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「新専門医制度は東京への医師集中を増加させているか否か」、専門医の制度改革をめぐり議論が紛糾している。

2018/05/22

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

仙台厚生病院
齋藤宏章

 

2018年4月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

若手医師新専門医制度

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018年度から開始される新専門医制度に関しては、

これまでに「若手医師の都市集中を助長する」、

「地域医療に悪影響を与える可能性がある」ことなどが指摘されてきた。

 

2018年度の運用開始を迎え、

実際に新しい専門医制度の研修を開始した

医師の県別、診療科別の数が明らかにされた。

 

日本専門医機構が公開した

「専攻医の採用状況について」

(厚生労働省「第7回今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」)によると

2018年度に研修を開始した医師は全国で8,409名。

 

東京都の施設に登録した医師は

1825名(21.7%)と都道府県で最も多かった。

 

この結果を受け、

専攻医が過年度と比較して東京へ一極集中している、

という声が持ち上がっている。

 

一方、先日東京で行われた日本外科学会では、

外科専攻医の数は新専門医制度によって

回復傾向にあるという講演が開かれた。

 

同講演の様子をまとめたm3.comの記事によると、

日本外科学会専門医制度委員会委員長の北川雄光氏は

外科研修を開始した医師数は2013年度832人、

2014年度816人、2015年度787人、2016年度816人、

2017年度740人と提示し、

2018年の新専門医制度下で外科研修を開始する医師は807人であり、

これをもって、外科の医師数減少は回復傾向にあるとしたという。
(https://www.m3.com/news/iryoishin/596080)

 

果たして新専門医制度は

「外科医不足が指摘されてきたこれまでの状況」を

改善するのだろうか。

 

平成29年12月15日付で公表された

「専攻医一次登録領域別採用数について」によると、

登録された全国767名の外科専攻医のうち

170名 (22%)が東京に登録されている。

 

一方、群馬県、山梨県、高知県では

わずか1名のみしか登録されておらず、

外科専攻を開始する医師が5名以下の都道府県が14県に上っていた。

 

このように専攻を開始する医師の県ごとの数の偏り、

特に東京への集中が問題であろう。

 

今回の新制度の影響を議論する上で問題になっているのは、

過去のどのような数字を基に、

制度後の医師の動向を比較するかということである。

 

なぜなら、これまでには

今回の制度のような専門研修制度を統括する仕組みはなく、

全国で専門研修を始めた医師数を

全て把握しているデータは存在しない、

少なくとも多くは公表されていないからだ。

 

専門医機構は、

これまでの都道府県別の専攻医の採用実績を推定する根拠として、

調査に基づく過年度の診療科別の専攻医数を公表しているが、

これらの数値は専門医試験受験者数や

学会の入会者数を勘案して算出している場合があることが明記されており、

推定的な要素を含む。

 

医師数の公的な統計には、

厚生労働省による

「医師・歯科医師・薬剤師調査」(三師調査)が挙げられる。

 

平成26年度の三師調査の特別集計に基づくと、

2012年から2014年には年平均で763名の医師が外科を専攻し、

うち101名(13%)が東京都での勤務を行なっている。

 

2018年の外科専攻医170名(22%)が

東京で専攻研修を開始した状況は、

当時と比較して東京への集中を表していることは明らかである。

 

また、新専門医制度により

外科専攻医数が回復傾向にあるとされているが、

これは医学部定員増加による

医師国家試験合格者数増加の影響が大きい。

 

医学部の定員は2008年から増員されており、

それまでの7625名から2017年の9419名まで1794名が増えている。

 

2018年に専門研修を開始する医師の多くは

2016年の医師国家試験合格者であるが、

同年の合格者数は8630名、

これは3年前 (2013年)の合格者数 7696名の934名増である。

 

前述の過年度の外科専門医数が

同学年の医師国家試験合格者数に占める割合を計算すると、

2013年10.8%、2014年10.61%、2015年10.23%、

2016年10.43%、2017年8.96%、2018年9.35%だ。

 

この数字を見る限りでは

全体として大きな傾向の変化はないことが分かる。

実数の増加は医学部定員の増加によると考える方が合理的である。

 

一方で、懸念されていたように外科専攻医は大学病院に集中していた。

外科の一次応募では772名中591名(77%)が

大学病院のプログラムに登録した。

 

実に20県で大学病院にのみ応募が行われた。

 

都市に目を移すと、

東京では173名中143名(83%)が大学病院に応募し、

応募者数が多い病院は慶應義塾大学病院21名、

東京大学医学部付属病院20名、東京医科歯科大学付属病院18名と続く。

 

大阪では69名の応募者のうち56名(81%)が大学病院のプログラムに、

しかもこのうち37名が大阪大学医学部附属病院に応募していた。

 

このように専門医制度の変更の結果、

専攻医の東京や大都市圏大学への集中が起きている状況と思われる。

 

医師偏在是正は

本来の専門医制度の設立趣旨と異なるという意見もあるが、

地方医療への影響を看過することは出来ない。


冒頭の講演を行なった北川雄光氏は

日本外科学会専門医制度委員会委員長として

外科の新専門医制度参入を進めてきた人物でもある。

 

制度の変更による影響の検証には、

過去の数値や傾向を踏まえた

慎重な分析が必要をするべきだったと思われる。

 

そのためには、

新制度の設計への関与の少ない外部の意見も取り入れる必要であろう。

 

 

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