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医師・看護師の国家資格は国民を幸せにするのか ~ネパールでの緩和ケアからの示唆~

2018/09/04

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

樋口朝霞

2018年8月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

医師看護師緩和ケア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学生時代にアジアの国々を見てきたのをきっかけに、

私は研究の面からアジアの医療に貢献したいと思っている。

 

私の研究テーマは、

看護師としての病院で働いたのをきっかけにして、

終末期医療に提供されている医療やケアに関することだ。

 

日本では医療処置や処方には医師の指示を必要とする。

 

実際にベッドサイドで患者に提供しているのは看護師であり、

看護師が現場判断を強いられることや、

必要があれば担当の医師に指示の見直しを相談することもある。

 

終末期医療においても医療者同士の連携が重要である。

 

しかし、この連携がうまく機能しない場合、

オーダーミスや患者が望んでいない医療を提供してしまうなど

様々な問題が起こりうる。

 

コミュニケーションを図り

連携を深めることも対策の一つであるが、

権限の移譲すなわち分業を合理的に行うことで

複雑な連携を減らすということも対策として考えられるだろう。

 

このことについて、

今回のネパール訪問でいい事例に出会うことができた。

 

ネパール訪問というのは、

3年前からネパール人の医師、看護師らと災害対策や

災害後の医療のマネージメントなどについて

共同で論文を執筆しているが、その打ち合わせのためだ。

 

きっかけは、

私が学生時代にネパールの僻地の病院で

地域実習にきていた現地の医学生と知り合いになったことだ。

 

その後、SNSで交流し、

今ではご縁が広がり

複数で個人のつながりによる共同研究を行なっている。

 

ネパールのような途上国では、

プライベートも含めて医療保険がなく、

救命や母子保健が優先で

終末期医療のような苦痛の緩和などの

質の議論が二の次になっている。

 

そんな中ネパールで

終末期に緩和ケアを行なっている場合もあると聞いた。

 

共同研究者の一人である

トリブバン大学病院の外科医であるバイジャ教授の紹介で、

彼が経営するホスピス病院であるホスピス・ネパールを訪問した。

 

このホスピス病院は地域の人々からの寄付で多くを賄っている。

 

がんの終末期にある患者への緩和ケアを

わずかな自己負担または無料で提供している。

 

私たちを出迎え案内してくれたのは、

ガネッシュ・コイララ氏だ。

 

彼は10床ほどの入院の管理と、

20km圏内の家で療養している終末期のがん患者を訪問し

緩和ケアを行うコミュニティ・ホスピス・サービスを行っている。

 

院内には看護師が一人常勤しているが、

訪問は彼一人で行っている。

それは医師の往診や訪問看護のようである。


驚くことに、彼は医師でも看護師でもなく、

ヘルスケアアシスタントであった。

 

それは国家資格ではない。

 

しかし、南インドで緩和ケアのトレーニングを受けており、

終末期のがん患者からの要請があれば自宅を訪問し、

点滴ポンプを用いて痛み止めの持続皮下注射を行っている。

 

がん患者への緩和ケアの中心となるは、

がんによる体の痛みへの緩和である。

 

ここで使われているのは

ほとんどが医療用麻薬であるモルヒネ塩酸塩である。

 

これはネパールでは医師の処方があれば比較的安価で手に入る。

 

訪問先では医師であるバイジャ教授と

SNSで連絡を取り合って指示を受けている。

 

SNSなら画像のやりとりもでき簡単で速い。

 

個人情報などの懸念もあるが

ネパールの医師らはこのように必要に応じて

遠隔診療を行っている。

 

日本では診療報酬の関係もあり慎重に進んでいるが、

無償提供であればどんどん進めていいはずである。

このスピード感は成長し続けるアジアでよく出会う。

アジアは本当に魅力的だと思った。

 

コイララ氏はこれまでに3000人以上の患者に行ってきたという。

彼曰く、それでも緩和ケアは不足しているという。

 

ネパールにおいて

緩和ケアが必要な実数は

民間も保健省も誰も把握していないが、

コイララ氏が把握している限りだけでも

金銭的かつ物理的なアクセスの問題で、

緩和ケアが必要な人のうち

提供できているのはほんの一部だと聞いた。

 

コイララ氏がなぜそこまで献身的に頑張れるのかと思い、

モチベーションの理由を聞いた。

 

するとその理由は彼の生い立ちにあるという。

 

彼はネパールの地方で生まれ、両親を早くに亡くした。

10歳の時に唯一の家族である妹と弟を同じ日に亡くした。

 

死因は何かの感染症で、

貧困でなかったら助かったはずだったという。

それを機に彼は家を出てアルバイトをして

ネパール各地を転々とした。


そんな中、アルバイトをしていた病院で

今の上司のバイジャ教授に出会った。

 

バイジャ教授に生い立ちを話し、

「貧しい人の役に立ちたい」というやる気を買われて、

南インドでの緩和ケアのトレーニングに行く

手はずを整えてもらった。

 

そして戻り

在宅で過ごす終末期のがん患者の緩和ケアを担当している。

 

医療の国家資格も学歴も関係ない。

 

彼は患者に必要な緩和ケアを提供し、

患者や家族に感謝されている。

自分の生い立ちを逆境として

現在の活動のモチーベーションにしているのである。

 

私がネパールを訪問するのは5回目になるが、

今回のネパール訪問では

コイララ氏がそうであるように

医師や看護師によらない人材による訪問緩和ケアが行われており、

さらに必要に応じて

簡単にSNSによる遠隔診療を行なっているという

予想もしなかったやり方を知ることができた。

 

必要性があるので

できる人ができるやり方で応じているという構図は、

当たり前のようで、日本でできていないかもしれないと思った。

 

日本では医師、看護師は業務独占資格であり、

先に挙げたような「分業を合理的に行う」が合理的に行われていない。

 

医師でなくてもできる必要な判断や処置は看護師が、

看護師でなくてもできることは他職ができるように、

部分的にでも業務独占資格から

名称独占資格にするなど規制緩和を考えてみるのはどうだろうか。

 

 

 

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