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フィリピンにおける医学教育

2018/04/14

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

著者:ダイアン・フランチェスカ・ゲプテ(Diana Francesca Gepte)
日本語訳:石川甚仁、樋口朝霞

 

2018年3月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

フィリピン医学教育

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしの名前はダイアン・フランチェスカ・ゲプテと申します。

現在フィリピンでメディカル・スクールに通っています。

 

私が医師を志したのは,2003年,13歳の頃です。

当時,フィリピンにおいては

SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行していました。

 

保健省の報道官として,

その状況を説明する叔父の姿をテレビで目にしたことが,

私が医師を目指すきっかけになりました。

 

当時私は幼く,医師というキャリアがどういったものか,

また,医師を目指す中でどのような困難が待ち受けているか,

全くわかっていませんでした。

しかし、勇気を持って、私はその道を目指すと決めたのでした。

 

医学教育を含むフィリピンの教育システムは,

アメリカのそれに大きく影響されています。

 

アメリカによる植民地支配が長かったことがその背景にあります。

フィリピンにおいて,

ロースクールやメディカル・スクールといった

大学院に入学するためには小学校,高等学校、

そして4年間の大学教育を修了しないといけません。

 

しかし,将来メディカル・スクールへの入学を希望するとしても,

大学で取得する学位に関して特別な制限はありません。

 

健康に関連する科目(看護学、作業療法学、言語療法学),

健康に関連しない科目(料理学、工学、音楽)

いずれも自由に選択することができます。

 

ただし、後者を選択した学生は,

メディカル・スクールへの進学にあたり,

生物学,化学,物理学,数学の単位取得が別途必要になります。

 

17歳のときに、フィリピン大学マニラ校において,

公衆衛生学の学士課程に入学しました。

 

私が公衆衛生学を選んだのは,

医学を学ぶという大きな目標を達成するために

この専攻が役に立つと考えたからです。

 

実際,学士課程での4年間公衆衛生学に打ち込んだ結果,

医学部に入るために必要な能力以外に,

研究を行う上で重要な洞察力や情熱や忍耐力を

身につけることができたと感じています。

 

私は自分自身について,

平均的な生徒の一人だと自覚しています。

 

なぜならば,クラスの中には、

飛び抜けてよくできるような学生がたくさんいるからです。

 

それでもなお,自分は幸運であると心から信じています。

フィリピンにおいて,

メディカル・スクールへの入学プロセスは熾烈な競争で,

高い能力がないと合格することができません。

 

一般的に,医学部入学試験の基準としては,

学部時代の成績と

全国統一医学部入学試験(National Medical Admission Test: NMAT)の結果,

そして入学試験委員会から選出される面接官との最終面接で構成されます。


NMATは,数学と科学の能力を測るテストです。

入学に必要なNMATの点数はメディカル・スクールによって様々です。

 

たとえば,フィリピン大学や

Ateneo医学部公衆衛生学大学においては最低でも90%の点数が,

Santo Tomas大学においては85%の点数が必要です。

 

一方で,私が在籍しているメディカル・スクールにおいて

最低限必要とされるNMATの点数は,45%と少ない点数でした。


しかし、この数値の低さは,

競争のレベルを下げるものではありません。

 

何千人もの学生を上回ってメディカル・スクールへの入学を叶えるには,

現実的にはNMATの点数は99%以上が望ましいのです。

 

加えて,最終面接の中で,

「自分は医学部教育を受ける価値があり,

将来医療の提供や健康促進を通して社会に貢献できる人材である」と

認めてもらう必要があります。

 

最終面接は非常に重要です。

学部の成績やNMATの得点が非常に高いにも関わらず,

面接で失敗してメディカル・スクールに合格できなかった学生もいるのです。

 

現在、フィリピンには38のメディカル・スクールがあります。

2016年のフィリピン医師国家試験

(the Philippine Physician Licensure Exam: PLE)の成績,

上位10校のうち公立校はわずか3校で,残りは私立校でした。

 

メディカル・スクールの授業料と

その他にかかる費用はとてつもなく高額であり,

私立校は公立校に比べて,さらにその傾向が顕著です。

 

私が通っている公立校の学費は,

一年あたり合計160,000フィリピンペソ(約350,000円)ですが,

友人が通っている私立校の学費は,

300,000フィリピンペソ(約650,000円)です。

メディカル・スクールに通う期間中,学費の他にも様々な出費はあります。


たとえば、アパートや寮の家賃,食費,その他の生活費です。

それでもなお、フィリピンのメディカル・スクールの学費は,

他国と比較すると安価です。

 

例えば,アメリカのメディカル・スクールにおいては,

年間の学費が50,000USDから70,000USD以上もかかります。

 

一方で,フィリピンのメディカル・スクールは学費が手頃なので、

私立校であっても、インド,ネパール,アフリカなど

世界中から多数の学生が入学しています。

 

メディカル・スクールの在学期間は,一般的に5年間です。

1〜2年目は医療の基礎科学を学び,

3年目は,臨床医学や個々の疾患における診断の方法に重点が置かれます。

 

最後の2年間は,クラークシップとインターンシップを行います。

これは,病院で集中的に実習を行う,実践的期間です。

 

この実習が終われば,

フィリピン医師国家試験(PLE)を受ける資格が得られます。

PLEは年2回,9月と3月に実施されます。

PLEの受験者は毎回約3,000人で,毎年6,000人が医師になります。


フィリピンにおいては,毎年多数の医師が輩出されていますが,

田舎やGeographically Isolated and Disadvantaged Areas(GIDAs)と呼ばれる,

地理的に離れていて不便な地域は,

医療者も健康関連の担い手も不足している状況にあります。

 

これは,都会や海外における労働環境が,

医師たちにとって魅力的で,かつ,収入が良いからです。

 

田舎における医師不足のために,

患者さんは医療を受けるために

他の自治体や州都まで足を運ばなくてはならず,

医療を受けるのが遅れてしまうのです。

 

医師になった後もトレーニングは続きます。

初期研修医としてのトレーニング期間は通常3〜5年にわたり,

専門科を決めた後には,

さらに長期間のトレーニングが待っています。

 

2011年のPhilippine Health Systems Reviewにおいては,

専門として選ばれる科は,内科(17.5%)が最も多く,

以降は,小児科(15.5%),産婦人科(12.5%),外科(10.6%)の順になっています。

 

医療者の労働環境に関連した最も深刻な問題の一つは,

彼らへの報酬が貧弱であり,

教育にかけた投資や実際の仕事量に釣り合っていないことです。

 

医師の給料は国が定めた最低賃金である

12,500フィリピンペソ(約27,000円)よりは高いものの,

メディカル・スクール進学のために要した費用を

返済するには足りません。

 

実際,政府設立の病院においては,

初期研修医,後期研修医の月給は,

それぞれ約30,000フィリピンペソ(約65,000円),

40,000フィリピンペソ(約86,000円)程度にとどまっています。

 

このように,医師の給与が実際の労働量に見合うものでないこと,

専門性やキャリアを磨く機会をより多く得られることを背景に,

多数のフィリピンの医師は,海外,特に先進国に移住しており,

フィリピンの医師不足は,極めて深刻な状況となっています。


フィリピン人医師の海外流出問題を解決するために,

フィリピン大学のメディカル・スクール

(University of the Philippines College of Medicine: UPCM)は,

2011年にthe Return Service Agreement(RSA)を開始しました。

 

このプログラムは,UPCMのすべての学生に対して,

医師資格を得た後3年間にわたり,

国内の医療機関で働くことを強制するものです。


一部の学生からは,

職業選択の自由を制限するとの批判もありますが,

現在,UPCM以外の一部のメディカル・スクールにおいても,

段階的に開始されています。

 

医師海外流出問題の根本的な解決策にはならないかもしれませんが,

国内の医師不足の是正に少なからず,貢献しているのかもしれません。

 

辺境地域の医師不足にフォーカスした政策である,

保健省(Department of Health: DOH)の

Doctors to the Barrios Program(DTTB)も紹介します。

 

医師を二年の間辺境地域に派遣するこのプログラムは,

1993年に始まりました。

 

しかし,これまで,定められた期間を延長して

長く赴任地に留まった医師は非常に少なく,

また,残った方々に関しても,

診療以外の行政に関連した仕事をしているケースがほとんどでした。


赴任地に医師が留まるかに影響する要因として,

DOHやLGUから十分な支援を得られるか,

家族の問題(家族がいると辺境地域を選択することが難しい),

キャリアを積む機会を得ることができるかが挙げられています。

 

DTTBがより魅力的なプログラムになるように、

政府は順次手当を引き上げ,

現在の月ごとの手当ては、

64,000 フィリピンペソ(約130,000円)(賃金基準24)まで上昇しています。

 

より多くの医師がこのプログラムに参加することで,

貧困者や医療サービスを十分に受けていない人のニーズを

満たしてほしいと思います。

 

個人レベルでの医学教育への負担を減らす目的で,

Rodrigo Duterte現大統領は,

国立大学限定で授業料を無償化することを認可しました。

 

また,2016年夏には,

Antonio Trillianes上院議員が提出した526法案によって,

フィリピンの医師の給料は,

73,937フィリピンペソ(約160,000円)(賃金基準27)まで

引き上げられました。

 

今後も政府が努力を続けて,

適正な給与や補償を医師に提供しなければ,

医師の海外流出が進み,フィリピンの医療,

そして国民の健康は,さらに脅かされることになるでしょう。

 

私は,現在医学部4年生ですが,

一人前の医師になるためには、まだまだ長い道のりがあります。

 

多くのことを学び,医療技術を高め,

そして経験を重ねなくてはなりません。

 

医学を学ぶ過程は困難であり,

また、フィリピンの保健システムには,

欠陥や問題点があるのも確かです。

 

しかし,医療に貢献することで,フィリピン,

さらには,この世界をより良いものにできるという希望を持って,

日々努力を続けています。

 

 

 

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