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「原因分析報告書要約版の公表停止のご案内」―失われた1年2ヶ月―

2018/10/18

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

この原稿は月刊集中9月末日発売号からの転載です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2018年9月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

原因分析報告書要約版の公表停止

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.2018年8月1日付けで公表停止

公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する

「産科医療補償制度」が制度創設10年目を迎えたので、

鈴木英明産科医療補償制度事業管理者は、

2018年8月1日付けで、

日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会の各会員に宛て、

「産科医療補償制度ニュース(10周年記念特別号)」を送付した。

 

そのニュースには、原因分析報告書について、

「要約版」(個人や分娩機関が特定されるような情報は記載されていない)を

産科医療補償制度ホームページに掲載している旨が明記されている。


ところが、ニュース送付と同日の2018年8月1日付けで、

原因分析報告書要約版の公表が停止された。

 

その案内文は、

産科医療補償制度のホームページに掲記されたものではあるが、

その案内文自体には文書の作成年月日も作成名義人も明示されていない。

 

不思議な案内文ではあるが、

以下に全文をそのまま引用する。

 

2.「原因分析報告書要約版の公表停止のご案内」全文引用

「原因分析報告書要約版の公表停止のご案内
原因分析報告書要約版(以下「要約版」)につきましては、

特定の個人を識別できる情報や

分娩機関を特定できるような情報を記載していないことから、

これまでは個人情報には該当しないものとして、

制度運営に関する高い透明性の確保

および同じような事例の再発防止や産科医療の質の向上を図ることを目的に、

産科医療補償制度のホームページに掲載し、

公表してまいりました。


しかしながら、

今般、法律家や政府関係者から、

「要約版」は、

特定の個人を識別できる情報や

分娩機関を特定できるような情報は記載されていないものの、

このたびの個人情報保護法の改正に伴い、

情報提供元において個人や分娩機関を特定できる場合は

個人情報の提供に該当するとの「提供元基準」が明確に示されたため、

当機構内において個人や分娩機関を特定できる「要約版」は、

個人情報に該当し、

その記載内容は要配慮個人情報に該当するとの指摘を受けました。


このため、「要約版」を公表するにあたっては

同意を得る必要があると判断し、

同意を得ていない「要約版」の公表について、

本年8月1日より停止することにいたしました。


今後の「要約版」の取り扱いにつきましては、

本ホームページ上で、改めてご案内いたします。 以上」

 

3.「秘匿性に関しては配慮が不十分」との指摘

原因分析報告書要約版の公表に対しては、

もともと「ホームページに掲載されている『要約版』から、

裁判所の判決文と照らし合わせれば医療機関の特定が可能となった為、

秘匿性に関しては配慮が不十分であると言える」との指摘がされていた

〔吉野眞美氏、岡耕平氏、木内淳子氏

「産科医療補償制度における原因分析報告書の検討」

医療の質・安全学会誌Vol.13No3(2018)のうちの「要約」から引用〕。


具体的には、

「原因分析報告書要約版はホームページで公開されているため、

誰でも他人の妊娠・分娩経過や診療の適否を閲覧することができる。

産科医療補償制度は、

『要約版には個人や分娩機関を特定されるような情報は記載されません。』としているが、

…当該事例に関わった医療機関や医療従事者の特定に繋がることが示唆されたため、

秘匿性に関しては配慮が不十分であるといえる。」

 

「…当該報告書の医学的評価では

評価の判断基準に一貫性が担保されていないことが示唆されており、

このような信頼性に欠けた報告書が

インターネット等において公表されることは、

分娩機関や産科医にとってリスクが大きい。

さらに報告書の作成やインターネット公開を望まない家族も存在するため、

たとえ要約版であってもインターネットにおいての公表は避けるべきではないかと考える。」

と結論づけられている(同論文のうちの「V考察2『秘匿性』について」から引用)。


今回の公表停止の措置は、

結果として上記論文による指摘に従うものであり、

改善策としては評価に値しよう。

 

4.失われた1年2ヶ月

公表停止の改善措置自体は妥当なものであった。

ただ、公表停止に踏み切るのが遅すぎた感は否めない。


「要配慮個人情報」と「明示の同意」とを定めた改正個人情報保護法は、

すでに2015年9月9日に公布されているし、

それから1年8ヶ月余りもした2017年5月30日にやっと施行された。

 

また、「個人情報」の定義に関する

「提供元基準」の採用もとっくの昔に政府によって

確定的に表明されている。

 

したがって、

遅くとも2017年5月30日の改正法施行時までには、

産科医療補償制度の運営組織としては、

「原因分析報告書要約版」が「提供元基準」の考え方に基づき

「個人情報」を掲記したものと解釈され、

しかも、その内容が「要配慮個人情報」であることから

ホームページ公表のためには

「明示の同意」が必要とされることを理解していたことであろう。


にもかかわらず、運営組織としては、

2017年5月30日以降も2018年8月1日に至るまで

1年2ヶ月の長期間にわたり、

約2000件の「原因分析報告書要約版」を

ホームページに公表し続けていたのである。

 

このことは、運営組織自らの見解によれば

改正個人情報保護法違反、

少なくともコンプライアンス違反の状態が継続していたと評されよう。


ところが、運営組織は

2018年8月1日の公表停止から1ヶ月以上経過しても、

過去の自らの法令違反(または、コンプライアンス違反)に対する

自己評価を表明していないらしい。

 

直ちに、適切に、謝罪と自己評価とを記者会見などによって公表し、

その上で、責任者の処遇をも明らかにすることが望まれよう。

 

 

 

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