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地方独立行政法人に対する指揮権発動 -神奈川県立がんセンター問題を契機として

2018/04/07

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

この原稿は月刊集中3月末日発売予定号からの転載です。

 

弁護士
井上清成

2018年3月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

地方独立行政法人神奈川県立がんセンター

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.造船疑獄における指揮権発動

もう60年以上も昔、戦後10年近くの頃、

造船疑獄と呼ばれる政官財癒着の大事件が生じた。

 

東京地検特捜部が政官財への捜査を進めていて、

いよいよ有力政治家の逮捕にまで至ろうとした時、

指揮権発動という事態が起きたのである。


検察庁法第14条は、

「法務大臣は、…検察官の事務に関し、

検察官を一般に指揮監督することができる。

但し、個々の事件の取調又は処分については、

検事総長のみを指揮することができる。」と定めていた。

 

ある有力政治家の逮捕を中止しろという命令は、

個々の事件の処分に関することであるから、

法務大臣は検事総長に対してしか指揮権を行使することができない。


時の検事総長は、国会の証人喚問において、

「指揮権発動で捜査に支障が出た」と証言した。

 

検事総長は、

検察の独立を守るために闘ったとの肯定的な評価が、

後世においてなされている。

 

しかしながら、指揮権を発動した法務大臣は、

憲政史上も有名な政治家の子息であって

将来が期待されていたいわばプリンスであったにもかかわらず、

その指揮権発動の一事によって政治的に完全に失脚してしまった。

今は、その法務大臣の名を知っている者すらいないに等しい。


つまり、指揮権発動という事態は、

それほどまで政治的な波及のある重大なことなのである。

 

2.地方独立行政法人法における指揮権

 昨今、公立病院を改革するために、

公立病院を公営から切り離して地方独立行政法人とする例が多い。

 

大きな政治的決断の上で行われる

大胆な改革手法の一つであると評することもできるであろう。

 

法技術的には、地方独立行政法人法に基づいて、

病院全体を地方独立行政法人化するのである。


地方独立行政法人法では、

地方独立行政法人の自主性、自律性を特に尊重していて、

極言すれば、検察の独立を尊重する

検察庁法以上と評してもよいかも知れない。

 

その趣旨は、たとえば、違法行為の是正を定める

地方独立行政法人法第122条の規定に現れている。

 

同条1項では

「設立団体の長(筆者注・都道府県知事や市町村長など)は、

地方独立行政法人又はその長(筆者注・理事長など)

若しくは職員の行為がこの法律、

他の法令若しくは設立団体の条例若しくは規則に違反し、

又は違反するおそれがあると認めるときは、

当該地方独立行政法人に対し、

当該行為の是正のため必要な措置をとるべきことを命ずることができる。」と定め、

同条4項では

「都道府県知事は、…地方独立行政法人

又はその役員若しくは職員の行為がこの法律若しくは他の法令に違反し、

又は違反するおそれがあると認める場合において、

緊急を要するときその他特に必要があると認めるときは、

自ら当該地方独立行政法人に対し、

当該行為の是正のため必要な措置をとるべきことを命ずることができる。」と定めた。


これらは言い換えれば、

「法令に違反する(又はそのおそれがある)と認める場合」は

設立団体の長(筆者注・都道府県知事など)は

必要な措置を命じることができる、ということである。

 

もっと端的に言えば、

「法令に違反する」場合以外は

設立団体の長といえども必要な措置を命ずることができない。

つまり、法令違反がなければ指揮権を行使できない、ということである。


以上の次第であるから、

地方独立行政法人法における指揮権は、

非常に限定されたものに過ぎない。

 

たとえば、都道府県知事といえども、

地方独立行政法人の理事長が法令違反の行為をしない限りは、

いわゆる指揮権を発動できないのである。

 (なお、地方独立行政法人法の一部改正により、

平成30年4月1日以降は、

指揮権の範囲が「不正の行為」や「業務運営の著しい不適正」などにも広げられた。

しかし、その本質は3月31日までと変わりがない。

そこで、簡明な本質の理解の便宜のために、改正以前の条文によって解説をした。

詳しくは、改正法の122条を参照されたい。)

 

3.地方独立行政法人の長に対する任期途中の解任

 地方独立行政法人法によれば、原則として、

設立団体の長はまずは法令違反行為に対する是正命令を発し、

地方独立行政法人の長がその命令に従わない時にはじめて、

「職務上の義務違反があるとき」に該当するとして、

任期途中の解任に踏み切ることとなるであろう。

 

この点については、地方独立行政法人法第17条第2項が、

その原則のとおりに定めを置いた。


「設立団体の長(筆者注・都道府県知事など)…は、

その任命に係る役員(筆者注・理事長など)が次のいずれかに該当するとき、

その他役員たる に適しないと認めるときは、その役員を解任することができる。
一 心身の故障のため職務の遂行に堪えないと認められるとき
二 職務上の義務違反があるとき                」
という規定の仕方である。


そうすると、「職務上の義務違反があるとき」とは、

地方独立行政法人の長が関係法令の規定に違反した時とか、

設立団体の長による地方独立行政法人の長に対する

いわゆる指揮権に反した時のことを、意味するであろう。


したがって、「その他役員たるに適しないと認めるとき」とは、

心身の故障や職務上の義務違反に準じるような場合を意味することとなり、

具体的には、当該地方独立行政法人の社会的信用を

失墜させる行為等の非行があった場合などに限定されざるを得ない。

 

漠然とした信用失墜の結果などでは足りず、

具体的な「非行」行為があった時などということになるであろう。

 

4.指揮権発動への評価

 造船疑獄における指揮権発動は、

指揮権を発動した政治家の政治的生命を奪ってしまった。

 

それは、指揮権発動が

真に国民のことを思ってのことではなかったと

評価されたからであろう。


こうしてみると、

地方住民・患者家族のために病院改革をしようとした

地方独立行政法人(の長)に対する指揮権発動も、

その評価はやはり表面上の言説ではなく、

果たして真に地方住民・患者家族のことを思ってのことであったかどうかによって、

自ずから決まってくることであろう。

 

 

 

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