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地域医療における薬物治療上の問題点~在宅医療の視点から

2019/07/06

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

つばさ薬局(宮城県多賀城市)
薬剤師 佐々木菜穂

2019年6月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

在宅医療薬物治療

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は宮城県で在宅業務を行っている薬剤師です。

私が今、地域で抱えている問題を

ある患者さんを通してご紹介したいと思います。


80代のAさん、

慢性疼痛でかれこれ10年以上

モルヒネを使用してきましたが、

先日「薬が分からなくなる事がある」との事で、

主治医より薬剤師訪問の依頼がありました。

 

ご自宅を訪問すると、

カロナール200mg 4500錠、モルヒネ10mg 1540錠 etc・・・

(Fig. 1 –(a), (b), (c))。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_109-1.pdf

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_109-2.pdf

 

宮城県は2011年に大震災を経験し、

手持ちの残薬には余裕を持たせるように配慮しています。

 

ましてやモルヒネは

そう簡単に処方してもらえる薬ではありませんので

ある程度の溜め込みは予想できます。

 

1回に処方されるカロナールが180錠に対し、

モルヒネは1330錠なので、

服薬状況が悪いのは圧倒的にカロナールなのですが、

薬の性質上、モルヒネの残にどうしても目がいってしまいます。

 

集めてくれた薬は、

あちこちのヒートに手を付けておりバラバラの状態、

数えるのに一苦労する状態になっております(Fig.2)。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_109-3.pdf

 

ベッドの上にはきちんとたたまれた洗濯物、

一方で床には髪の毛や米粒などの無数のごみと

埃に紛れて裸のモルヒネがポロポロと落ちています。

 

何度か訪問したことがあったのですが、

その時はここまでひどくはありませんでした。

 

Aさんは、モルヒネを服用する時間を理解し、

服用したら時刻をメモする習慣ができていましたが、

それができなくなって不安になり相談に至ったようです。

 

モルヒネの使用量の確認以外にも、

降圧剤が2種類処方されながら

家庭血圧が測定されていない事や、

褥瘡の発生などの問題がありました。

 

血圧管理については、

私が週に1回の在宅訪問時に測定させていただいたところ、

2週間ほど服薬していないにもかかわらず高くなかったため、

今後予測される服薬状況を加味した上で

情報提供・処方提案を行い、減薬となりました。

 

褥瘡の方は、

薬剤師である私がAさんのお尻を見て医師と相談をし、

軟膏を塗り創傷被覆材を貼り、現在目下奮闘中です。

 

治療を決定するのは、

医師と患者さん本人というのが基本ではありますが、

降圧剤を続けることのリスク・ベネフィットを

どんなに説明してもこの方自身は理解・判断できません。

 

褥瘡についても普通のケガくらいにしか認識できていません。

「本人にとって何が一番よいか」を念頭に医師と検討を行い、

本人が意思決定できるように支援を行います。

 

また、薬の管理を通して、

この方が抱えている様々な問題がわかりました。

 

室内歩行が不安定、

ベッドではなくこたつで寝ており1日中ほとんど動かない。

 

お風呂には調子のいい時だけ。

息子さんが一緒に住んでいらっしゃるので、

食事に困ることはないようですが、

パンやインスタントのスープなど、

栄養面での偏りが心配されます。

 

滑舌が悪いのは、

入れ歯をなくしてしまった影響が大きく、

自力では歯科受診できない状況です。

 

足元のふらつきは、

モルヒネなど薬の影響かもしれない。

 

でもそもそも筋力低下が著明です。

デイに行けば体を動かせるし、お風呂も入れます。

 

お昼ご飯は栄養バランスの良いものが出てくるでしょう。

動くことでお尻の褥瘡悪化も防げると思います。

 

聞き上手なAさんには

レクリエーションなど他者との交流も

楽しみにもなるんじゃないか。

 

いろいろな介護のサービスが思い浮かびました。

でも、当たり前ですが

「本人(または家族)が希望しないと」

介護サービスは介入できないのです。

 

Aさんは息子さんと同居しており、

受診の送迎はしてもらっていますが関係性は微妙です。

 

モルヒネがないと痛みが出てしまうので

病院には行かなくてはという認識はありますが、

Aさんご家族なりの生活ができており、

介護サービスを受ける認識にはなっていません。

 

加えて、息子さんの同意や

金銭面などの問題が立ちはだかります。

 

そもそも介護サービスに関する知識は

一般的にどの程度あるのでしょうか?

 

病気やケガがあれば

病院に行って治療する知識は皆さんあります。

 

介護保険証は手元に届いたけれど、

果たして介護のサービスとはどんなものなのか、

介護は寝たきりの方を

お世話するサービスだと思っている人もまだ多いように思います。

 

AさんとAさんの息子さんは、

「モルヒネを飲む以上の治療はない」と思っている傾向があり、

他科受診や介護サービスの利用などが進まず、

モルヒネを処方する医師と、

モルヒネを管理する薬剤師の私だけ受け入れていただけている状況です。

 

自分たちで介護サービスを受けたいと言えない、

受けられるサービスがあると知らない方が、

きっと地域には多数いると思います。

 

地域の医療を守る為には介護を充実させていく必要があり、

介護に関する地域の知識を高める活動を行っていく事、

薬剤師も医療と介護の橋渡しをする役割を担うことが

必要であると思います。

 

血圧を測ったり軟膏を塗ったりは

薬剤師でなくても誰でもできる事ですが、

在宅の場では、実際にはやれる人が誰もいないことがあるのが現状です。

 

そこにいる人がやらなくてはなりません。

また、専門家がそろっているとは限らず、

その場で解決できないことも多くあります。

 

その為、使えるカード(相談できる専門職)を

身近に増やしておく必要があります。

 

そしてなによりも思うことは、

薬剤師は、患者を守る医療人の一人として治療方法を模索し、

時に患者サイドに立って治療の意義を問い、

患者の決断を支えていく「覚悟」が必要なのではないかと思います。

 

 

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