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退職した或る医師が考えたこと-患者の大病院志向によって勤務医は疲弊し退職す

2018/12/11

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

医師 藤岡 将

2018年11月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

医療現場労働環境

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●はじめに

近頃、医療現場の労働環境が注目を集めている。

 

医学部入試での不正な点数操作が明るみになった時期より、

ネットを中心に

「大学が不正に手を染めないといけないほど医療現場は疲弊しているのか」、

「患者や患者家族のどういった行動で医療従事者は疲弊するのか」といった

議論が活発に行われている。

 

また10月には、

デーモン閣下や渋谷健司氏が参加する

厚労省「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」も開催され [1]、

10月22日・第2回は、

或る都市部の病院に勤務する救命救急科の医師から勤務状況の説明があり、

こちらも大きな反響を呼んだ。


今後少子高齢化が進行するにつれ、

この問題はますます大きくなると予想される。

 

解決に向け、様々な立場の者、一部列挙すると、

医師、看護師、他の医療資格職の職員、事務職員、病院経営者、

また患者自身、患者家族、地域住民、保険者、自治体、政府、

これらの者の立場や主張を明らかにし、議論を進めていく必要がある。


しかし、上記で「様々な立場」と論じたが、

声を拾いづらい立場の者が存在する。

 

それは、既に疲弊し医療現場を退職した者である。

既に退職した者であるため、

現在は医療現場の一線には居らず、

また場合によっては、現在在職している医療従事者から

「脱走兵」、「敵前逃亡」と見做されることも残念ながらある。


実は私自身、様々な事情により勤務継続が困難となり、

或る医療機関を最近退職した。

その経験を、皆さんにお伝えする。

 

●お断り

まず、以下の点をご理解頂けましたら幸いである。


・以下、私の様々な意見を提示するが、退職した勤務先の職員、

 また顧客である患者や患者家族を批判する意図は全く無い。

 仮に私が逆の立場であれば同じことをすると考える。


・私が論じる内容は、あくまで私の立場からの意見で、

 他者の立場・事情、損得などは一切考慮していない。

 「相手の立場や事情を考慮し尊重する」ことは大事なことだが、

 考慮すると論旨がぼやけてしまうと判断し、今回は無視した。

 

●郵便局

突然だが、郵便局は全国に24000局あり [2]、

皆さんもご存知の通り、

街の中心にある大きな郵便局(例:東京中央郵便局)から、

山間部にある小さな郵便局まで様々な規模の郵便局があり、

それぞれに与えられた役割を担い、

それら郵便局が有機的に結合して、

全国一律の共通サービスを提供している [3]


実は郵便局の取り扱い業務は全ての郵便局で同一ではなく、

「内容証明郵便を発送できる」(例:石川県には全321局あり、うち8局が対応)、

「外貨両替が窓口でできる」(例:福島県には全521局あり、うち6局が対応)と、

ごく限られた郵便局のみで取り扱う業務も存在する [4]。

 

一方で、「郵便を出す」、「預金を出し入れする」、

「生命保険に加入する」といった、

ほぼすべての郵便局で対応可能な業務もある。


また、郵便物の流れだが、

例えば、京都聖護院郵便局から東京・神田明神にハガキを出すと、

京都聖護院郵便局→左京郵便局→京都郵便局→新東京郵便局→神田郵便局→神田明神と、

郵便物はハブとなる郵便局を経由して届けられる。


上記を顧客側から見てみると、

「郵便局で外貨に両替する」という顧客は

上述のごとく限られた郵便局にわざわざ行く必要があり、

一方で「ハガキを出す」という顧客はどの郵便局を使ってもよいことになる。


上記を踏まえ、仮に

「郵便物の輸送経路のハブとなる郵便局の窓口に、

直接ハガキを出しに行ったら、早く届くのでは」(注:実は少し早い)、

「小さい郵便局より大きい郵便局のほうが、

窓口の局員が優秀なのでは」(注:おそらく関係ない)、

「今後の人生で内容証明を出すかもしれないので、

今のうちに大きい郵便局に通い慣れておこう」(注:実益なし)といった

「変わった顧客」が多数居て、

猫も杓子も大きい郵便局の窓口に殺到したらどうなるだろうか。

 

大きい郵便局の窓口は多数の利用者の対応に追われてしまう。

一方で、大きい郵便局特有の業務(前述の、内容証明郵便の取り扱いや、

郵便物の輸送経路でハブとなる郵便局での郵便物取り扱いなど)は

窓口に利用者が殺到しようが待ってはくれない。

 

この仮定の状況では大きい郵便局の局員は疲弊し、

病欠や退職、最悪の場合過労死が出ると推測され、

ひいては、窓口業務は勿論のこと、

国全体で郵便配達は大幅に停滞し、我が国の郵便網は崩壊する。

 

●私の元勤務先

前置きが長くなったが、

私が退職した医療機関(以下、A病院)は

どのような医療機関か紹介する。

 

特定を避けるため、表現を一部あいまいにした。


・地方部の県の、人口数万人の市町村に所在する公立病院。急性期医療を担う
・この地域 (専門用語:「二次医療圏」) の人口は計10万人程度
・この地域の急性期医療を担う病院は、A病院のほか、

 数十キロ離れた別の自治体に、公立病院のB病院がある。

 ただ対応可能な診療科が若干ずれていて、

 「○○科はA病院にしか無い」、「△△科はB病院にしか無い」という状況
・A病院、B病院ともにベッド数は200床
・最寄りの三次救急病院(平たく言うと、ドラマに出てくるような救命救急センター)は

 直線距離で50㎞、道のりで80㎞、車で1時間半
・周辺地域には、A病院、B病院のほかに、5つの民間病院(CからG病院)があり、

 それぞれ100床規模
・A病院の医師数は30人弱、職員は300人強

 

このような病院である。

医療従事者以外の方々にとって、

上記の情報のみでは病院の雰囲気は想像しづらいため、

端的に表現すると

「『他地域から地理的に隔絶されている』ほどではないが、

結構田舎にあり、人口10万人の地域で1番2番人気の公立病院。

敷地や建物の大きさは中学校より少し大きい程度。

胆石、胃がんや、腕の骨折の患者には対応できるが、

珍しい病気の人や交通事故で重傷を負った人には対応できず、

数十キロ先の病院に紹介、転院になる」というイメージである。

 

●私の業務内容

業務1:外来患者の診察。

     前任の医師から引き継いだ時点で400人の定期的に通院している外来患者がいて、

           加えて予約外の外来患者も受診する


業務2:外来・入院での内視鏡検査。週3日


業務3:入院患者の診察。点滴を処方したり、患者や家族に説明したり、

           治療方針を考えたり、急に具合が悪くなった患者の対応をしたり、お看取りを行う。

           自宅に居るときも何かあれば病院から連絡が来て、病院に赴き対応する。

           入院患者は少ない時で7人、多い時で18人程度。


業務4:救急外来の当番(夜間、土日の昼間)。

           都会の病院とは違い、(救命救急科のような)救急外来を担当する部署はなく、

           それぞれの医師が通常業務に追加して1人で当番を行う。

           私は月2-4回割り当てがあった。


業務5:日中、夜間を問わず、自分の診療科の救急患者が来た際に病院の救急室に赴き、診察。

           頻度は忘れたが体力的に辛かった


業務6:業務1-5に付随した書類仕事

 

●業務内容を分類

上記の業務1-5を、先の郵便局の例に倣って分類する。

以下では、病院-クリニックで分類する。


業務1.「A病院でないと担えない、少し変わった病気の外来患者」、

           「A病院だけではなく、クリニックでも担うことができる、

              患者が多数いる病気の外来患者」に分類可能。

              例えば後者には、糖尿病、高血圧、高脂血症、胃薬の処方、

              睡眠導入剤の処方などが挙げられる。」


業務2.対応しているクリニックも存在するが、

     主に病院が担うことが求められる


業務3.入院なので当然に病院が担うことが求められる。

           しかし、A病院に入院後しばらくしたら

           慢性期病院(入院してしばらく経ち、少し体調が落ち着いた患者を対象とする病院)の

           C-F病院に転院してもらう必要はある。

           何故なら私やA病院のキャパシティは無限ではないため、

           一度A病院に入院した患者さんが退院までずっとA病院に居るとなると、

           新たに発症した患者をA病院が受け入れることが不可能になってしまうため。

 

業務4.A病院、B病院が率先して担うことが求められる

 

業務5.4.と同様

 

●持続可能な勤務にするために

私も実は人間で、トイレに行ったり夜は眠ったりする必要があり、

また与えられた時間は私も1日24時間である。

 

となると、私やA病院のキャパシティは有限のため、

勤務を持続可能にするためには

先述の分類に従って業務を再構成する必要がある。


話は少しそれるが、

世話になった或る医師から興味深い話を教えて貰ったので、

以下で紹介する。


「お医者さんには『元気な時に診てもらう先生』と

『具合が悪くなった時に診てもらう先生』の2種類いる。

 

1人のお医者さんは体が1つなので両方を同時に兼ねることはできない。

さて、あなた(注:患者に対する問いかけ)は

私(注:或る医師)にどっちの先生になってほしいですか」


本題に戻る。

 

先ほどの分類を前提に検討すると、

業務2、4、5はA病院の私が担う必要があり、

3.は或る患者が入院した直後はA病院の私が担い、

入院後しばらくして病状が落ち着いたらC-F病院に担っていただく、

1.はそれぞれの外来患者ごとに検討し、

A病院で担わないといけない種類の病気の患者は通院を継続していただき、

クリニックでも担うことができる種類の病気の患者は

クリニックへの通院をお願いする。


このように再構成する必要があると判断した。

 

●再構成してみたら「変わった顧客」も居た

以下、再構成対象の1.外来患者の診察、と

3.入院患者の診察に絞って話を進めていく。


私は在職当時、自らの業務を少しでも持続可能にするべく、

前段落で述べた方針で業務を再構成した。

 

その結果、事情を話し多くの外来患者さんにご協力をいただき、

400人の定期通院の外来患者さんは

180人になった(差し引き220人にはクリニックなどに通院いただいた)。

 

入院患者さんも、

入院後安定したらC-F病院、

病状によっては介護施設に転院していただいた。

皆さんのご協力に、この場を借りて御礼申し上げる。

 

ただ一方で、#郵便局の項目で挙げた、

「変わった顧客」もいたのも事実である。


患者ア:普段A病院の外来に掛かっていないと、

    具合が悪くなったときにA病院に入院できなくなるから嫌です。


→確かにこの意見の指摘通り、

残念ながら「普段外来で診ていないから入院はお断りします」、

「普段外来で診ていないから救急外来の受診はお断りします」という

対応をとる病院や医師も若干は存在する。

 

しかし多くのケースでは、これは誤解である。

普段クリニックに通院している患者さんも体調や病状が悪化した際は、

通院中のクリニックの先生によってA病院に入院の紹介をされ、

A病院に入院する。

 

実際、私の入院患者さんも半数以上が

そのようにクリニックの先生から入院の紹介をいただいたかたで、

普段はクリニックに通院している。

 

また私の救急外来当番の際に

A病院の救急外来に来られた患者さんの半数弱は、

普段クリニックに通院されているかたであった。

 

また先ほどの「1人のお医者さんが二役はできない」の繰り返しだが、

「A病院に入院しやすくなるのでは」とA病院の外来に皆でせっせと通い、

結果A病院の医師が疲弊し退職すると、

A病院の入院機能は無くなるわけで、

実際、私の退職で実際にそうなった訳である。


私も外来患者さんに上記の如く説明すると皆さん納得していただけた。

 

患者イ:クリニックの先生より病院の先生のほうが、

    腕がいいと思うので嫌です。


→これは誤解である、と私は考える。

手術や入院治療といったスキルは、

件数や実施の有無を考えると一般的に病院の医師のほうが当然熟練しているが、

外来や(場合によっては検査の)スキルは、

私が見る限りクリニックの医師のほうが熟達した先生が多かった印象があり、

そして両者のスキルはほぼ独立したスキルである。


こちらもその旨を説明し、皆さん納得していただけた。

 

患者ウ:クリニックだと採血結果が後日になるが、

    病院だと採血結果が即日出るので嫌です。


→これは心情的に理解できるし、

実際その通りであるケースが多い(ただ、一部クリニックは結果が即日出る)。

 

そのような患者ウさんには、

即日結果が出るクリニックをこちらで調べ、

そのクリニックを案内し、またアと同様

「入院機能を維持するために外来機能を縮小する必要がある、

何故なら1人の医者のキャパシティは有限だから」、と事情を伝え、

皆さん納得いただけた。

 

患者エ:我々顧客が外来に多数来たら病院は儲かるのに、

    なんでお前は嫌がるのだ。


「病院は」収入増だが、「医療従事者個人は」収入不変である。

また、仮に個人も収入増であったとしても、

健康を害するレベルの勤務状況であるため、実は全く有難く無い。

 

患者オ:3ヶ月に1回、

    胃薬を貰いに外来受診するだけだから手間は増えないでしょ。


その「3ヶ月に1回、薬を貰いに来る患者」が半日に20-25人来て、

人によっては世間話や家族の愚痴などを外来で始めるわけである。

その旨を伝えると、皆さん納得頂いた。


喩えが悪くて恐縮だが、

「登山客各々が『俺だけだから大丈夫でしょ』と

ポイ捨て→塵も積もれば山となる→富士山ゴミだらけ」に似ている。

 

患者カ:先生デブなんだからもっと働けるでしょ(本当にあった意見)


・・・。全国のデブの医者仲間へ:デブだと死ぬまで働かせられる模様

 

患者キ:俺は納税者だから、公務員のお前は俺の言うことに従え


・・・。実は私も納税者である(公務員は課税されないと誤解している人が時たま居るが)。

    また、公務員は賤職なのだろう(注:皮肉)。

    全国の医療従事者へ:公的病院に就職してはいけない。

 

●持続可能な勤務を目指したが

以上のように多数の患者さんの協力を頂き、

持続可能な勤務を目指したのだが、

私の能力、体力、気力不足で徐々に体力・気力が減っていき、

また諸事情も重なり最終的に退職をすることになった。

 

色々協力していただいた患者さんや

A病院の職員のかたがたには今も申し訳ない気持ちがある。

ただ私にとってA病院は今もいい思い出の病院である。

 

●皆さんへ

以上、私の業務内容、業務を持続させるために行った工夫を報告した。

最終的には退職に至ってしまったが、

これらの工夫、ならびに患者さんの協力により、

いくらかの期間はA病院の一部門をなんとか持続させることが出来た。

恐らくこれらの工夫なしでは3か月も持たなかったであろう。


これらの内容を、医療従事者「自分が勤務する病院を持続させるために」、

医師「自分が過労死しないようにするために」、

患者さん「自分が通院する病院を持続させるために」、

住民「自分の地域の病院を持続させるために」の1つのヒントとして

活用していただけたら幸いである。


[1] “上手な医療のかかり方を広めるための懇談会,” 厚生労働省, [オンライン].

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01491.html


[2] “郵便局局数情報〈オープンデータ〉,” 日本郵便株式会社, [オンライン].

https://www.post.japanpost.jp/notification/storeinformation/index02.html


[3] “日本郵便株式会社 経営理念,” 日本郵便株式会社, [オンライン]. Available: https://www.post.japanpost.jp/about/vision.html


[4] “郵便局・ATMをさがす,” 日本郵政株式会社, [オンライン]. Available: https://map.japanpost.jp/p/search/

 

 

 

 

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