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第三次生活困難期: 非正規雇用と社会保険

2018/02/27

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

本稿は、2018年1月25日刊行の書籍『看取り方と看取られ方』(国書刊行会)

第8章の「非正規労働者と社会保険」を加筆・修正したものです。
日本では、貧困化、少子高齢化、孤独化が進行しています。

私はこれを第三次生活困難期として

一連の現象として議論することを提案しています。

 

NPO法人ソシノフ運営会員 小松秀樹

2018年2月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

医師少子高齢化対策

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本では、貧困化、少子高齢化、孤独化が進行しています。

私はこれを第三次生活困難期として

一連の現象として議論することを提案しています。

 

●医療費の自己負担分が払えない

日本では、生活保護一歩手前の生計困難者が、

苦しい生活を強いられています。

 

千葉県の房総半島南端、

鴨川市の亀田総合病院と館山市の安房地域医療センターで、

それまで勤務していた虎の門病院との違いに驚いたことがあります。

 

自己負担分のお金が用意できないので、

入院できないという患者が珍しくなかったのです。

 

高価な薬剤も嫌われました。

 

前立腺がんに対する

男性ホルモンを抑制するための3か月に1回の注射は、

6万円以上する高価な薬剤です。

自己負担1割でも負担額は6千円を超えます。

房総半島では、注射を拒否する患者が稀ではありませんでした。

 

国民健康保険は被用者保険に加入できない人の受け皿です。

国民健康保険被保険者は、保険料に加えて、

受けた医療に対する自己負担分を支払わなければなりません。

 

生活保護受給が決定すると、

国民健康保険から脱退し、

医療扶助をうけることになります。

保険料も自己負担もなくなります。

 

2015年度の国民健康保険被保険者3550万人の

2014年の平均世帯所得は140万円、

保険料は平均14万2千円でした。

 

国民健康保険被保険者の収入は

バブル崩壊後大きく減少しました。

 

1993年度の被保険者の前年の平均世帯所得は240万円でした。

22年間で所得が42%も減少したことになります。

 

この比較には注意が必要です。

2008年4月1日、後期高齢者医療制度の施行に伴い、

以後、75歳以上の高齢者が国民健康保険から外れました。

 

後期高齢者は所得が低いので、

75歳以上の高齢者を除けば、

1993年の被保険者世帯の平均所得はもっと大きかったはずであり、

22年間の所得の減少幅はもっと大きいはずです。

 

●非正規雇用の増加

労働者派遣法の規制緩和で、

派遣社員や非正規労働者が増えました。

 

企業にとって、給与を低く抑えられることに加えて、

雇用保険料、健康保険料、年金保険料の負担を免れることができるからです。

 

企業にとって、法人税に比べて、

社会保険料負担がはるかに大きいのです。

 

実際、2015年度、日本の全企業62%は

法人税を支払っていません(国税庁統計年報)。

 

国際的に比較すると、

日本の企業の社会保険料負担は

決して大きいものではないのですが(香取照幸『教養としての社会保障』東洋経済)、

企業は利益を最大化するのが使命なので、

保険料負担を可能な限り低くしようとします。

 

今や、非正規労働者は全雇用者の3分の1を超えます。

総務省の労働力調査によれば、

2017年4月から6月の役員を除く雇用者は5441万人でしたが、

その37%、2018万人が非正規雇用でした。

 

正規労働者の給与は勤続年数にしたがって増えていきますが、

非正規労働者の給与は増えません(平成21年度年次経済財政報告)。

 

2016年1月20日の毎日新聞によると、

非正規労働者の7割が年収200万円に届かないことが、

連合などのアンケートでわかりました。

 

●非正規雇用と少子化

非正規雇用の増加は、少子化をさらに促進します。

そもそも、非正規雇用だと結婚が難しくなります。

35~39歳の大卒男性の未婚率は、

正規雇用だと25.3%なのに対し、

派遣・契約社員は67.2%、

パート・アルバイトは85.8%でした(週刊東洋経済2016年5月16日)。

 

結婚後の子どもの数についても、

男女とも正規雇用の場合は1.90人、

男性正規、女性非正規1.79人、男性非正規、女性正規1.09人、

男女とも非正規で1.36人でした。

 

中間層から非正規雇用に人が移動し続けると、

人口減少が促進され、経済も縮小します。

企業は労働力を食いつぶしながら、内部留保を増やしているのです。

 

●非正規雇用と社会保険

被用者保険では健康保険料、年金保険料を、

雇用主が50%負担します。

 

しかし、非正規労働者は被用者保険への加入を制限されるため、

国民健康保険に加入することが多くなります。

 

厚生年金に入れない場合、国民年金のみになります。

雇用主の負担がない分、保険料が重くなります。

 

給与が少ない上に、失業保険に入れてもらえなかったり、

医療保険や年金でも正規労働者より不利な扱いを受けたりします。

 

先に述べた国民健康保険被保険者の世帯あたりの平均所得140万円が

給与所得だと仮定すると、給与所得控除を含めて年収は226万円です。

 

男性の非正規労働者の平均年収222万円(http://www.nenshuu.net/sonota/contents/seiki.php)に近い金額になります。

 

単身世帯だとすると、226万円の収入で、

国民健康保険料14万2千円(地域によって若干異なります)、

国民年金保険料19万8千円、

合計34万円を支払わなければなりません。

 

所得税、住民税が合わせて約10万円であり、

社会保険料が税の3倍以上になります。

収入からみると極めて重い負担です。

 

私は、『看取り方と看取られ方』の

第8章で扱われている無料低額診療の事例カンファレンスに参加していました。

このカンファレンスで、

生活保護を受給していない貧困層の中に、

無理して保険料を納めているにもかかわらず、

自己負担分が払えないために、

医療を受けていない人たちが相当数存在することを知りました。

 

●少子化より貧困対策を優先すべき

日本の最大の問題を少子化だとする意見をよく聞きます。

しかし、貧困の解決なしに少子化は解決できないでしょう。

貧困が解決できれば、少子化の解決はより容易になります。

 

少子化の解決には時間がかかります。

人口動態統計によると、

私が生まれた1949年、132万人の女児が生まれました。

 

37年後の1986年には67万2千人、

さらに30年後の2016年は、47万5千人の女児が生まれました。

 

世代を追うごとに女性の数が減少しています。

2016年生まれの女児たちは、2046年頃に母親になります。

 

合計特殊出生率を増やせたとしても、

実際に出生数が増えるまでには何世代もかかります。

少子化対策は長期的課題ですが、貧困対策は短期・中期的課題です。

 

●国民年金と生活保護

生活保護受給者も、バブル崩壊後増え続けています。

被保護者調査(厚生労働省)によれば、

生活保護受給者数は1955年度の193万人から

経済成長と共に減少傾向が続き、

1995年度には88万人にまで減少しました。

 

以後、増加に転じ、2015年度には過去最高の216万人に達しました。

日本に居住する人の1.7%が生活保護受給者です。

 

高齢世帯の割合が多いのですが、

働ける年齢層と考えられる「その他の世帯」が、

1996年度の4万1千世帯を最低に、

2013年度には28万8千世帯に増え、

以後、横ばいになっています。

 

非正規労働者が若年層に多いためだと思われます。

蓄えがなくて、支える人がいなければ、

非正規労働者はちょっとした病気や事故でも乗り越えられません。


金融資産からも、日本で格差が拡大していることがわかります。

金融広報中央委員会によれば、

金融資産を保有しない世帯がバブル崩壊後、

1995年の7.9%を最低に上昇に転じ、2016年には30.9%まで増加しました。

 

一方で3000万円以上の金融資産を所有する世帯も、

1995年の8.4%から2016年には14.8%に増加しました。


香取照幸は、『教養としての社会保障』(東洋経済)で、

「日本経済が潰れない限り年金は潰れない、

もっと言えば、年金を潰さないためには

日本経済の破綻を回避しなければならないということです」と

年金について多少楽観的に表現しています。

 

厚生労働省幹部だった立場上、

こうしか書けなかったのだと思います。

 

本に提示されているデータからは、

香取が事態をもっと深刻に考えていると想像されます。

 

年金は制度としては潰れませんが、

セイフティネットとしてのカバー範囲が小さくなり、

生活保護に頼る部分が大きくなっています。

 

日本で雇用の非正規化が進んだのは、1990年代です。

今後、生涯非正規雇用の人数が増えると想像されます。

 

1975年生まれの人は1990年代に働きはじめました。

2018年43歳になり、2040年に65歳、2065年に90歳になります。

 

現在の状況が続けば、

生涯非正規雇用の高齢者の割合は

2050年頃まで上昇し続ける可能性があります。

 

これに伴い生活保護世帯も増え続けるでしょう。
貯蓄のない非正規労働者の老後の生活はどうなるでしょうか。

 

国民年金の80万円だけでは生活できません。

生涯、非正規雇用から抜け出せないとすれば、

老後、生活保護を受給せざるをえなくなります。

 

国民年金の給付をうけると、

その分、生活保護費から差し引かれます。

 

苦しい中から無理をして年金保険料を支払っても、

保護費から差し引かれるとすれば、

年金保険料を支払わずに当座の生活費に回す方が、

生涯の可処分所得総額は多くなります。

当事者たちは、支払わないことに経済合理性があると考えるかもしれません。

 

●社会保障は富豪のためでもある

勤勉、質素、倹約、正直を旨とする日本の通俗道徳は、

貧困に対し当事者の努力不足、道徳的欠陥によるとして、

冷淡な態度をとりがちです。

 

社会保障による救済を、

怠け者を増やすものだとして否定的にみます。

しかし、日本の格差は個人の努力不足によるものではありません。

 

社会保障も、貧者のためだけのものではありません。

社会保障がなければ、

先進国でも餓死者が路上で見られることになり、

社会が不安定になります。

 

「豊かな先進国で飢饉が生じない理由は、

人々が平均して豊かだからではない。

仕事を持ち相応の賃金を稼いでいる限りにおいては確かに豊かであろうが、

この条件を長い間満たすことができない人々も多く存在する。

もし社会保障制度がなかったならば、

彼らの所有物の交換権原からは、

実に微々たる財しか得ることができないであろう。

イギリスやアメリカで現在(1980年)みられるような高い失業率のもとでは、

仮に社会保障制度がなかったならば飢餓が蔓延し、

飢饉すら生じる可能性がある。

これを防いでいるのはイギリス人の所得や富が平均して高いことでもなければ、

アメリカ人が一般的に富裕なことでもない。

社会保障制度のおかげで最低限の交換権原が保障されていることなのである」

(アマルティア・セン『貧困と飢餓』岩波書店)。

 

シアトルの超富豪、ニック・ハノーアーは、

「超富豪の仲間たち、ご注意を ― 民衆に襲われる日がやってくる」と題する講演で、

現状の格差拡大に対し警告を発しました。

https://headlines.yahoo.co.jp/ted?a=20170825-00002055-ted

 

「中流階級の成長は 資本主義経済における繁栄の源だ。」

 

「今のような経済格差の拡大が長く続くはずがない。」

 

「きわめて不平等な社会には警察国家や暴動が付き物です。

手立てを講じなければ世直し一揆が私たちを襲いますよ。」

 

「時間の問題です。その時が来たら

それは誰にとっても酷いことになりますが、

特に私たち超富豪にとっては最悪です。」

 

 

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