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医療界と厚労省は若手医師を解放せよ ~医学部地域枠から専門医制度まで、ここまでくるともはや人権侵害~

2019/08/24

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

つくば市 坂根Mクリニック
坂根みち子

2019年8月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

医学部地域枠専門医制度

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【地域枠医学生の締め付け】

また遠路はるばる、

筆者のクリニックまで相談に来た母親がいた。

 

一般入試の地域枠で医学部に入学したご子息の相談だった。

1年前に私は、若い医師達にもっと自由を!

〜今、医学部の地域枠と専門医制度で起きていること〜

http://medg.jp/mt/?p=8478 (2018年8月MRIC)と言う文章を書いた。

 

地域枠というのは、

ざっくり言うと卒後一定期間決められた地域で働く代わりに、

貸与された奨学金の返済が免除されるという制度である。

 

この時の相談者は、

一般入試の地域枠の募集要項には

奨学金は一括返済すれば辞退可能と書いてあり、

細かい説明はなかったこと。

 

入学後に、親の介護の問題もあり地元に帰りたいと、

奨学金を返して地域枠を辞退しようと大学に相談すると、

そんな事で辞退は出来ないと、

何度相談するも受け入れてもらえないという話だった。


今回も同様だった。

入試前に問い合わせをしたこと。

重要事項の説明はほぼなかったこと。

奨学金が借りられてラッキーという程度の認識で選択したこと。

 

入学数年後に、徐々に実態が判明し、

奨学金の返済と地域枠離脱を申し出たところ、

大学側からきびしい「道義的責任」を持ち出され責め立てられていると。

 

現在すでに奨学金は一括返済したが、

大学の態度は変わらず、

息子を人質に取られているために

問題をオープンにして大学と戦うこともできないと言うことだった。

 

18歳の時点で当人が事態を理解して受験することはほとんどなく、

今回も「安易に地域枠を勧めた」と家庭内問題に発展し、

その点でも母親は自らを責め苦しんでいた。

 

この構図もまた前回と同様である。

そんな時、ダメ押しをするようなニュースが流れてきた。


2019年7月3日の医道審議会医師分科会医師臨床研修部会で、

2019年度から臨床研修を始める新卒医師で地域枠離脱者9人のうち、

都道府県等が離脱を妥当と評価していない学生を採用した5病院に対して、

医師臨床研修費補助金の減額等を行うことが決まったというのだ。


つまり、法的責任はなくとも、道義的責任は残る、

本人があくまで言うことを聞かないなら、

そんな研修医を採用した医療機関にペナルティーを課す、と言うことである。

 

両親と当の医学生は、ますます追い詰められ、

一度弁護士に相談するも

埒が明かず筆者のところまでやってきたということだった。

 

医道審議会の詳しい内容はm3の記事で知ることができた。

(臨床研修部会「採用が妥当ではない」

  5病院に補助金減額等
https://www.m3.com/news/iryoishin/686456  2019年7月5日) 

 

同記事のコメント欄では、

地域枠を離脱する医学生に対する、

現役の医師たちの辛辣な意見が並んだ。

 

免許ドロボーとか税金ドロボーとか、

成績が悪いのを上げ底して入学しているのだから、

地域限定免許で十分とか、言いたい放題である。

 

ようやく「入学時に示されていなかったペナルティーを後から課すことは、

極めて不適切。公的に、(地域枠を離脱した学生を採用した)病院に

ペナルティーを課すことで、地域枠卒業者の職業選択の権利を奪うことは、

人権侵害で、子どものイジメと同じレベルの行為に見える」と言う

極めてまともな意見が出てきたときはややホッとした。

 

【ずさんだった地域枠運用】

そもそも、地域枠の運用は極めてずさんであった。

 

地域枠は医師不足を受けて

近年激増(2007年度地域枠183人(2.4%)→2017年1674人(17.8%))したが、

入学総数を増やせるようになった程度にしか考えていなかった大学も多い。

 

現に、厚労省が地域枠の実態を調べたところ、

2008〜2018年度の11年間で、

定員の1割を超える800人余が埋まらず、

その分、一般枠の学生が増えていたという。

 

入試の段階では一般枠と区別せずに選抜し、

入学後に地域枠の希望者を募る「手挙げ方式」を行なっていたところも

多数あったというニュースが流れたのが2018年10月末のことである。


筆者が1年前に募集要項を確認したときには、

ほとんどのところで、

地域枠離脱には奨学金の一括返済が必要としか書いてなかった。

(ただしこれも問題で、

 例えば茨城では入学時に遡って10%の利息をつけて一ヶ月以内に一括返済、

 というような法的に問題があるレベルのものであった)

 

これでは、奨学金が借りられてラッキー程度の認識で

応募してしまっていることも十分あり得る。

 

こんないい加減な募集をしておきながら、

後出しジャンケンで「厳しい道義的責任」を課し、

楽しいはずの学生生活や、

幸せな家族の時間に水を差す「パワハラ」行為がまかり通っているのである。


地域枠で残ってほしいなら、

まず地域の研修を魅力的にし、

医学生が希望をもって、研修できる体制作りをすべきである。

 

少なくとも筆者の出身大学でもある筑波大は、

地域枠研修を魅力的にすべく努力しているようだ。

(国立大最大の義務年限付「地域枠」、その現状は? – 筑波大学https://www.m3.com/news/iryoishin/616125


残念ながら相談のあった事例では、

地域の魅力を語り労働環境を整えるより、

「道義的責任」をいう名の恫喝を行なっていた。

 

【地域枠学生名簿の作成と補助金減額】

厚労省にも問題がある。


厚労省は各大学から地域枠対象者の名簿を提出させ、

地域枠学生の一覧を研修病院に提供し、

2018年には採用時に

「研修希望者の臨床研修期間中の地域医療への従事要件等を必ず確認すること。

その際、該当する都道府県や大学が

従事要件からの離脱を妥当なものと評価しているかの有無を十分に確認すること」

という通知を出した。

 

名簿の作成と配布という個人情報の利用が許されるのか、

該当する都道府県や大学が従事要件からの離脱が妥当かどうかの判断自体が、

パワハラを生む温床になっていることをどう考えるのか。

 

大学や都道府県が妥当と判断しなければ、

就職もできず、できたとしても、

今度は厚労省が就職先の補助金が減額するぞ、と言っているのだ。

地域枠の学生・家族のプレッシャーは大きい。

 

【1%地域枠の離脱者に不寛容な医療界と
 厳格管理に走る厚労省】

それでは、いったいどれほどの離脱者が出ているのだろうか。


2019年度、地域枠制度利用者879人中地域枠離脱者はたったの9名(1.0%)、

2018年度も805名中離脱者はたったの9名(1.1%)だった。


厚労省は、奨学金は民法上の契約のため、

返済すれば、地域枠離脱はできることは認めている。

 

しかしながら「道義的責任」は残るので、

2019年4月19日、県や大学が離脱を妥当と評価していない

研修希望者を採用した臨床研修病院に対しては

補助金を減額する旨の通知文書を出し、

通知に従い今回初めて減額を決定したというのだ。

(厚生労働省 地域医療への従事要件等が課されている

 研修希望者を採用決定した医療機関への 対応についてhttps://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000525283.pdf


厚労省が地域枠の学生一覧を作成し、

それを各病院に配布して、

地域枠の対象者から地域枠外の医療機関への申請があっても

認めないように厳格な管理を言い出したのは2017年のことである。

 

医師不足と偏在の問題が顕在化し、

専門医制度と併せて、

若手の医師の研修システムを偏在対策の切り札とする方向で、

医療界全体が強硬姿勢に転じたのである。

 

完全な後出しジャンケンで、

入学時の説明責任を果たしていない。

 

これほどの強い締め付けを知っていたら

地域枠を選ばなかった学生も多いはずだ。

 

すでに道義的な責任と言う名の「パワハラ」が

一部の大学で横行している。

 

これを厚労省が後押ししている構図である。

 

【法的にはどう考えるか】

m3の記事によると、

審議会のメンバーのひとりである

和歌山県立医科大学理事長・学長の岡村吉隆氏は、

「(学生の行為は)倫理観がないと思う。

 大学として、医師の倫理観を身に付けた者を卒業させるべき。

 卒業させないということもあるのでは」とまで言っている。

 

あまりの法的知識の欠如に開いた口が塞がらない。


2002年に看護学校の修学金貸与と見返りに

お礼奉公を強要した事例が裁判になっていたが、

その裁判では、

「貸与契約は、原告が経営する病院への就労を強制する

 経済的足止め策の一種であるといえ、

 労働基準法14条及び16条の法意に反するものとして違法であり、無効」

と判断されている。


労働基準法16条は、

労働者に退職の自由を保障する観点から、

労働契約の不履行について違約金を定め、

または損害賠償を予定する契約をすることを禁止している。

 

また、同法14条は、不当に人身を拘束し、

強制労働を防止する観点から

1年の期間を超える労働期間を定めてはならないとしている。

 

そもそも地域枠では、

奨学金返済免除のために

指定の医療機関で働かなければならない期間が

奨学金貸与期間の概ね1.5倍(9年間)と非常に長い。

 

世界的に見ても他に類を見ない拘束期間の長い制度である。


今回は、奨学金はいずれも返還した上での離脱を求めているのである。

どのような正当性をもって、

この件にペナルティーが課せられるのか、全く理解できない。

 

筆者は、相談事例には、

全て記録を残すようにお話ししている。


入学時の募集要項の保存、

いつどのような話し合いがなされたか、どう言われたか、

特に、学生を恫喝するような担当者の元では、

進級や就職に不利益が生じる恐れが十分になり、

今の時点では公に戦えない。

 

私のところに相談があるのは氷山の一角で、

このような状況の学生が全国にたくさんいると思われる。


今後弁護士と相談しながら、

事態への対処法を考えていく手はずになるだろう。

 

【若手医師を偏在対策のために潰す愚行】

一般入試の地域枠は

点数のかさ上げをされて入れてもらっていると誤解している人が多いが、

そうではない。

 

一部の推薦枠で教授の子弟が多いとか、

一部の地域枠で点数が低いという話も聞くが、

私のところへ相談に来た学生は、大抵成績優秀である。

 

入試の点数開示でも高得点を取っている。

むしろ、入学してから「地域枠」が一段と低く見られていることを知り、

本人たちが愕然としているくらいである。


医学部は理系のトップが入ってくることが多い。

彼らは日本の宝である。

 

その頭脳が一番柔軟な20代に居住の制限をかけ、

進路の制限をかけ、

研究者への道や海外での勉強の道を閉ざして地域に縛り付けるとは、

なんと愚かな近視眼的なことをしているのだろうか。

 

また、女性医師が働きながら結婚して子供を産み育てる環境は、

まだまだ全く整えられていないが、

その状況で、パートナーと一緒に住むため、

出産場所や保育園の確保や親からのサポート受けるため、

もしくは親の介護のための変更の自由を一切与えない制度は、

若手医師の未来を潰しているのである。

 

1%の離脱者の陰には表に出てこない抑圧者が

たくさんいると考えたほうがいい。

 

【1%どころではない専門医制度の問題】

専門医制度も同様である。

 

2018年度から開始された専門医制度は

「循環型プログラム制」という名の偏在対策で、

医療機関を転々としながら、

決められたプログラムに沿って、

決められた年限研修しなければならない。

 

日本専門医機構は、多くの反対にもかかわらず、

制度の根幹に関わる

「指導体制の整った良いプログラム」かどうか検証をしないままに、

不良品のプログラムを認定し見切り発車した。

 

これに90%以上の研修医たちが登録をせざるを得ないのである。

プログラムの2年目で4割近く、

3年目で5割以上の勤務地が未定(もしくは無回答)のプログラムで

どうやって「質が担保」されるのか、

単独医療機関での研修を認めない「転々と移動し続ける研修」で、

人生のイベントとどうやって両立させれば良いのか。

 

最短で30歳過ぎて

ようやく専門医になれる負担の大きい内科や

外科の志望者は当然のことながら減っており、

科の偏在と地域の偏在が加速している。

 

それに対して、専門医機構と厚労省がやっていることは、

「希望者が多く集まる地域にシーリングをかける」という

事の本質からずれた対策のみ。事態は深刻である。


参考:若手医師を奴隷化する”新専門医制度”の闇
このままでは”医療現場が崩壊”する2019.1.31 プレジデントオンラインhttps://president.jp/articles/-/27385?display=b&fbclid=IwAR3qMyNb8F8y6dQjYr66s6dg-zusSUlmqrp1GG5MfGm5pLftghg6dC833pw

 

【海外医学部ルートにも忍び寄る悪手】

さらに最近海外医学部進学組のリターン制限を

窺わせるようなニュースを聞いた。


(海外の医学部卒で医師になるルート、「議論をしていく必要」と厚労省の佐々木課長

http://chuikyo.news/20190718-kaigai/?fbclid=IwAR1v8sRLRXwv-qJKZsskMxkOlNH0FuKNuIfKp3hbM3e25MtETMRFxC_90mc)

 

自腹で外国の医学部に入学し、

厳しい環境でもまれ、英語が話せて、

国際感覚を身につけた医学生が

日本に帰ってきて医師として働いてくれるなら、

これほどありがたいことはない。

 

このような人材を欲しい国はたくさんあるだろう。

国内の就職に制限をかけて、

みすみす人材の流出を促すようなことは決してやってはいけない。

 

これを制限するような動きがあることに驚愕してしまう。

全く日本の石(医師)頭には驚かされる。

 

【全てにおいて若者優先に。
 彼らの進路を塞いではならない】

異次元のレベルの少子高齢化で衰退期に入ってしまった日本において、

起死回生の一手は、全てにおいて若者を優先させることである。

 

地域ごとに医師の充足を願う時期はとうに過ぎてしまった。

そこは、リタイア医師たち、

もしくは私達、中高年医師達が頑張るしかない。

 

今は貴重な若者を日本全体でサポートし育てるしか、

日本が生き残れる道はない。

 

1%の離脱者を厳罰化したり、

90%以上の若手医師の人生を制限したりしている場合ではないのである。


最後に、医師の働き方を含め、

「医療界は無法地帯」と言われぬよう、

厚労省の医系技官と医療界のリーダーは

基本的な法律くらいは勉強していただきたいものである。

 

参考
厚労省による医師管理の厳格化は正しい道か

~これは研修医奴隷制度ではないのか〜 ハフポスト 2017年10月30日https://www.huffingtonpost.jp/michiko-sakane/doctor-control_a_23260137/


医師の強制配置は自殺行為

~医療集団としてのプロフェッショナルオートノミーはどこ 2017年12月18日 ハフポスト

https://www.huffingtonpost.jp/michiko-sakane/doctor-placement_a_23310146/

 

 

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