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ゾフルーザ問題で無視される「不都合な事実」

2019/05/18

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

ロハス・メディカル編集発行人
川口恭

 

2019年4月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

ゾフルーザPMDA

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抗インフルエンザウイルス薬のゾフルーザに関して、

投与患者の多くと未投与患者から耐性ウイルスが検出されたのを受け、

日本感染症学会が使用基準を策定するそうだ。

 

報道によれば、

「A型に使用すべきでない」という意見も出たらしい。

 

それ自体に異論があるわけではないのだが、

重大な論点が無視されているように感じる。

 

そこで、その論点について『医薬経済』誌2月15日号に書いた拙稿を、

同誌のご厚意で転載することにする。

 

2月初旬の情報で書かれていることだけ、ご留意いただきたい。

(以下『医薬経済』2019年2月15日号より転載。許諾番号:z32325)

 

ゾフルーザを誰が殺すのか ~ 濫用の陰にPMDAの不可解な判断

先駆け審査指定制度の適用第1号として昨年2月に承認され、

今冬から本格登場となった

抗インフルエンザウイルス薬の「ゾフルーザ」(塩野義製薬)が、

一気にジャンルの中で5割近い数量シェアを獲得し品薄になっているのは、

皆さんもご存じのことと思う。

 

1回経口だけで済むというゾフルーザの内服方法は、

ライバルである「タミフル」の1日2回経口5日や

「イナビル」の1回吸入と比べて、明らかに使い勝手がいい。

 

夢の薬であるかのように報じるマスメディアもあり、

踊らされた患者が処方を希望するのは、わからないでもない。

 

だからといって、シェア5割は異常だ。

 

使用実績が少なく、

治験でタミフルと同等の効き目しか示していないのに

1治療あたりの薬価がタミフル後発品の3.5倍にもなる。

 

つまり、ほかの薬と比較衡量すれば優先順位が低くなるはずのものを、

見境なく処方してしまう医師たちの見識を疑わざるを得ない。

 

案の定と言うか、早くも耐性株が検出されており、

せっかくのピカ新を、この先何年も使い続けられるのか、

心配になってくる。

 

ただし今回に関しては、

現場の医師たちだけに責任を押し付けるのはフェアでない。

 

医薬品医療機器総合機構(PMDA)が、

踏めたはずのブレーキを踏まず、

それが医師たちの不見識な行動を後押しした。

 

審査報告書には書かれているのに、

添付文書やRMP(リスクマネジメントプラン)からは

省かれている大事な情報があるのだ。

 

効かないリスク

審査報告書から引用しよう。


――B型インフルエンザウイルスに対する臨床上の有効性については

      製造販売後に引き続き積極的に情報収集するとともに、

      新たな情報が得られた場合には医療現場に提供する必要があると考える(66頁)。

 

――製造販売後において、以下の点についても、情報収集する必要があると考える。

      ●B型インフルエンザウイルス感染症に対する有効性について(67頁)。

 

なぜこんなことが書いてあるかと言えば、

承認の決め手となった国際共同第Ⅲ相試験(被験者の8割は日本人だが)の結果が、

予測と異なっていたからだ。

 

A型またはB型のインフルエンザで

症状緩和までの期間がプラセボと比較して有意に短縮しており、

事前に設定された主要評価項目は達成していたものの、

部分解析すると対B型では逆に期間が延びていたのだ。

 

ちなみに非臨床試験でも、

細胞中でウイルス抑制作用を示す薬剤濃度が

対A型と対B型で1ケタ違っており、

効き方が違ったのを偶然とは言い切れない。

 

公平のために書いておくと、

ゾフルーザがB型に効く、と解釈できるデータも出ている。

 

同じ第Ⅲ相でウイルスが検出されなくなるまでの期間は

対B型でも有意に短縮しており、

また国内第Ⅱ相では対B型も症状緩和までの期間が短縮していた。

 

取材に対してPMDA広報課の担当者は、

「審査報告書の記述が誤解を招いたかもしれませんが、

PMDAとしてはゾフルーザがB型に効かないかもしれないとは考えていません。

型ごとの部分解析は、あくまでも副次的に探索として行ったもので、

その結果から科学的に何かを導き出すことはできないからです。

今回の判断は、専門協議や医薬品部会の専門家にも支持されています」と言う。

 

主要評価項目を達成している以上、

PMDAに承認を保留するという選択肢がなかったのは理解できる。

 

それでなくとも、

政権肝いりで始まった先駆け審査指定の第1号だ。

 

ただPMDAの審査員としては、

申請データだけからはB型に対しても間違いなく効くと確信を持てず、

だからこそ審査報告書にわざわざ注記したのだろう。

 

医薬品審査官の経験もある東京大学大学院薬学系研究科の小野俊介准教授は、

昨秋開催されたシンポジウムで

「業界の人たちは、医薬品の最大のリスクが副作用であるかのように言いますけれど、

違いますよね。最大のリスクは、効かないことですよね」と発言した。

 

そのとおりだ。効くと信じられるからこそ、

薬の費用や副作用が正当化される。

 

効かないなら、費用や副作用の分だけ、

プラセボよりもタチが悪い。

 

B型への有効性について情報収集が必要だと審査報告書に書いた以上、

PMDAは、社会に対して注意喚起して

情報収集への協力を呼びかけなければおかしい。

 

それなのに添付文書やRMPに一言も書かせていないのは、

既述のとおりだ。

 

PMDAの最大の存在意義は、

社会や患者の利益を守ることのはずだ。

 

何も知らせぬまま、

社会や患者を「効かないリスク」に、晒すつもりだろうか。

 

もしPMDAが注意喚起していたなら、

臨床現場では迅速検査で

ウイルスの型を確かめてから使おうと考える医師が増えただろうし、

あまり感度のよくない迅速検査をするくらいならと、

ほかの薬を選んだ医師も増えただろう。

 

恐らく、シェア5割には、ならなかった。

 

注意喚起が、塩野義にとって不当ということでもない。

追加で治験を行って、

B型にも明らかに効くというデータさえ出せば、誰も何も言えなくなる。

 

現実には塩野義は、

追加の治験なしに同じ状態を獲得した。

 

PMDAの不可解な判断が、

塩野義に大変な利益を生み、今後も生むことは明白だ。

 

結局は書いただけ

 

添付文書やRMPでB型への有効性に関する注意喚起を行っていないことについて、

PMDA広報課の担当者は、

「審査報告書に書かれていた情報収集にあたるのは、

RMPの8頁にある『使用成績調査』です。

B型とは書いていませんけれども、

調査対象にはB型も当然含まれます」と言う。

 

塩野義広報部からも、

「(前略)B型インフルエンザウイルス感染症に対する

一定の有効性が期待できると考えるため、

有効性に関する検討事項として設定していません。

一方で、情報収集は必要であると考えているため、

現在実施中の『使用成績調査』において、

ウイルス型別に安全性及び有効性の解析を行う計画となっております。

B型インフルエンザウイルス感染症患者における有効性についても解析、

考察を行ったうえで、医療現場へ情報提供を行う予定です」とのコメントを得た。

 

使用成績調査で、

有効性に関する情報をどうやって集めるつもりなのか、

教えてほしい。

 

大抵は放っておいても自然に治る疾患なのだから、

二重盲検でプラセボと比較しない限り、

薬が効くかどうかの判定など絶対できないことは、

PMDAが一番よく知っているはずだ。

 

アリバイのように審査報告書にだけ懸念を書いて、

実効性のあることは何もしない。

 

PMDAは誰のために仕事をしているのか。

 

効くというデータと効かないというデータがある。

だったら白黒ハッキリさせてほしいと考えるのが、

社会や患者の立場からすれば当たり前ではないか。

 

メーカーからの審査手数料に依存するという組織設計を見直さない限り、

彼らが社会や患者の利益第一で行動することは期待できないのかもしれない。

 

 

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