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中国人医師として外国人患者が押し寄せる救急医療病院の現場で思うこと

2019/12/14

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。 

 

都立墨東病院

大橋浩一

 

20191118日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

 

私が勤務する都立墨東病院には

昼夜問わず多くの外国人患者が受診する。

 

循環器内科医としての日常診療の傍ら、

華人である私のもとには

緊急での中国語通訳の依頼が来る。

 

先日あった事例を紹介したい。

 

多種多様な人

 

 

 

 

 

 

 

 

患者は60歳代の女性で、

路上で意識を失い

当院の高度救命救急センターへ搬送された。

 

完全房室ブロックという

脈が非常に遅くなる不整脈による失神と診断され、

脈を回復させるため一時的ペーシングという機械が挿入された後、

意識を取り戻した。

 

引き続きペースメーカーの植込み手術を行う必要あった。

 

この女性患者の娘は

10年以上前に中国から仕事のため来日し、

日本人男性と結婚して永住権を獲得していた。

 

現在は仕事をしながら子育てと

家事に追われている。

 

娘を手伝うため

中国から母親である患者が

定期的に来日するようになり、

今回も1週間前に来日していた。

 

患者は娘が不在の間に買い物をしようと外出し、

路上で意識を失い倒れたところを発見され、

救急搬送されて一命を取り留めた。

 

今回の治療では

300万円ほどの支払いが必要となる。

 

しかし、

彼女は日本で使える医療保険に

加入していなかったため、

この費用が全て自費になってしまう。

 

「娘1人では支払ができない」と言う。

 

都立病院の場合、

このような経緯で発生する未払いによる赤字は

都民の「税金」で補填されるため、

未払い極力抑えようとする。

 

私は、中国語でペースメーカーの必要性と

植込み後の注意点について説明した後に、

必要になる医療費についての説明を付け加えた。

 

すると患者本人がペースメーカーを植え込んだ後

すぐに退院すると言い出した。

 

機械本体の費用と最低限の入院費だけであれば払えるそうだ。

 

確かに入院日数を減らせば入院費が抑えられる。

 

しかし、ペースメーカーが体外に露出する危険性や、

そこからの感染・出血のリスクがありとても危険である。

 

何より、植込み直後にペースメーカーが

機能不全になる可能性もあり、

この患者の場合そうなると致命的である。

 

中国語で丁寧に説明すると

入院の必要性を良く理解したようだったが、

娘は顔を曇らせて帰って行った。

 

翌日病室を訪ねると、

状況は娘が日本人のご主人に相談して

入院費の支払いを快諾されたということであった。

 

結局、手術を施行し経過観察後に退院して、

中国の病院でフォローアップを受ける方針となった。

 

私達は可能な限り安価な機種を選択し、

合併症が起こらないように

細心の注意を払ってペースメーカーの植え込みを行い、

中国の病院宛の診療情報提供書を持って

1週間後に退院となった。

 

外国人旅行者が無保険で入国し、

日本滞在中に病気やケガで病院にかかった際の

医療費が未払いとなっているケースが増加している。

 

観光庁の調査では、

訪日客の約27%が保険未加入で入国している。

 

また、厚労省の調査によると、

2018年度に訪日客を受け入れた医療機関のうち、

およそ2割の医療機関で医療費の未払いがあった。

 

放置すれば死に至る可能性がある患者を目の前にして、

医療機関は支払い能力がないことを理由に

治療を拒む事はできない。

 

支払えそうもないからといって

医療機関が診療を忌避して押しつけ合うようになると、

病人はより重症化し、

最終的に病院の損失はさらに大きくなる。

 

医療費が高額になることが見込まれる場合には

前払いを求めたり、

親族からの国際送金や、

金融機関からの借り入れを促したりと対策を取っているが、

なかなか上手くいかない。

 

病院として他にできる対策はないだろうか。

 

今回紹介した事例は示唆的である。

 

中国語ができるスタッフが病状と

入院の必要性について細かく丁寧に説明することで、

患者側の病状と必要な治療に対する理解が深まった。

 

また、具体的にかかる金額の概算を明示することで

家族からの協力を得ることができた。

 

私はこのケースは

医療通訳の有用性を示していると考える。

 

医療通訳の存在が

外国人に対する医療を円滑に進めた例は多い。

 

神奈川県では1993年から、

県が損失を受けた医療機関に対して

その一部を補填する制度ができている。

 

その補填額が医療通訳制度の始まった

2002年をピークに大きく減少に転じ、

直近4年間の平均は

20万円とピーク時の100分の1程度まで減少している。

 

つまり、外国人労働者による医療費の未払いは

劇的に減ったのである。

 

通訳が入ることで

外国人患者が早期に病院を

受診できるようになったこと、

病院の医師も言葉が分かるので迅速な診断ができ、

結果として医療費が少なくて済むようになったことなどが大きいだろう。

 

2020年の東京五輪・パラリンピック開催を直前に控え、

医療機関での外国人のトラブル防止のために、

医療通訳の存在意義を見直し、

特に外国人が多く受診する病院では

重点的に配備する必要があると思われる。

 

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