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大規模災害時、必要不可欠な医薬品を地域の住民に届けるには?

2019/03/16

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

(公財)仙台市医療センター仙台オープン病院
薬剤師 橋本貴尚

2019年2月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

被災地医薬品

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮城県仙台市で薬剤師をしております仙台オープン病院の橋本です。
「3月11日」という日が近づいて参りました(執筆時点:2月15日)。

 

東日本大震災で被災された方を始め、

各種復興支援に尽力して下さった方々、

被災地とそこに住む人々に思いを寄せて下さった方々の

全てにとって特別な日です。

 

僕は仙台の中心部で震災を経験し、

その後、4月下旬に宮城県南三陸町で

災害医療ボランティアに取り組みました

 

それがきっかけで様々な発表や執筆の機会1-4)を頂きました。

改めて関係者の方々に厚く御礼申し上げます。

 

ここでは、大規模災害時における、

各種疾患を有する被災者の医薬品並びに

その情報の継続性を担保する取り組みについて述べてみたいと思います。

 

1.被災地の需要を加味した医薬品支援の重要性2,4)

東日本大震災後、

各種慢性疾患を有する被災者が

長期の避難生活を余儀なくされました。

 

さらに、医薬品の需要と供給のミスマッチが発生しました。

具体的には、多くの支援医薬品が寄せられたものの、

各被災地の需要がつかみきれず、

さらに様々な銘柄や後発医薬品が混在して仕分けに難航しました。

 

その結果、大量の支援医薬品が活用されずに終わりました。


その反省を踏まえ、

「災害薬事コーディネーター」の育成が進み、

熊本地震でその有用性が報告されました5)。

 

熊本県と熊本県薬剤師会の事前の協定に基づき、

災害薬事コーディネーターが

被災地の医薬品需要を勘案して調整を行いました。

 

その結果、医薬品の需要と供給の大きなミスマッチは発生しませんでした。


災害薬事研修コースは日本災害医学会

https://jadm.or.jp/、2019年2月15日アクセス)が提供していますので、

ご参照下さい。

 

2.医薬品の備蓄体制の確保

都道府県毎に自治体と医薬品卸業、医師会、薬剤師会などが協定を結び、

備蓄医薬品の整備を行っていると思います。

 

医薬品の保管条件には、

「室温保存」の他に、

「2~8℃ 凍結を避けて保存」や「遮光保存」といった

細かい決まりがあります。

 

医薬品卸業が有する保管庫・冷蔵庫は、

その厳密な保管基準を満たしております。

 

さらに、東日本大震災後に備蓄センターが被災したり

流通経路が途絶した経験を踏まえ、

備蓄を分散させたり、広域で備蓄したりなどしております。


以上より、医薬品備蓄については、

現状では医薬品卸業に委託のするのが

最も信頼できる方法と考えております。

 

3.被災地への医薬品支援
  -移動薬局車両(モバイルファーマシー)に焦点を当てて4)

ここでは、全国各地の薬剤師会や大学薬学部などで設置が進んでいる

「移動薬局車両(モバイルファーマシー)」の状況について紹介します(表)4)。

 

2012年に宮城県薬剤師会が開発し、

その後、全国各地に普及しました。

 

熊本地震では3台のモバイルファーマシーが活躍して

その有用性が確認され5)、平成30年7月豪雨の際にも活用されました。


表にある以外にも

様々な型のモバイルファーマシーが整備されている状況ですので、

各自、地元での整備状況をご確認ください。


モバイルファーマシーの最大の特徴は、

「大規模災害時に、自立して医薬品支援を行える」という点にあります。

 

キャンピングカーを改造しているので、

衣食住がまかなえます。

 

さらに、約500種類の薬を収納でき、

各種調剤機器や精製水を備えているので、

例えば、高齢者に対する一包化や粉砕、

小児に対するシロップ剤などにも対応可能です。


導入をお考え、あるいは詳細を知りたい方は、

宮城県薬剤師会に申請して頂ければ

無料で情報開示して下さるとのことでしたので、ご活用下さい。

 

4.医薬品の供給が途絶した場合に備えて、自分たちできることは?

大規模津波などで陸路アクセスが途絶してしまう場合も想定されますので、

地域の医療機関や薬局などが協力し合って

医薬品の供給を行う体制作りも重要です。

 

地域の医療機関と薬局が大規模災害発生時に

どういう状況になりうるかを調査した報告6)がありますので、

紹介します。


愛媛県八幡浜市は、

市街地のほぼ全域が4m以上の津波浸水想定区域に含まれています。

 

また、伊方原子力発電所の20km圏内に位置しています。

津波浸水区域の中には、

36医療機関のうち27機関が、

28薬局のうち25店が位置しているとのことです。

 

現在、非常電源を持つところは医療機関2つのみで、

薬局にはありません。


宮城県女川町は、愛媛県八幡浜市と同様に、

湾奥に位置し、後ろに山があり、

女川原子力発電所が近隣にありますので、

女川町での東日本大震災後の支援状況が

どのようであったかが参考になります。

 

女川町が発行している「東日本大震災記録誌」を参照しました

(女川町ホームページ http://www.town.onagawa.miyagi.jp/shinsai/index.html

2019年2月15日アクセス)。


これによると、陸上自衛隊が初めて来町したのは3月13日と、

震災発生から2日経っております。

 

医薬品支援のあり方はこの後に議論されますから、

もう数日を要すると思います。

 

その間、万一被災者の医薬品の継続性が途絶した場合を考えます。

例えば、透析患者さんの内服薬や移植患者の免疫抑制剤、

一型糖尿病患者のインスリンは、

いずれも1日も欠かすことのできない医薬品です。

 

こうした場合に備え、地域の医療機関や薬局が、

数日間であっても

医薬品を供給できるようにする仕組みは大変重要と考えます。


医療機関や薬局、

特に地域の医薬品供給の要(かなめ)となる

薬局の非常電源環境について見直すことが重要です。

 

しかし、個人経営だと資金力が十分でない場合もありますので、

ぜひとも、地域の行政や薬剤師会などが旗振り役となって、

地域毎の医薬品備蓄の環境整備に尽力して欲しいな、

というのが僕の切なる願いです。

 

以上、大規模災害時における医薬品支援について、

僕が知る限りの情報を載せてみました。

 

発生が予想される南海トラフ地震に備え、

我々が一致団結してできる対策を考えるきっかけになれば幸いです。

 

表 移動薬局車両(モバイルファーマシー)の普及状況 

(橋本貴尚ら.血圧.Vol. 26 no. 2, 2019, p98-102)

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_038.pdf

 

参考文献

1)  Hashimoto T, et al.,  J Am Pharm Assoc (2003) 51, 2011.


2)  橋本貴尚, et al. 「災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン」

     -3.4.薬剤の不足・内服薬の情報. 2014:20-27.


3)  橋本貴尚,  薬局 67, 2016.


4)  橋本貴尚, et al.,  血圧 26, 2019.


5)  田上直美, et al.,  日本血栓止血学会誌 28: 692, 2017.


6)  越智元郎, et al.,  血圧 26, 2019.

 

 

 

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