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都道府県間の医師の移動から見えてくるもの -医師が減る県、増える県Vol.1-

2018/11/15

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

内科医師 谷本哲也

2018年10月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

本稿はエムスリー(m3.com)で2018年9月21日に配信された記事の転載です。

https://www.m3.com/lifestyle/630138

 

勤務する医療機関の選択

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちのグループは2018年6月、

医学部卒業後に医師がどの程度の割合で、

出身大学の所在地から移動して他の都道府県で勤務しているのか、

日本全国で推計した医学英語論文を発表しました。

 

国際的な論文としてのインパクトは取るに足らないものですが、

国内的には多少なりとも興味を持って頂ける内容ではないかと考えています。

 

本シリーズでは、初回は論文解説から始め、

次回以降では地域ごとの各データを踏まえて分析していきます。

 

論文はオープンアクセスとなっていますので、

もしお時間が許せば合わせてお読み頂ければ幸いです。

 

【論文の原文はこちら】

https://journals.lww.com/md-journal/fulltext/2018/06010/A_model_based_estimation_of_inter_prefectural.33.aspx

 

●研究のきっかけ

「卒業後はどこで働きますか?」

 

勤務する医療機関の選択は、

診療科の選択と同様に

医師の人生設計に関わる大きな問題の一つだと思います。

 

地元の医学部に進んで、

そのまま地元の医療機関で就職したり

開業されたりする方も多いでしょうし、

出身地とは別の地域の医学部を選んだ後、

あちこちの医療機関で修行したり、

地元に戻ったりされる方も身の回りにしばしばいらっしゃることでしょう。

 

私は後者の部類です。

水木しげる氏、青山剛昌氏や谷口ジロー氏ら

著名漫画家を輩出していることでも有名な鳥取県の出身ですが、

福岡県の大学に進学後、

卒業後は医局の関連で同県の他、

宮崎県や愛媛県などでも勤務しました。

 

海外留学こそしませんでしたが、

地元にも一時帰郷して働いた後、

現在は主に東京都と福島県の医療機関で働いています。

 

このように、医師の勤務地選択は比較的融通が利き、

場合によっては海外での仕事さえも視野に入れられるので、

職業的には他の職種に比べ恵まれている面があると思います。

 

一方で、地方での医師不足や

医療崩壊の問題も久しく取り上げられており、

個人の自由と社会の要請のバランスを取るのは悩ましい問題です。

 

そうして周りを見回すと、

ずっと出身大学の付属病院で頑張っている人もいれば、

東京など都市部の病院を選ぶ人、

逆に医師不足の街で地域医療の実践に励む人、

日本を飛び出し海外で就職する人など様々です。

 

もちろん数十年に及ぶ医師のキャリアでは、

ところどころで職場を替え、

勤務地も様々に変わることは全然珍しくありません。

 

それでは日本全体での医師の動きを見た場合、

勤務地の選択は一体どのようになっているのでしょうか? 

 

自分の出身大学くらいであれば、

大体何割が大学近辺に残っていて、

残り何割くらいは他の都道府県で働いていそう、

というおおよその程度は多くの方が想像付くかもしれません。

 

しかし、日本全体で、

となると大学や地域ごとの特色もあるので、

その推計は骨の折れる作業ではないかと思います。

 

公開されている統計データを用いるにしても、

大学ごとに医師国家試験合格率や

各都道府県の医師数などはありますが、

医師が卒業後どのような勤務地選択をしているか

全国的に評価したようなデータはありませんでした。

 

もし出身大学と勤務地の関係を集計した

全国データベースが利用可能であれば話が早いのですが、

当然そんなものもありません。

 

論文を調べると、

地域での勤務地選択を調査したようなものは出版されていましたが、

やはり全国的な調査はされていないようでした。

 

各大学の卒業者名簿をどうにか入手して一人ひとり調べていけば、

そういう調査も出来るかもしれませんが、

もちろんそんな労力をかけることは現実的でありません。

 

そこで私たちの論文では、

一種のフェルミ推定のような手法を選択しました。

 

●推計の手順

エンリコ・フェルミ(1901-1954)は1938年にノーベル賞を受賞し、

マンハッタン計画でも中心的役割を果たした天才物理学者です。

 

イタリア出身で胃癌のため早逝していますが、

その名を冠したフェルミ推定でも有名です。

 

これは正確な量を計測するのが難しい場合、

いくつかの手がかりとなる数字から演繹して、

短時間でおおよその数をはじき出す手法となっています。

 

例えば、日本にカブトムシは何匹いるか?という設問を

推定する方法がこれに当たるでしょう。

 

厳密に言えば、

今回の私たちの方法は少し違うと言われるかもしれませんが、

考え方の筋道としては、

フェルミ推定を見倣って段階的に以下のように行いました。

 

なお、今回のデータは、

解析実施当時は慶応大学の現役医学部生だった

岡田直己氏(現初期研修医)が中心となって進めた仕事です。

 

まず、厚生労働省が2年ごとに実施し結果を公開している、

「医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」がベースになっています。

 

データ取得の2016年10月時点で入手可能な最長期間となる、

1995年から2014年にわたる20年間を対象とし、

各都道府県別の医師数データを用いました。

 

なお、最新の2016年12月31日現在における

全国の届出医師数は31万9480人、

男性25万1987人、女性6万7493人、

人口10万対医師数は251.7人、

医療施設に従事する人口10万対医師数は240.1人。

 

最後の数字を都道府県別でみると、

徳島県315.9人、京都府、314.9人、高知県306.0人の順に多く、

逆に少ない順では

埼玉県160.1人、茨城県180.4人、千葉県189.9人となっています。

 

このあたりの数値は、

基本データとして覚えておくと良いのではと思います。

 

さらに都道府県別に、

新規の医師免許取得者数のデータも作成しました。

 

このデータでは、

自治医科大学、防衛医科大学及び産業医科大学の数値は、

卒後の勤務地制限があることを考慮して除外することにしました。

 

この点、誤差を既に含む推計にはなってしまうので

ご容赦頂きたいのですが、

全国77の医学部の数字を解析したデータになっています。

 

また、海外留学者や

海外の医学部を出て日本で勤務している方のデータも

考慮には入れていません。

 

さて、当然ながらお亡くなりになったり

医療施設には勤務されない方もいらっしゃったりするため、

それを差し引く必要があります。

 

その正確なデータは入手出来ないため、

次の手順で補正をしています。

 

第1段階で、医療施設に従事する医師数において、

2014年から1994年の数字を引き、

この期間の単純計算上の医師増加数を全国規模で算出しました。

 

そして、この期間の医師免許の取得者数から、

実際の医師増加数を引くことにより、

差分はお亡くなりになったか

勤務されなくなった全国の数値とみなしています。

 

第2段階で、各都道府県の平均医師数に基づいて、

第1段階の数字を比例配分することで、

各都道府県別の数字としました。

 

そして、第3段階で、都道府県ごとに、

新規医師免許取得者数から第2段階の数字を引く事で、

お亡くなりになったりした数を調整した

新規医師免許取得者の増加数を算出しています。

 

少しややこしい説明になったかもしれませんが、

上記の数字は、理論的に

各都道府県で新しく増加した見かけ上の医師数ということになります。

 

すなわち、ある都道府県の卒業生が他に移動したりせず、

そのまま卒業大学の所在地に留まったと仮定した場合に、

増加すると考えられる数字です。

 

例えば、ある県で100人の医師免許新規取得者がいたとすると、

40人お亡くなりになったりして減った場合、

計算上は60人の医師が増えることになります。

 

その上で、前述の「医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」の数字と比較しました。

 

この調査では、

医療施設に従事する実際の数値が公表されており、

各都道府県でどれくらいの医師が

経時的に増加したかを算出することができます。

 

これを前述の数字と比べることで、

見かけ上の医師移動があったのではないか、と推計した訳です。

 

上と同じ例で言えば、

実際に増えた医師数が60人であれば

差し引きゼロで見かけ上の移動はなしとなります。

 

実際に増えた医師が100人であれば、

40人が見かけ上は他県から流入したという計算になりますし、

逆に20人しか増えていなければ、

40人は他県へ流出したという計算になるのです。

 

このような計算方法の注意点は、

あくまで見かけ上の数字を表面的に出したに過ぎないことです。

 

すなわち上の例では、

60人の医師が他県に流出し、

60人が他県から流入していたとしたら、

同じく差し引きゼロということに。

 

医師一人ひとりの移動を現しているわけではなく、

集団として見た場合のみかけの推計値になります。

 

とにかく、このような推計の手順を経て、

都道府県ごとに流入、流出の数字を算出していきました。

 

そして、その数字を都道府県ごとの新規の医師免許取得者数で割ることで、

流出入率を出しています。

 

おおよそ新規の医師労働力の何パーセントが、

都道府県の境をまたいで移動しているかが見積もられるのです。

 

●結果の概要

その結果はなかなか興味深いものでした。

20年の調査期間の全国平均で見た場合、

年間の新規の医師免許取得者数は7416人、

年間のお亡くなりになったり退職されたりした数は3382人、

医療施設に従事する医師の増加数は4034人という結果に。

 

各都道府県では、

新規医師免許取得者数は

10万にあたりの中央値で6.4人(範囲:1.5〜16.5)、

調整された新規の医師数の中央値は61人

(範囲:-18から845;負は流出、正は流入を示す)、

他県への移動数の中央値は13人(範囲:-171から245)、

移動率は-68%から245%となり、

都道府県ごとで大きな差があることがわかりました。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2018_214.pdf

 

共著者の森田知宏医師作成
最大で313%の都道府県格差があり、

各都道府県の大学で教育を受けて、

医師免許を取得した者のうち、

色分けした図でお示ししたとおり、

石川県では68%が他の都道府県へ流出する一方、

千葉県では245%が他の都道府県から流入していた、

という計算になりました。

 

それでは次回以降、

地域ごとにデータの詳細を考察してきたいと思います。

 

 

 

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