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医療崩壊を招く専門医制度 ~日本専門医機構の欺瞞 ある女性医師の事例~

2018/06/19

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

つくば市 坂根Mクリニック
坂根みち子

2018年5月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

医師転職専門医

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月から無理矢理始められた専門医制度がひどい。


一般国民にはわかりにくいために、

新聞報道もほとんどされないが、

この制度のために日本の医療は急速に崩壊するだろう(1)。


あまりのガバナンスの欠如に情報が漏れ出している。

当然だ。

この状態で内部から声が上がらなければ、

近い将来医療を破壊した戦犯に名を連ねることになってしまう。

 

今回は筆者が確認した

「子育てしながらの研修がブロックされた実例」を示したい。


本制度は「循環型プログラム制」という、

わかりやすく言うと大学病院を中心に

関連病院を決められたプログラムに沿って

研修して回るシステムを導入した。

 

研修先が頻回に変わるので、

子育て世代の医師には負担が大きい。

 

特に女性医師にとっては、

妊娠出産と研修の時期が重なるために

余程慎重に制度設計しないと

大変なことになると何度も注意喚起してきた(2)(3)(4)。

 

全業種を通して

最大のブラック業界と言われる医療界では、

今までの制度でさえ

女性医師はall or nothingの選択肢になりがちで、

ある統計では50代の女性医師の36%は

未婚(同、男性の未婚率2.8%)であった。

 

つまり働き方改革とセットでなければ、

現状でさえ結婚して子育てしながら

専門医取得することが難しいのである。

 

女性医師のパートナーの6〜7割は医師なので、

子育て世代の医師カップルが

数ヶ月ごとに職場を点々としながら

研修しなければならないのであれば、

保育園問題ひとつ取り上げても

不可能に近いということが想像出来るであろうか。

 

アンケート等でも女性医師が大きな不安を抱えていたことがわかる(5)


このような声を受け、

日本専門医機構では、

制度の開始を1年延期・再検討し、

出産育児、留学等により

カリキュラム制も選択出来るよう柔軟な制度に変更したはず、だった。

 

実例を示す。


ある大学病院で、

子育て中のため時短等の配慮を求め

プログラム制に応募してきた女性医師に対し、

その条件でのプログラム参加を認めた。

 

女性医師は引っ越しや保育園の手配をし

家族の協力を得ながら準備を進めたが、

二次募集終了時に該当科の教授から突如、

これではトレーニングが不十分になるので

引き受けられないとの連絡が来たのである。

 

そして、そういった場合の研修に

柔軟な対応をとるはずのカリキュラム制の提示もなく、

たった一度のやり取りで「本人辞退」の手続きが進められてしまった。


このあまりにひどい仕打ちに対して、

当人は機構へどうしたらいいのか問い合わせのメールを送った。


ところが、あろうことか、機構はこれを放置した。


それどころか、

「カリキュラム制で研修する場合もプログラムに登録するように」と

勝手にルール変更し各学会から来ている委員に指導したのだ。

 

これに対し、整形外科学会委員より、

卒業後に義務年限を有する自治医科大学や

地域枠等の卒業生や、

出産・育児・留学などでプログラムを中断しなければない場合に、

それらをすべてプログラム制に乗せるのには

無理があるという申し立てがあったが、

機構はこれも放置しているのである。


表で言っていることと

裏でやっていることがあまりに違い過ぎる、

驚くべきガバナンスの欠如である。

 

この制度はそもそもアメリカの専門医制度を参考に

医師の「質」を高めようと、

医学部卒業後2年間の初期研修を終えた医師を対象に

計画されたものだった。

 

実際9割以上の若い研修医達が

専門医制度への参加を希望している。

 

ところが、様々な利害関係が入り交じり、

「質」の担保はどこへやら、

医師の偏在対策と大学医局の復権をもくろむ制度と成り果てた。


どこも医師は足りない。

兵隊は欲しい。

要は若い医師達の奪い合いが始まったのである。

 

5月12日の週刊ダイヤモンドの特集記事では、

フリーランスの麻酔科医師の声として

「新専門医制度は28~35才の割安で使い勝手のよい若手医師を、

専門医を口実に大学医局に拘束し、

医局というメンバーシップ型組織を復興したいという

医療界上層部の野望を具体化したものだったのかもしれません」

というコメントが載っている(7)。

 

同感である。


日本専門医機構は一般社団法人であり、

日本の医療の未来を決めるような権限は持たない。

 

理事達は日本医師会、大学病院、

各医療団体を代表するほぼ年配の男性で構成されており、

女性医師は1人しかいない。

 

この人達には、

子育てしながら研修するということが

どういうことかやったこともなければ

想像することさえも出来ないのだろう。

 

結局、ふたを開けてみれば、

医療の維持のために不可欠な内科や外科にいく応募者は、

研修の負担が多いことから敬遠され、

眼科や耳鼻科などのマイナー科が増えた。


m3という医療系メディアが行った

新専門医制度の一期生調査(8)でも

以下のような声が上がっている。

 

・内科志望だったが、

研修ローテートの負担がかなり大きく、

マイナー科に転向した。

 

初期研修で2カ月ずつそれぞれの内科を回っているのに、

さらに後期でも研修するのは、

負担がかなり大きく、

結婚や子育てを考えている自分にとっては、

科の転向が有意義な選択となった。

 

・学生の頃から内科を志望していました。

しかし専門領域で働く前に

また研修医のローテートのような期間が生まれ、

正直将来の結婚出産を考えると無駄な時間だと思い、

マイナー外科へ進むことを決めました。

 

話を戻す。

 

子供を育てながらトレーニングを積んで

いい医師になりたいという道が

いきなり断たれた女性医師の落胆度は察するに余りある。

 

1人の大切な若い医師の未来を

このようなルール違反で

安易に閉ざしてしまった責任はどこにあるのか。

 

日本専門医機構は組織としての体を成していない。

フィードバックシステムのない組織は

組織と呼ばない(ドラッガー)のだ。

 

真実は隠し通すことは出来ない。

詭弁を弄する機構は一体どう落とし前をつけるつもりか。

 

参考
(1)今春スタートした研修医の新制度は「地域医療崩壊」の序曲だ
島田眞路・山梨大学学長に聞く 週刊ダイヤモンド 2018.5.17

http://diamond.jp/articles/-/170251

 

(2) 坂根みち子 絶望の専門医制度 ハフポスト 2017年1月6日

https://www.huffingtonpost.jp/michiko-sakane/the-despair-of-specialist-system_b_13985802.html

 

(3) 坂根みち子Vol.079 新専門医制度の何が問題なのか

  ~巧妙に仕込まれたプログラム制の罠~

http://medg.jp/mt/?p=7481 医療ガバナンス学会 2017年4月13日


(4) 坂根みち子Vol.164 これから専門医を取ろうとしているドクターへ

  この制度の問題点を知ろう

http://medg.jp/mt/?p=7749 医療ガバナンス学会 2017年8月4日


(5)女医の85.7%が新専門医に反対!? 新専門医制度への女性医師たちの不安と懸念とは
https://www.joystyle.net/articles/453 アンケート joy.net


(6)新専門医制度の完成度、「100%は無理、6、7割から」
第36回臨床研修研究会、日本専門医機構事務局長代行が講演

https://www.m3.com/news/iryoishin/598898 2018年4月22日

 

(7) 医師の集団辞職が大学病院で多発する理由

http://diamond.jp/articles/-/169760


(8)m3.com いよいよ開始!新専門医制度の一期生調査

https://www.m3.com/news/iryoishin/597531?dcf_doctor=true&portalId=mailmag&mmp=MD180520&dcf_doctor=true&mc.l=294874888

 

 

 

 

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