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形骸化した明治の「遺物」 対面診療の原則は必要か?

2019/10/08

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

秋田大学医学部医学科5

宮地貴士

 

2019912日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

東北 秋田県

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今月10日、

厚生労働省の審議会において

僻地でのオンライン診療に関する規制が

緩和されることになった。

 

これまではオンライン診療と言っても、

初診は対面という原則が存在した。

 

だが、新しいルールの下では、

離島や僻地に勤める医師が

急な理由で診療できなくなった場合に限り、

同じ2次医療圏に属する

他の医師が初診からでも

オンライン診療ができるようになる。

 

これは今年の2月に

秋田県の上小阿仁村で起きた

“無診察処方問題”を

踏まえたものだと考えられる。

 

村の診療所に勤める唯一の常勤医が

患者を診察せずに処方箋を発行してしまった一件だ。

 

当時、医師はインフルエンザに罹ったため、

診療所を閉鎖していたが患者が来てしまった。

 

そのため、看護師が診察し、

自宅で療養中の医師に

電話で確認した上で処方箋を発行した。

 

この問題の背景を調べるために

私は上小阿仁村に行ってきた。

 

医療規制緩和の必要性( http://medg.jp/mt/?p=8975 )や

へき地医療に従事する医師に求められる人物像・住民の医療に対する誤解

http://medg.jp/mt/?p=9006 )を考察した。

 

上小阿仁村の一件が

そもそも問題になったのは

医師法20条によって

“無診察処方”が禁止されているからだ。

 

そこにはこう書かれている。

 

「医師は、自ら診察しないで治療をし、

 若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、

 自ら出産に立ち会わないで出生証明書

 若しくは死産証書を交付し、

 又は自ら検案をしないで

 検案書を交付してはならない」。

 

だが、調べれば調べるほど、

この法律が非常に形骸化している実態が判明した。

 

地方のとある病院では

「家族診療」なるものが存在するという。

 

高齢で受診が困難な患者の代わりに

家族が処方箋をもらっていくのだ。

 

他の医師もインフルエンザ大流行シーズンに、

病院に来ることが大変な受験生のために

親に定期処方薬を出したことがあるという。

 

これらは完全に医師法違反である。

 

だが、摘発が進んでいないことを考えると

暗黙の了解となっているのだろう。

 

ある医師は言う。

 

「医師にとっても診察の時間が省け、

 患者側でもタイミングの合う家族が代わりに

 処方箋をもらうことができる。

 お互いのニーズを満たしているわけだから、

 これからもなくならないと思うよ。」

 

では、この法律は

一体誰のためになぜ制定されたのか。

 

そして、なぜ今でも残り続けるのか。

 

もちろん、医師は患者を直接診療した方が

より多くの情報を得ることができる。

 

会話の中で相手に与える影響のうち、

表情やしぐさなどの非言語情報は

9割を占めると言われている。

 

そのため、対面診療の必要性も

十分に理解ができる。

 

だが、これだけのために

法律で明記したとは考えられない。

 

法律が制定された

当時の社会的な背景を読み解く必要がある。

 

この法律は、1906年から施工された

旧医師法においても規定されている。

 

旧医師法の制定に向けて力を発揮した人々は、

ほかならぬ医師である。

 

特に、日本医師会の全組織、

大日本医師会はこの法律の制定のために

発足したといっても過言ではない。

 

日医創立記念詩には、

医師会発足の大きなきっかけは、

「薬剤師が医薬分業を求めて

 1893年から全国組織を結成し運動を始めたこと」

と明記されている。

 

医薬分業とは、

日本薬剤師会の定義によると

「薬の処方と調剤を分離し、

 それぞれを医師、薬剤師という

 専門家が分担して行うこと」である。

 

その目的は専門家が協力し合い、

患者にとって最適なサービスを提供すること、

とされているが、

これは単なる建前であり

実体は医師と薬剤師の患者をめぐる争奪戦だろう。

 

医師と薬剤師の資格が明記されたのは、

1874年に制定された「医制」である。

 

当時は、

両者の線引きが非常に曖昧だった。

 

医師も調剤行為を行い、

一方の薬剤師も伝統的な治療法を

患者に提供していた。

 

当時の医師は診察料よりも

薬剤料を頼りに生計を立てていたと言われている。

 

そこで医薬分業が進むと、

医師は薬剤料を徴収できなくなる。

 

もし仮に、

医師以外の者が処方を行うような事態になれば、

医師の立場や生活が危うくなる可能性がある。

 

そこで、診察だけは医師の特権として守るために、

医師法に規定したのではないだろうか。

 

今回のオンライン診療に

関する規制緩和は

大きな変化である。

 

だが、あくまで

「二次医療圏の医師が診察する」という条件を設けたのは、

地元の医師たちの利権を守るためだろう。

 

なぜ

秋田の患者を

東京の医師が診ることがダメなのか。

 

明確な答えは提示されていない。

 

そもそも医師不足が起きているからこそ、

限定的にでもオンライン診療を解禁したにも関わらず、

患者を囲い込むことでその地域の医師に

さらなる負担を強いることになるのではないだろうか。

 

その代償を受けるのは

ただでさえ過酷な労働を強いられている

若手医師なのは目に見えている。

 

さらに、こうしたルールを

全国で一律に議論することにも違和感を覚える。

 

同じ医師不足地域といっても、

地域によって現状は大きく異なり

医療のニーズも千差万別だ。

 

10万人あたりの医師数が最も少ない埼玉県と同じく

医師数も少ないが高齢化率が最も進んだ秋田県の医療を

同じ土俵で検討するのは無理があるだろう。

 

むろん、県内でも現状は大きく異なる。

 

例えば、

上小阿仁村では地元密着の看護師に対して

村民たちが絶大な信頼を置いている。

 

村民の一人は言う。

 

「この村の診療所のお医者さんは ころころ変わるけど、

 看護師さんはもう30年近く働いてくれているのだよ。

 ずっと村にいてくれるのはありがたいよ。」

 

だからこそ、

村の診療所が閉鎖しても

3日間で合計46人もの村民が診療所に来たのだろう。

 

このような地域であれば、

慢性疾患に対する定期処方薬は

看護師が処方するのでもいいのではないだろうか。

 

「対面診療の原則」という非常に形骸化した法律を根拠に、

 明治から続く医師の利権が守られていく現状は、世も末だ。

 

 医療のプロフェッショナルとして

「患者ファースト」の視点を取り戻す必要がある。

 

 

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