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もしも医局がなくなったら―バングラデシュでの思考実験

2018/09/29

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

森田知宏

2018年9月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

バングラデシュ医療サービス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いま筆者はバングラデシュにいる。

バングラデシュで展開している医療サービスに関する調査と、

来月から本格的に始まるJICAプロジェクトの準備のためだ。

 

プロジェクトのための新規採用も多く、

面接の機会が多い。

 

そこで気づいたのが、

医療職の面接志願者が多いことだ。

 

バングラデシュは医療職不足で知られている。

医師は6万人、看護師は28万人が不足しているという試算もある。

 

ところが、業界の相場の給与を出して募集すれば、

英語を話せる医療職を探すのに苦労しない。

 

さらに、最も不足していると言われている医師でさえ、

「友人が仕事を探しているので紹介できないか」という相談を受けるほどだ。

 

これだけ医療者不足と言われていながら、

なぜ仕事を探す人が多いのか。

 

私はその理由を、流動性が高いことにあると考える。

 

本来、医師はキャリアのなかで転職を繰り返すことが多く、

流動性が高い職種だ。

 

しかし日本では市場に出ている医師は少なく、

医師のリクルートに苦慮する病院が多い。

 

この原因は医師の異動の多くが

医局という特殊なギルド組織内で行われるためだ。

 

市場で取引される医師が少ないため、

リクルートが困難になる。

 

医局の一番大きな問題は腐敗しやすい構造にある。

 

1教授を頂点とする閉鎖的なピラミッド構造のため、

不正を防止しづらい。

 

臨床研究の捏造問題とその後の対応、

医局の無意味な覇権争いから起きた患者の死亡事件、

入学試験での女性差別など様々な問題はこの医局の構造に起因する。

 

「地域医療を支えている」という大学の主張をよく聞くが、

教授の意向に左右される不安定な方針で、

結局は非効率な病院運営の延命措置に過ぎないことが多い。

現代における役割が私には分からない。

 

そこで、医局がなかったらどうなるか、

をバングラデシュでの体験から考えてみたい。

 

彼ら医療職の履歴書を見ると、

大抵は数年で職場を変わっている。

 

これは日本とそう変わらない。

 

医局があろうとなかろうと、

医師が転職の多い職種であることに変わりはないようだ。

したがって、医師の流動性は高いままで、

労働市場に医師が増加すると予想される。

 

最も対応が求められるのは病院だ。

 

医師不足の現在、医師のリクルート合戦が起きる。

最初は給与などの競争が起きるかもしれないが、

市場が習熟するとその他の条件が重要になる。

 

転職を繰り返す医師にとっては、

数年の給与よりもその後のキャリアが大事だからだ。

 

バングラデシュではすでに給与の相場ができているため、

雇用主側は給与で差をつけるよりも

ビジョンややりがいを共有する方に重きを置く。

 

その方が早期退職せずに長く働く可能性が高いからだ。

一方で、教育機会、質の高い医療など、

医師が参加したいと思える条件を用意できない病院は淘汰される。

厚労省が旗振り役となって病床再編などする必要はない。

 

労働条件も然りである。

 

ひどい労働条件だと医師がいなくなり、

かつ業界に情報が流れるため医師が来なくなる。

 

私の知り合いでも、

ほぼ一人で休みなく診療科を切り盛りさせられていた医師がおり、

「君がいなくなると患者さんが困る」と

病院の管理者が励ましていたのを聞いた。

 

一人の医師しか用意できず疲弊させているのは病院の管理者の怠慢だ。

それを現場の責任感ある医師に

負い目として押し付けるのは責任逃れに過ぎない。

そんな状態なら、

その患者を体制の整った病院に移した方が患者のためにもなる。


結局その医師は「限界だ」と言って転職した。

誰もが医師として、質の高い医療を提供しようと思っている。

 

自分のパフォーマンスを発揮できない病院であれば、

別の条件を探せば良い。

 

バングラデシュの雇用体系も実に多様だ。

兼業禁止の病院もあれば、

午後2時まで病院で働きその後は自分のクリニックで働く医師もいる。

 

常勤でなく、3ヶ月単位のプロジェクト単位で勤務する医師もいる。

現在話題の「医師の働き方改革」など必要ない。

個人の流動性さえ高まれば、自分の働き方は調整できる。

 

学会も変化を迫られる。

 

各学会は医師からの支持を集めるためには

専門医を実効性のある資格にしなければならない。

 

そのためには、日本専門医機構のような組織から出て

自由に活動するところも増えるだろう。

 

現在のように専門医制度を変更させたところで、

キャリアに役立たなければ誰もその資格は取らないからだ。

 

特に、専門医制度によって半自動的に会員が増加し、

そこから会費を徴収できる構造に甘んじているような学会は、

存在意義を問われるだろう。

 

患者にとっても良い変化が起きる。

医療の質を維持できない病院が細々と生き残っている現在と、

今より数こそ減るだろうが、

各病院が医療の質を競い合う世界、私なら後者を選ぶ。

 

すぐにたどり着けても疲弊した医師しかいない病院よりは、

多少時間がかかっても医療レベルの高い病院がある方が安心だ。

 

医師にとって起きる変化のなかで、

私が最もいいと思うのが、思考停止がなくなることだ。

 

転職のたびに、

自分に必要なスキル、条件を考える必要が出てくるからだ。

 

技術の進歩、価値観の多様化のなかで、

これから求められる医療者像は誰にも分からない。

 

だからこそ、個人それぞれが

自分で重要と考えるスキルを身につけることが大切だ。

 

欠点として、バングラデシュのように

一時的に仕事からあぶれる医師も出てくるだろう。

 

しかし、これもバングラデシュ同様、

医師不足の現状では、あぶれた医師もすぐに雇用先が見つかる。

 

前述の医師はまだ就職をお手伝しているところだが、

一ヶ月以内には仕事を見つけられるはずだ。

 

小松秀樹氏は、

「医局は共同幻想だ、みんながないと思えばなくなる」と述べた。

 

そろそろ、目を覚ましてもいい時期ではないだろうか。

 

 

 

 

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