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救急病院はインフル患者の診療拒否をしてもよいのではないか?

2019/02/19

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

この原稿は月刊集中3月号(2月28日発売号)に掲載予定です。

 

井上法律事務所所長 弁護士
井上清成

2019年2月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

診療拒否応召義務

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.病院内にインフル蔓延

筆者の私事ではあるが、

このほど急病で救急搬送されて、

ある都心の病院に緊急入院した。

 

丁度、折り悪しく、インフルエンザ流行の真っ盛り。

救急処置室に運び込まれたところ、

右隣りのベッドも左隣りのベッドもインフル陽性患者であった。

 

インフルエンザのど真ん中に、

別の急病でダイビングしたような感じすらする。


そのまま即入院となって病棟に移った。

すると、今度は、重症患者が軒並みだった。

 

たまたま呼吸器の病棟だったので、

喘鳴などで騒がしいし、何とも重病感がただよっている。

 

病室の隣りのベッドの患者は抗がん剤を使っているらしい。

つらそうな感じが聞こえて来る。


そうこうするうちに、

病棟の面会スペースが全面閉鎖になってしまった。

 

インフル患者や大挙して押し掛けてきた面会者らが

インフルを持ち込んでしまったので、

院内に蔓延したということである。


筆者は幸い軽症なので大丈夫であったものの、

他の重症の入院患者は皆さん大丈夫だったであろうか。

 

もともと強毒性でない季節性インフルだったとしても、

重症の患者に罹患したら大変なことになってしまうかも知れない。


素朴に、重症の患者を入院させている病院は、

それら入院患者を他の感染から守るため、

強毒性でないインフルエンザ患者の診療や来院を

すべて拒否した方がよいようにも思えた。

 

2.診療拒否は応召義務違反なのか

強毒性でないインフルの患者の場合は、

外出せずに自宅でじっとして治るのを待つだけでも十分に足りそうである。

 

わざわざインフルの確定診断をする必要もなければ、

特段の治療をする必要もない。

 

もちろん、インフル流行期間中に発熱があれば、

それだけで学校も職場も休みにすればよいであろう。

 

ことさらに診断書や証明書をもらわずとも、

社会的機能が損なわれることもなく、十分である。

 

だとしたら、インフル患者が病院に押し掛けて来たとしても、

他の重症入院患者への罹患を防ぐため、

その診療を拒否すればよい。

 

さらには、その来院さえも制限してしまうのが、

合理的な対処方法だと評しえよう。


しかし、この対処方法は、

法令上は「応召義務」違反と言われそうである。

 

応召義務とか応招義務とか

診療応需義務とか言われる類いのものを指す。

 

医師法第19条第1項に

「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、

正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と明記されている。

 

素直に条文を読めば、

インフル患者の診療拒否は、

明らかに応召義務違反とみなされるであろう。


しかも、厚生労働省は伝統的に、

応召義務については、

まことに厳しい基準を打ち出している。

 

代表的なのが、

昭和24年9月10日付医発第752号厚生省医務局長通知であった。

そして、その厳格な「通知」は今もってそのまま生きている、とされている。

 

3.時代錯誤な昭和24年厚生省通知

しかし、終戦間もなくの今から70年も昔に発出された

昭和24年厚生省通知は、

医師の働き方改革が議論されている現代の状況から見れば、

トンデモない「時代錯誤」の規定に過ぎない。

 

いつまでもそんな時代錯誤な

一片の通知に呪縛される必要はないだろう。


そこで、試しに、ここで一瞥してみることとする。

なお、主体である「診療に従事する医師」には、

自宅開業の医師のみならず、

病院勤務の医師(勤務医)も含むことに争いはない。

 

「労働者」たる勤務医にも、

全く同様に応召義務が当てはまる、とされているのである

(以下では、問題点をよりクリアーにするために、

「通知」の主語に敢えて「勤務医は」という文言を補充して列挙した)。

 

〈「通知」で「正当な事由」に該当しないとされた例〉


・「勤務医は」医業報酬が不払であっても
 直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない。

 

・「勤務医は」診療時間を制限している場合であっても、
 これを理由として急施を要する患者の診療を拒むことは許されない。

 

・「勤務医は」特定人例えば特定の場所に勤務する人々のみの
 診療に従事する医師又は歯科医師であっても、

 緊急の治療を要する患者がある場合において、

 その近辺に他の診療に従事する医師又は歯科医師がいない場合には、

 やはり診療の求めに応じなければならない。

 

・「勤務医は」天候の不良等も、

 事実上往診の不可能な場合を除いては「正当な事由」には該当しない。


・「勤務医は」医師が自己の標榜する診療科名以外の診療科に属する疾病について

 診療を求められた場合も、

 患者がこれを了承する場合は一応正当な事由と認め得るが、

 了承しないで依然診療を求めるときは、

 応急の措置その他できるだけの範囲のことをしなければならない。

 

以上の「通知」は、今時、いかがであろうか。

労働者たる勤務医の長時間労働・時間外労働・過労死などへの配慮は、

全くない。

 

もうどうにもならないような類いなので、

「通知」は廃棄されるしかないと思う。

 

4.診療の応需・拒否は専門的裁量で

現に、2018年9月19日の

「第10回 医師の働き方改革に関する検討会」においても、

上智大学法学部の岩田太教授が、

「戦後まもない頃の医療提供体制を念頭に示されていた

これまでの応召義務の解釈・通知等のみでは、

現代における応召義務のあり方を整理することは困難である」との

認識を示した資料を提出されていた。


したがって、少なくとも昭和24年厚生省通知は

直ちに廃棄されるべきであり、

それと共に硬直的な応召のあり方も改められるべきである。

 

そして、診療の応召と拒否とを、

医療現場の実情に応じて

各医療機関の専門技術的裁量によって使い分けていくのが、

現代の医療体制に適していると評しえよう。


このようにしていくことができれば、

結局、救急病院はその時々の院内の実情などに応じて、

時にインフル患者を受け入れ、

時にインフル患者を拒否するなどして

柔軟かつ適切な対応を取りやすくなる。

 

シンボリックなイメージもあって少々名残惜しい気もするけれども、

もうそろそろ、硬直的な応召義務の解釈・運用から

脱すべき時期が到来していると感ぜざるを得ない。

 

 

 

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