による

容体急変時の処置について『蘇生に有効とはいえなかった』と指摘していたことが、

わかった。」

 

〈第2段落〉
「府警も緊急対応に過失があったとしており、

医学的見地からもミスが裏付けられた。」

 

〈第3段落〉
「2015年に始まった医療事故調査制度に基づき、

第三者機関『医療事故調査・支援センター』(日本医療安全調査機構)が実施。

産婦人科医や麻酔科医らが、○○容疑者らから聞き取りなどを行った。」

 

〈第4段落〉
「読売新聞が入手した報告書によると、・・・(中略)・・・。

人工呼吸が優先されるべきだったとした。」

 

実際のネット記事では、〈第1段落〉~〈第4段落〉という記載はなく、

本稿での説明と検討の便宜のために設けた。

各段落の間(3ヶ所)は、実際のネット記事では1行分ずつ空いている。

 

3.聞き取りを行ったのはセンターなのか

ネット記事の中で特に注目されるのは、

第3段落・第2文の

「産婦人科医や麻酔科医らが、○○容疑者らから聞き取りなどを行った。」

という一文であろう。

 

ネット記事では行間を空けたため、その一文が特に目立つこととなった。

 

仮りにその一文を第1段落の末尾に付け加えたとしたら、

聞き取りなどを行ったのは

その医院で設けた院内「医療事故調査委員会」であったと読むのが自然であろう。

 

産婦人科医や麻酔科医は、

専門医たる外部委員として、

院内医療事故調査委員会の医療事故調査として聞き取りなどを実施した、

ということになる。

 

次に、今度は仮りにその一文を第2段落の末尾に付け加えてみたとしよう。

(普通は行わないが、)大阪府警による捜査の一環として、

産婦人科医や麻酔科医は大阪府警の嘱託を受けて、

いわば警察医として医学鑑定的な意味合いで聞き取りなどを

実施したということになるのであろうか。

 

ところが、実際のネット記事で付け加えられているのは、

第1段落の末尾でもなければ第2段落の末尾でもない。

つまり、院内医療事故調査委員会の外部委員とも読めないし、

大阪府警の嘱託医とも読めないのである。

 

第3段落の末尾に付け加えたのであるから、

第1段落や第2段落の末尾の場合との対比からすれば、

聞き取りなどを行ったのは

「第三者機関『医療事故調査・支援センター』(日本医療安全調査機構)」

であったと読まざるをえない。

 

つまり、産婦人科医や麻酔科医は、

センターによる医療事故調査(いわゆる「センター調査」)の一環として

聞き取りなどを実施した、ということになる。

 

4.問題なのは読売新聞なのかセンターなのか

筆者が読売新聞大阪本社に聞いたところによれば、

「読売新聞が入手した報告書」の作成主体はセンターではなくて、

院内「医療事故調査委員会」であったらしい。

他の諸情報からしても、筆者もその通りだろうとは思う。

 

しかしながら、夕刊記事もそうだが、

特にネット記事のわざわざ行間を空けた書き振りからは、

到底そうは読めない。

 

第3段落の末尾からすれば、

「センター調査」の結果としての「報告書」としてしか

読めないミスリーディングな記事であることだけは確かであろう。

 

けれども、本当に問題なのは、

ミスリードをした読売新聞の方なのであろうか。

 

実は、それはむしろミスリードされたはずの

センターの方であろうとも思う。

 

本来、センターの役割は、

院内医療事故調査を大前提としつつ、

院内の調査や判断のプロセスや報告書の書き振りを検証するに留めるのが、

第一義であった。

 

むしろ、国全体にとって

新しく意味のある再発防止策その他の改善策を案出することこそが、

センターの役割として重要とされていたのである。

 

センターの重点は、

いわば医療事故「調査」よりも医療安全「対策」にあると言ってもよい。

 

ところが、センターは、

医療安全対策よりもむしろ旧来型の医療事故調査にばかりこだわっている。

少なくとも周りの関係者からは、

センターは調査にばかり前のめりだという感じを抱かれているように思う。

 

問題なのは、ミスリードした読売新聞よりも、

そんなミスリードに沿った

誤解をされてしまいかねない印象を抱かれているセンターの方である。

 

したがって、センターは、

早く旧来型への執着を脱して印象を直し、

事故調査から安全対策へと重心を移して行かねばならない。

 

 

 

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