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医薬品の「禁忌」を考える

2019/09/19

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

薬剤師(宮城県仙台市)
橋本 貴尚

2019年8月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

医薬品禁忌

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回は、普段の仕事の中で

医薬品を評価する際に考えている点につきまして

紹介させて頂きます。

 

医薬品評価の現状は複雑さと不透明さを増しています。

これについて、皆さんと少しでも情報共有できれば幸いです。

 

我々医療従事者にとって、

「禁忌」は聖域のように感じてきました。

 

しかしながら、昨年から

「禁忌」の項目が改訂されている事例が相次いでおります。

 

以下に例を挙げます。

尚、適応外使用としてルールに基づいて

禁忌使用を行う場合がありますが、

本稿では触れません。

 

例1.「妊産婦禁忌」解除の事例:プロポフォール、他(2018年3月)


プロポフォール注射剤(ディプリバン、他)が

2018年3月に(参考:医薬品医療機器総合機構(以下、PMDA) 調査結果報告書)、

タクロリムス水和物(プログラフ、他)や

シクロスポリン(サンディミュン、他)アザチオプリン(イムラン、他)が

2018年7月に「妊産婦禁忌」が解除されました

(参考:医薬品・医療機器等安全性情報No.355)。

 

この話題は医療従事者向けニュースで大きく取り上げられました。


本稿では、プロポフォールについて考えます。


プロポフォール注射剤が

妊産婦禁忌解除になったという話を知ったとき、

僕は、2014年2月に起きた、

大学病院にて男児にプロポフォールを投与し、

死亡した事件を思い出しました。

 

そして、

「妊婦って、お腹に『子供』がいるよな?小児は『禁忌』のままで、

妊産婦は『禁忌解除』?気持ち悪いな」と感じました。

 

プロポフォールの調査結果報告書

(平成30年3月1日資料、PMDAホームページより)を参照すると、

専門委員の見解として

「胎児・乳幼児にプロポフォール症候群が発現する可能性があり、

一定時間に限定して使用することを考慮すべき」と記載がありました。

 

しかしながら、改訂された添付文書には

こうした懸念は全く反映されておりません。


さらに、米国のDiprivanの添付文書

https://dailymed.nlm.nih.gov/dailymed/index.cfm 閲覧日:2019年8月17日)を

参照しますと、

プロポフォールで鎮静していた期間が長いほど

血中濃度の消失が遅いことが見て取れます(図)。

 

この理由は、薬物動態学的に3-コンパートメントモデル、

つまり、血中への迅速な分布と脳組織への迅速な分布、

そして各組織へのゆっくりとした分布の3種類の薬物分布が

混在しているからだと考えられます。

 

それが、プロポフォールの投与日数が長くなるにつれ、

血中濃度の消失が予測し難くなってくる理由と考えます。

 

こんなに大事な情報が、

日本の添付文書やインタビューフォームには記載されていないのです!


先述の専門家の見解、そして米国の添付文書が、

日本におけるプロポフォールの適正使用を補完する

重要な情報源となると考えます。

 

図.プロポフォール注射剤の投与終了後の時間(横軸)と血中濃度(縦軸)との関連
(Diprivanの米国添付文書より)

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_148-1.pdf

 

1時間の投与では比較的血中濃度が速やかに消失するのに対し、

10日間投与した後では、

血中濃度の消失に時間を要しているのが分かる。

 

最近の特筆すべき事項は、

厚生労働省

「妊婦・授乳婦を対象とした薬の適正使用推進事業」

ワーキンググループより、

「医療用薬品の添付文書における 妊婦禁忌の解除を希望する薬剤調査」が

各学会に要請があったことです

(例、日本呼吸器学会 http://www.jrs.or.jp/ 「2019年6月10日通知」、

他複数学会、閲覧日:2019年8月17日)。


この通知自体は否定していません。

 

むしろ、我々医療従事者の心構え、

つまり、「禁忌外したい薬、教えてね」といった

軽いニュアンスで医療従事者側が受け取ってしまうことを、

大変懸念します。

 

例2.タミフルの警告欄から「10代への使用を原則差し控えること」が削除(2018年8月)


この事例は「警告」に関する内容ですが、

事実上「禁忌」と見なしていたため、取り上げます。

 

2018年8月、オセルタミビル(タミフル)の警告欄から

「10代への使用を原則差し控えること」が削除されたことは、

僕にとっては衝撃的でした(表1)。


2007年に緊急安全性情報(イエローレター)が出て、

全国ニュースでも大々的に取り上げられ、

それ以降、我々は10代の患者さんには極力別の薬を出し、

薬の説明にも気を遣ってきました。

 

そうした状況でも、皆さんは

「異常行動は、タミフルとは関係ないんじゃないかな」と

感づいていたと思います。


それが、「あっ」という間に覆されてしまいました。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_148-2.pdf

 

表1.タミフルの「使用上注意改訂のお知らせ」
https://chugai-pharm.jp/product/tam/  閲覧日:2019年8月17日)

 

例3.「緑内障」禁忌→「閉塞隅角緑内障」禁忌への変更(2019年7月)


これは、該当医薬品が一斉に変更になっています。

PL配合顆粒を例に取り上げます(表2)。

 

薬剤師の立場としては、ふn

緑内障を見つける度に医師に

「一応、『緑内障禁忌』って添付文書に書いてありますが・・・、いいですよね?」と

疑義照会を行い、医師も薬剤師も「モヤモヤ」っとしていた状況に、

やっと終止符が打たれたのかもしれません。


本事例は、添付文書の中身が

臨床現場の感覚により即した内容に改訂されたという点で、

特筆点だと感じています。

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_148-3.pdf

 

上記以外にも、「コデイン類、12歳未満禁忌へ」も、

医療事故が背景にあり特筆すべきなのですが、

この辺りで筆を収めたいと思います。


本項の最後に申し上げたいのは、

「禁忌」を外すことも、設けることも否定していません。

 

医薬品の適正使用は

時代の要請に基づいて変わるものだと思います。

 

それに即した医療従事者の業務システムのあり方、

つまり、医師の指示に始まり、

適宜麻酔科医の介入や看護師の指示受け、

そして薬剤師の処方監査と疑義照会という

一連のシステムのあり方を

しっかりと検証し確立させていくことが最も重要である、

と強調させていただきます。

 

 

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