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地方独立行政法人化による病院改革-神奈川県立がんセンター問題を契機として-

2018/02/20

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

この原稿は月刊集中2月末日発売号に掲載予定です。

うお

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2018年2月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

医師病院改革

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.公立病院改革の方策選択

都道府県立や市町村立などのいわゆる公立病院は,

公共上の見地から確実な実施を図るべき病院事業を行っている。

 

しかし,公立がゆえの諸々の制約もあって,

必ずしも効率的かつ効果的に

病院事業遂行を行えていないことも少なくない。

 

その場合,公立病院の組織形態は維持しつつ,

従来から蓄積されてきたノウハウや方策などを実践して

改革を進めていく選択をすることも多く,

もちろん,それはそれで順当な選択ではある。

 

しかし,さらに一つの大胆な政策的な判断として,

公立病院を直営から切り離し,

独立した一つの行政法人としてしまうことも少なくない。

 

それは地方独立行政法人と呼ばれ,

地方独立行政法人法に基づいて

公立病院を地方独立行政法人化して

病院改革を進めようという方策である。

 

つまり,病院改革の方策の選択肢には,

大きく分けて,

公立病院という組織形態を維持したまま改革を進める方策と,

地方独立行政法人化によって改革を進める方策との

2つがあると言ってよいであろう。

 

もちろん,どちらが正しいとか妥当だとか言うものではない。

どちらにしても,あくまでも政策的な決断の結果だと評しえよう。

 

2.痛みを伴う病院改革

地方独立行政法人化による病院改革という政策的決断をしたとする。


その場合の病院改革には,

公務員制度改革や行政改革に類似した側面があることもあろう。

 

痛みを伴う病院内の組織改革が必要となってしまうこともある。

 

逆に言えば,大きな痛みを伴う改革が必要だと判断したからこそ,

あえて地方独立行政法人化という大胆な方策を選択して決断したとも言えよう。

 

さて,そうやって一旦決断した以上,

地方独立行政法人法に基づく

地方独立行政法人化とそれに伴う病院改革を進めて行かなければならない。

 

設立団体たる都道府県や市町村などとすれば,

一旦政策決断をして法的決定まで下した以上は,

それ以降は法律に則って,

後退りせずに敢然と進んでいかなければならないことになる。


これこそが,

法律たる地方独立行政法人法の命じるところと言ってよい。

 

3.地方独立行政法人法の3つの大原則

地方独立行政法人法は,その第3条において,

地方独立行政法人業務の3つの大原則を明示的に規定した。

 

業務の公共性と適正かつ効率的運営,

業務の透明性,

そして,業務の自主性・自律性である。

 

1つ目の業務の公共性と適正かつ効率的運営については,

第3条第1項で,

「地方独立行政法人は、その行う事務及び事業が住民の生活、

地域社会及び地域経済の安定等の公共上の見地から

確実に実施されることが必要なものであることにかんがみ、

適正かつ効率的にその業務を運営するよう努めなければならない。」と定めた。

 

不適正または非効率的な病院運営を脱却しようと決断したからこそ,

あえて地方独立行政法人化を選択した,ということになる。


2つ目の業務の透明性については,

第3条第2項で,

「地方独立行政法人は、この法律の定めるところにより

その業務の内容を公表すること等を通じて、

その組織及び運営の状況を住民に明らかにするよう努めなければならない。」と定めた。

 

一般に行政事務の運営は

往々にして非公開または隠微になりがちであることを反省し,

公表,公開などによる住民への透明性を求めている。

 

3つ目の業務の自主性・自律性については,

第3条第3項で,

「この法律の運用に当たっては、

地方独立行政法人の業務運営における自主性は、

十分配慮されなければならない。」と定めた。

 

たとえば,痛みを伴う病院改革を進めようと一旦は政策的に決断したとしても,

実際にその改革を進めようという段階になると,

その痛みを嫌がって,

ゆり戻しのように陰に陽に反発・抵抗が勃発するのは珍しくない。


そのようにゆり戻しの反発・抵抗が勃発すると,

反発・抵抗勢力はもともとは一体であった

その設立母体に泣き付くのが通例である。

 

反発・抵抗勢力に泣き付かれれば,

もともとは同一体であった設立母体としても

忍びなくなるのが人情の常であろう。

 

しかしながら,もしもそこで反発・抵抗に同情して

手を差し伸べたとしたならば,

結局は,政策的決断たる改革を成就できない。

 

そこで逆に法律は,

設立母体が同情して手を差し伸べることを禁じた。

 

これこそが,設立母体から独立させた

地方独立行政法人の業務の自主性・自律性の尊重という趣旨である。

 

言い換えれば,設立母体による地方独立行政法人に対する

一般的指揮監督の禁止ということになろう。

 

4.違法行為のみの是正

地方独立行政法人の理事長は,

地方独立行政法人法第14条第1項に基づき,

直接に設立団体の長(都道府県知事,市町村長などを指す。)によって任命される。

 

任命された以上,理事長としては,

効率性・透明性・自主性の原則に忠実に,

痛みを伴う病院改革を進めなければならない。

反発・抵抗があってもそれに同情していては,

逆に法律に違反することになってしまう。

 

設立団体の長は,

泣き付かれて反発・抵抗に同情したとしても,

理事長に一般的指揮監督をしてはならない。

 

仮に設立団体の長から一般的指揮監督を受けたとしても,

理事長は安易にその指揮監督を受け入れてはならないのである。

 

理事長がその職権行使の独立性を放棄したとしたら,

それこそ地方独立行政法人法に違反したことになってしまう。

 

たとえば,地方独立行政法人法第20条には,

ことさらに職員の任命に関する定めがあり,

「地方独立行政法人の職員は、理事長が任命する。」と明示して規定されている。

 

つまり,病院長も含めた医師の任免や人事異動は,

理事長の専権であると言ってよい。

 

設立団体の長といえども,

理事長の専権に対して指揮監督をしてはならないのである。

 

現に,地方独立行政法人法121条でもこのことを肯定していて,

設立団体の長は理事長の行為が

この法律,他の法令,設立団体の条例もしくは規則に違反し,

又は違反するおそれがあると認めたときしか,

当該行為の是正のための必要な措置を命ずることができない,としたのであった。

 

もちろん,理事長は,

職務上の義務違反があって

理事長たるに適しないと認められたとき以外は,

解任されることもない。


つまり,地方独立行政法人化という大きな政策決断をした以上は,

設立団体の長は,違法行為のみの是正だけに留め,

あとは痛みを伴う病院改革をじっと我慢をして見守るべきなのである。

決して,一々動じて,小才を利かせてはならない。

 

 

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