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“奨学金”を返済したのに希望する病院で働けない 医師が語る「地域枠入試は誰のため」

2019/06/23

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

この原稿はAERA dot.(3月13日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2019031100067.html

 

山本佳奈

2019年6月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

医学部受験生不正入試

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2月末、全国各地で行われた国公立大学医学部の前期入試。

 

昨年、東京医科大が、

私立大支援事業に選んでもらう依頼をした見返りに

文部科学省の前局長の息子を入試で合格させたとして、

同大学の前理事長と前学長が贈賄罪で起訴されるなど、

医学部における女子受験生や多浪生減点といった

不正入試が明るみになってから初の入試。

 

医学部受験生にとっては、

昨夏以降、複雑な思いを胸に抱いたまま、

受験に挑まれたことと察します。

 

裏口入学だけなら、

もしかしたら「まあ、裏口はあると思っていたよね」で

終わっていたかもしれません。

 

けれども、女子受験生を一律に減点していたという事実は

日本国内にとどまらず、

「女子差別である」と、米国や英国をはじめ、

世界各国で報道されました。

 

これら一連の報道や文部科学省の調査により、

女子差別や多浪性差別に隠された医学部入試における闇が

明らかとなることを期待したものの、

究明されたとは言い難いまま迎えた入試となったのではないでしょうか。

 

受験シーズンも佳境を迎えている今、

医師の偏在を解決するために、国や県が主導し、

2009年の導入以降、

大部分の医学部に設置された「地域枠」について、

自身の受験体験記も交えながらお話したいと思います。

 

■地域枠入試とは

「地域枠」とは、自治体から奨学金を得る代わりに医師になったら、

約9年間、当該の自治体で医師として勤務することを“約束”するものです。

 

仕組みは様々ありますが、

自治体の多くは、地域枠で入学した医学生に、

10%以上の年利で月20万~30万円の奨学金を貸し付けます。

 

医学部卒業時に、

借金が2000-3000万円にも上ることになりますが、

奨学金が支払われた自治体の指定された医療機関で

一定期間医師として勤務すれば、

奨学金の返済が免除されるという仕組みです。

 

医師になる夢を諦められなかった私は、

1年間だけ浪人して医学部を目指すことを決めました。

 

「私立の医学部に入るお金はない」

 

そう両親からはっきりと言われた私には、

国公立の医学部に合格するしか医師になる方法はありませんでした。

 

しかし、受ける模擬試験全てでD判定かE判定ばかり。

「地域枠は一般枠よりも偏差値が下がるから、医学部に入りやすくなる」

という噂を予備校で耳にしていた私は、

願書を出す際、

「医者になるチャンスが、ほんの少しでも広がるなら」と思い、

「地域枠」を本気で検討したのでした。

 

募集要項には、滋賀で働く意思や義務年限、

授業料や入学金が奨学金でまかなわれるということについての

内容の記載はあったものの、

奨学金返済時の利子のことなど

詳しい記載はなかったように記憶しています。

 

地元で医師として働けば、

奨学金を返済しなくていいという制度は、

親の負担も減るのでは、と少なからず魅力に思えたのでした。

 

けれども、生まれ育った滋賀にいるか分からない。

卒業後、滋賀にいたいと思うかどうかわからない。

県外に出てみたいと思うかもしれない――。

 

そう考えた私は、

地域枠を希望することをやめてしまいました。

 

■「19歳の私」に6年先の人生を決めさせる

医師になるまで、最短でも6年かかります。

つまり、「地域枠」を選択するということは

6年先の人生を決めるということ。

 

19歳の私にそんな先のことが、

分かるはずも想像できるはずもありませんでした。

 

今思うと、将来のことの約束を守る自信が私にはなかった、

というのが正直なところだったと推測しています。

 

医師になり、私は生まれ育った関西を離れました。

19歳の私と、25歳の私とでは、

見ている世界も見えている世界も考え方もまるで違います。

 

医学部の門すら叩いていない19歳に、

将来の勤務の仕方を決めさせるのは酷なのではないでしょうか。

 

奨学金給付を受けている地域枠の医学生数名に話を聞いたところ、

「年利に関する記載が入学願書になく、よくわからなかった」といった声や、

「卒後9年間の義務年限や、10%もの金利を考慮すると、

もっといい条件の奨学金があったのではないか」と漏らす医学生もいました。

 

文部科学省によると、

2017年には全医学部入学者の20%を占めるまでになっている

「地域枠」ですが、一方で、

過去11年間で地域枠の定員の1割以上を占める800人以上の学生が、

実際には勤務地に制約のない

「一般枠」の扱いになっていることが

昨年の厚生労働省の調査で判明しました。

 

つまり、「地域枠」の定員が埋まらなかったというわけです。

 

■制度の“離脱者”は「採用しないように」

厚生労働省は「地域枠」離脱者対策として、

病院側に、入学時の取り決めを違反した

地域枠卒業の医師を採用しないよう事実上の指示を出しています。

 

これは借金を返済した医師を含めて、です。

この結果、地域枠で入学した学生は、

借金を返済しても希望する病院で働けなくなってしまうというありさま。

 

さらには、地域枠の医学生が、

地域枠から離脱しないようにするにはどうすればいいか、

という議論すら行われているのです。

 

日本国憲法では就業の自由が定められおり、

就業場所を強制することはできません。

 

「地域枠」という制度は、

10%もの年利付きの奨学金という形でお金を押し付けて

多額の借金を背負せることで、

勤務先や居住地を選択する自由を奪い、

就業場所を強制していると見ることができるのではないでしょうか。

 

最近お会いした医師会の先生は、

「開業医の子弟をいれるための制度だよね」と、

はっきり言っていました。

 

「息子や娘が医師として地元に残って働いてくれるのは大変ありがたい制度。

それが地域枠の目的の一つなんだろうね」と。

 

現行の「地域枠」は、

医師偏在を解消することに特化されており、

若手医師の教育に対して

十分に注意が払われていないことが最大の問題だと思います。

 

地域医療が抱える問題は個別具体的であり、

医師偏在を解消するための数合わせにしかすぎない「地域枠」では、

地域医療に取り組む医師を集める解決にはならないのではないでしょうか。

 

 

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