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製薬企業の“手下”になりかねないがん専門医 -専門医の7割が謝礼受け取り、権威と呼ばれる人ほど多額に-

2019/11/12

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

この原稿はJBpress Premium925日配信) からの転載です。

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57711

 

常磐病院 外科

尾崎章彦

 

2019108日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

 

あなたが医者にかかる際、

当然医者はあなたの病状や薬剤の科学的根拠に基づいて

ベストな治療を提案してくれていると信じていることだろう。

 

 

しかし、もし医者が、あなたの病状ではなく、

製薬企業からの謝金や高級弁当に基づいて

処方を決めていたとするならばどう思うだろうか。

 

これは決して絵空事ではない。

 

現に米国においては、

Open Payments Program(オープン・ペイメント・プログラム)」の開始以降、

製薬マネーによって、製薬企業を利するような処方が増加したことが

様々な系統の薬剤において明らかとなっている。

 

このような製薬企業と医師の金銭的な関係が

とりわけ問題となる疾患群の一つががんである。

 

他の疾患と比較した際、

一つひとつの薬剤の価格が高く、

その効果や安全性が患者の命にダイレクトに影響するからである。

 

このような背景のもと、

私たちの研究グループは、

がんの薬物療法を専門とする医師に

どの程度の謝金が支払われたかを

明らかにするために調査を実施した。

 

その結果が、

20199月に英国の医学誌

BMJ Open(イギリス医学誌オンライン版)」に掲載されたので、報告したい。

 

医学論文

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調査において対象としたのは、

20164月時点で

日本臨床腫瘍学会が認定する

がん薬物療法専門医だった医師1080人である。

 

彼らが、2016年度に日本製薬工業協会に加盟する

78社から支払われた謝金を調査した。

 

 

具体的には、

医師向けの講演会や勉強会の講師を務めたことに対して支払われる謝金、

製薬企業からの委託で文章を執筆したことに対して支払われる謝金、

さらに、

製薬企業が販売する医薬品に対してのコンサルティング事業に対して支払われる謝金である。

 

なお、これらの企業は

日本の医薬品の売り上げのおよそ81%を占めている。

 

調査の結果、

1080人のがん薬物療法専門医のうち763人(70.6%)が

謝金などを受け取り、その総額は58500万円に達していた。

 

また、受取金額の中央値は12万円だったが、

142人の医師が合計100万円以上を受け取っていた。

 

以前、私たちが

5つのがん分野の診療ガイドライン委員会にわたった謝金を調査した際は、

326人のうち255人(78.2%)が最低1回は謝金を受け取っており、

その総額は37800万円に及んだ。

 

診療ガイドライン委員会は

特定の領域・疾病の治療の推奨度決定に絶大な権限を持つ。

 

そして、このような推奨度は

同分野の医師における処方頻度に如実に影響する。

 

本調査の結果、

専門医は診療ガイドライン委員会には及ばないものの、

製薬企業と極めて強い金銭関係にあることが示唆された。

 

なお、がん薬物療法専門医に

支払われた総額の79.9%に当たる46800円は

医師向けの講演会や勉強会において

講師を務めたことに対して支払われた講師謝金だった。

 

製薬企業にとって、

このような催し物は販売促進活動の中心である。

 

なぜならば、「その領域を専門とする医師を一網打尽にできるから」(製薬企業社員)だ。

 

典型的なパターンは以下の通りだ。

 

有名医師の講演をダシに

全国から医師を都内のホテルに招く。

 

講演会の後には、

参加者を対象に別室の懇親会で食事が振舞われる。

 

なお、交通費のほか、宿泊先が手配されることもある。

 

結果として、

講師謝金をはるかに上回る製薬マネーが

販売促進に用いられている。

 

加えて、興味深かったのは、

そのような謝金を多く受け取っていた医師の特徴である。

 

端的に言うならば、

大学病院やがんセンターに勤務するベテランの医師である。

 

日本の医学界において、

大学病院は権威を象徴し、

がんセンターはときに大学病院以上に

多くのがん患者を治療している。

 

製薬企業が、権威や症例数などを考慮しながら、

医師に講師をはじめとする仕事を依頼していることが伺い知れる。

 

加えて、男性医師と女性医師の謝金を比較したところ、

女性医師は、男性医師の半分にも満たないような謝金しか受け取っていなかった。

 

理由はいくつか考えられる。

 

一つは、

女性医師の大多数は、

自宅でも家族や子供の世話などを担当しており、

平日の夜間や休日に開催される講演会において

講師を務めるような時間がない可能性である。

 

2に、

大学病院やがんセンターなどで

責任ある役職に従事しているような女性医師が

少ないであろうことである。

 

3に、

製薬企業が女性医師よりも

男性医師を好んで講師の職を

依頼している可能性が挙げられる。

 

日本の医学界において、

製薬マネーの配分においても

大きな男女格差が存在していることが分かる結果であった。

 

次に、どの領域に製薬マネーが

多く配分されているか見てみよう。

 

最も多かったのは呼吸器領域であり、

総額の37.0%に当たる21700万円が配分されていた。

 

肺がんは

現在日本人を最も苦しめているがん腫と言っても過言ではない。

 

2016年、肺がんは

男性においては最大の死因であり(52430件)、

女性においては第2の死因であった(21408件)。

 

そのような背景もあり、

最近だけでも複数の会社が新薬の販売を開始している。

 

例を挙げれば、

中外製薬のアレセンサ(2014年)、

ベーリンガーインゲルハイムのジオトリフ(2014年)、

小野薬品のオプジーボ(2015年)、

ノバルティスのジカディア(2016年)、

アストラゼネカのタグリッソ(2016年)、

MSDのキイトルーダ(2016年)などである。

 

 

そのような新薬の販売を促進するために

各社がしのぎを削っているわけだ。

 

また、謝金の支払い総額が

最も多かったのは中外製薬で、

その支払額は、総額の17.8%に当たる1400万円だった。

 

そのうち33.5%(3500万円)が消化器領域に、

31.7%(3300万円)が呼吸器領域に、

17.0%(1800万円)が血液内科領域に、

12.0%(1100万円)が乳がん領域に配分されていた。

 

中外製薬は、

アバスチン(624億円)やハーセプチン(231億円)を軸に、

2016年に50億円以上を売り上げた薬剤を8種類抱えている。

 

 

そして、それらの薬剤のうち

4種類、3種類、1種類、5種類が

それぞれ消化器領域、呼吸器領域、

血液内科領域、乳がん領域の治療に用いられている。

 

中外製薬においては、

製薬マネーの支払いが

様々な領域において

自然と増加する土壌が整っているのである。

 

http://expres.umin.jp/mric/mric_2019_172.pdf

 

もちろん製薬マネーの受け取り自体に法的な問題はない。

 

しかし、医師としては

製薬企業のステルスマーケティングのお先棒を

担いでいることになる。

 

また、製薬マネーによる処方への影響は、

本人の無自覚下に生じると指摘されている。

 

すなわち、

本人は中立的な立場で処方を行なっているとしても

知らず知らずのうちに特定の製薬企業を利する処方を

行なっている可能性があるのだ。

 

製薬企業が主催するような催し物に参加していながら、

中立的な立場で処方を行なっていると主張する医師もいるだろうが、

このような指摘を認識する必要がある。

 

ではどうしたらいいだろうか。

 

筆者は、

このような講演会のあり方を

抜本的に見直すべきと考える。

 

交通費や宿泊の手配などは

すべて取りやめて参加したい医師が

手弁当で参加すればいいと思う。

 

また、医師に講師を依頼することはやめて、

製薬企業の社員自身が該当する薬剤について

発表してはどうだろうか。

 

「最近は製薬企業が準備したスライドを

 そのまま使って講演を実施することを求められることも多い」

(がんセンター中堅医師)と言う。

 

有名医師の発言力に期待して

講演をお願いしていることは分かるが、

このような有様では、

かつて医師のあるべき姿を

説いたヒポクラテスも泣いているだろう。

 

少しでも良い治療をと

藁をもすがる思いでがん患者さんは

主治医を頼っている。

 

私たち医師は

そのような思いに応えられるよう

自身の身を律する必要がある。

 

 

 

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