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柳原病院事件から考える「患者と医療従事者の信頼関係」

2019/04/13

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

NPO法人しあわせなみだ
理事長 中野宏美

2019年3月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

柳原病院乳腺外科医せん妄

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乳腺外科医から患者への準強制わいせつ罪が問われた裁判で、

2月20日、東京地裁は無罪を言い渡しました。


検察は控訴し、

今後この事件は、高裁で争われることになります。

 

無罪判決の背景は、

「Vol.036 柳原病院事件:女性患者をより不幸にする控訴に反対する」

で紹介されています。

http://medg.jp/mt/?p=8884

 

一方で判決に対し、

「医療従事者として信じがたい内容の供述がある」という疑問も出されています。

https://bunshun.jp/articles/-/11017

 

私は性暴力撲滅に向けた啓発活動を手掛けるNPOの理事長として、

また一人の市民として、一人の患者として、

この事件の行方を見守ってきました。


罪に問われた医師、

医師が所属する病院、

「これは冤罪である」とキャンペーンを展開されてきた方々の対応は、

残念ながら、私たち市民が「医療従事者に求める姿」からはかけ離れていた、

と言わざるをえないものでした。

 

医療は、患者と医療従事者との間に、

信頼関係があってはじめて、

効果を発揮するものではないでしょうか。


そこで本稿では、有罪無罪にかかわらず、

今回の事件を通じて、医療従事者の皆さんと一緒に考えたいこと、

「もしこんな対策が取られていれば、

これほどまで信頼関係が崩壊することは防げたのではないか」という点を、

共有できればと思います。

 

1.患者への説明責任

無罪判決の理由の1つは、

医師によるわいせつ行為は、

患者側の「麻酔覚醒時のせん妄に伴う性的幻覚」による誤解であった可能性が、

認められたためです。


一方患者側は、「これは幻覚ではない」と主張しています。

 

せん妄の有無については、今後裁判で争われることであり、

本稿のポイントではありません。


ここで伝えたいのは、

医師側の「性的幻覚」という主張が正しいのであれば、

「医師や病院側は、手術前に患者に対し、

せん妄や幻覚に関する丁寧な説明を行わず、

手術後も、予防的介入や、

せん妄発生時の適切な看護体制を取っていなかったことが、

認識の相違につながっている」という点です。

 

医師や病院側は、この事件に限らず、

「麻酔をすれば、覚醒時にせん妄により、幻覚が起きる可能性」を、

把握していたはずです。


「不当逮捕」「冤罪」と患者を責める前に、

まずは、病院として果たすべき役割を担っていなかったことを謝罪し、

その上で、「なぜこうした事態を招いたのか」を、

誠意をもって説明すべきではないでしょうか。

 

2.患者への医療提供責任

今回の事件では、患者が手術後、病室に戻った10分後に、

わいせつ行為が行われた、とされています。


患者は警察を呼び、

その結果、手術終了から4時間後に退院しています。


しかし、当初の予定では、病院に1泊する予定でした。


従って患者は、

本来術後に受けるべきケアが、受けられていません。

 

病院側からすれば、

所属する医師が犯罪行為で訴えられれば、

動揺したり、不快な思いをするのは、当然のことです。


一方で患者側は、

ある意味、自らの心身の健康と引き換えに、

医療側を訴えます。


訴えれば、その後適切な治療を受けるのは難しくなることが、

わかっているからです。


それだけ患者と医療従事者との間には、

大きな力の差があります。

 

この事件に限らず、医療事故等、患者が

医療従事者や病院を訴える状況は、残念ながら必ず起こります。


病院側は、リスクマネジメントの一環として、

予めマニュアル等を整備することに加え、

患者を医療業界から排除するのではなく、

「他の医師や病院を紹介する」

「事件に伴う心身的負担に配慮する」などの誠実な対応を、

取るべきではないでしょうか。

 

3.裁判における弁護の方法

この裁判で、医師側の弁護士は、

事件とは関係のない患者の職業を、

無罪の証拠として取り上げようとしました。


また、検察(患者)側が、

「わいせつの意図があった証拠」として提出した、

患者の上半身裸の写真を、

医師側の弁護士が、患者の許可なく、

不特定多数の傍聴人がいる、

法廷の大画面で写そうとする場面もありました。

 

性犯罪裁判では、被告側が、

過去の言動や性経験、当日の服装等、

本来無関係の事象を取り上げることで、

訴えた側を動揺させたり、

事件の責任を転嫁しようとすることが、少なくありません。


しかし、罪を犯していないのであれば、

むしろ、被害者が安定した心身状態で裁判に臨めるよう配慮したほうが、

余計な疑いを持たれないはずです。


特に医療従事者であれば、

日々病気を抱え不安な患者に接している中で、

「何をすれば相手が不安になるか、もしくは安心するか」を、

深く理解していると思います。


医師側の弁護において、

患者に不必要な不安を与えるような言動が行われそうな時には、

「その弁護は医療従事者が望むものではない」と、

医師自らが弁護士に示唆することも、できるのではないでしょうか。


今後本事件は、高裁で争われることになりますが、

裁判が、患者と医療従事者との対立を深めるものではなく、

「なぜ患者と医師との間に、認識の相違が生じたのか」

「どうして裁判を起こさねばならなかったのか」

「どうすれば、患者と医療従事者が、信頼関係の下で医療を提供できるか」を、

ともに考えていく機会となることを願います。

 

 

 

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