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新型コロナウイルス感染症が不安の患者に対して応招義務はない

2020/02/27

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

井上法律事務所所長 弁護士

井上清成

 

2020218日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

 

弁護士からの発信

 

 

1 COVID-19の国内感染への備え

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する報道が過熱している。

 

 

中国での死者は1300人を超え、

感染者は4万8000人を超えているらしい(2月13日時点)。

 

 

新型コロナの報道に圧倒されていて目立たないが、

米国ではインフルエンザが猛威をふるっているようでもある。

 

 

ところが、国内はというと、

クルーズ船は注目されているが、

それ以外は極めて冷静といってよいであろう。

 

 

パニック状態ではないようであり、

それ自体は結構なことである。

 

 

ただ、今は表面には出て来ていないが、

すでに国内での感染が密かに進行していたとしても

何ら不思議なことではない。

 

 

すでに初期から

国内感染拡大期に移ってきていることもあり得よう。

 

 

いずれにしても、

今後の国内感染の拡大への備えが必要とされている。

 

 

2 新型コロナの他の病者への感染阻止

 

新型コロナは、

今のところ、感染力はほどほど強いが、

幸い、強毒性ではないらしい。

 

 

インフルエンザと対比されることも多い感染症なので、

新型コロナウイルス感染症が不安な患者や家族も、

インフルエンザの場合と同様の振る舞いをすることが推奨されよう。

 

一例として、

現に、その予防のために

手洗い等の励行が叫ばれているのは周知のとおりである。

 

 

それらの諸対策と共に、

少し法的に見れば特に重要なのが、

他人に害悪をもたらさないことであろう。

 

 

つまり、

新型コロナウイルス感染症の(不安な)患者が

他の人に感染させないように努めることである。

 

 

他の人と言っても、

特に重要なのが、他の病者である。

 

すでに新型コロナ以外の病気

(がん、糖尿病、高血圧症、喘息・肺炎その他の呼吸器疾患、その他諸々)

に侵されている人々に、

新型コロナを感染させないように

努めることにほかならない。

 

 

それらの病者が多く集まるのは、

市中の病院・診療所である。

 

 

つまり、新型コロナウイルス感染症(が不安な)患者は、

できる限り市中の病院・診療所へ行かないように

努めることが大切だと言ってよい。

 

 

他の病者のその病気が、

新型コロナによって

重篤化しないようにしなければならないのである。

 

 

3 新型コロナが不安な患者はどうすればよいか

 

新型コロナウイルス感染症が不安な者は、

みだりに市中の病院・診療所を受診しないように努めなければならない。

 

 

この点、厚生労働省は、

新型コロナウイルス感染症の不安の窓口として、

保健所や都道府県の相談窓口を設置して、

それらで対処させることとしている。

 

 

その上で、

専門の地方衛生研究所や国立感染症研究所で

PCR検査をするらしい

 

 

(もちろん、それらの研究所などでの

 PCR検査体制の早急な増強が望まれるところである)。

 

 

現に、新型コロナウイルス感染症で

死亡した中国の医師もいるらしいし、

検査を手伝っていて感染した日本の検疫官もいるらしいので、

市中の病院・診療所でその医師らが検査を担当しないのが賢明であろう。

 

 

実際、市中の病院・診療所で

他の病気の病者への対処機能が低下してはならないからである。

 

 

現在のところ、有効な薬も開発されておらず、

市中の病院・診療所においても

即効的な治療は望めない。

 

 

幸い、強毒性ではないらしいので、

自宅での養生でも足りそうである。

 

 

他の病者に迷惑をかけずに、

自宅療養で回復するのが、

不安のある者としては

最も有効適切な対処と言ってよいところであろう。

 

 

4 市中の病院・診療所に応招義務は無い

 とは言えども、

新型コロナウイルス感染症の不安を持った患者が

現に来院して来た場合に、

市中の病院・診療所は何の診察・治療もせずに、

即座にお断わりをしてもよいのであろうか。

 

 

それは、まさに応招義務の問題と言ってよい。

 

 

医師法第19条第1項は、

「診療に従事する医師は、

 診察治療の求があった場合には、

 正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」

と規定している。

 

この解釈・運用については、

かつては厚生労働省はまことに厳しい態度であった。

 

「医師が 

 自己の標榜する診療科名以外の診療科に属する疾病について診療を求められた場合も、

 患者がこれを了承する場合は一応正当の理由と認め得るが、

 了承しないで依然診療を求めるときは、

 応急の措置その他できるだけの範囲のことをしなければならない。」

(昭和24年9月10日付け厚生省医務局長通知)、

 

「医師法第19条にいう『正当な事由』のある場合とは、

 医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られるのであって、

 患者の再三の求めにもかかわらず、

 単に軽度の疲労の程度をもってこれを拒絶することは、第19条の義務違反を構成する。」(昭和30年8月12日付け厚生省医務局医務課長回答)

 などといった行政解釈・運用のとおりだったのである。

 

 

しかしながら、今般、医師の働き方改革の一環として、

応招義務に関する行政の解釈・運用が大幅に改められていた。

 

 

「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」

(令和元年12月25日付け厚生労働省医政局長通知)がそれである。

 

 

多くの改善点が含まれているが、

感染症のみに限局すれば、

「特定の感染症へのり患等合理性の認められない理由のみに基づき診療しないことは

 正当化されない。ただし、1類・2類感染症等、制度上、特定の医療機関で対応すべきとされている感染症にり患してる又はその疑いのある患者等についてはこの限りではない。」

と明示した。

 

 

今般の新型コロナウイルス感染症(COVID―19)は

政府によって「指定感染症」とされている。

 

 

そうすると、感染症指定医療機関はともかく、

市中の病院・診療所一般は、

保健所や都道府県の相談窓口を紹介しさえすれば十分で、

それ以上の応招義務は無いと考えてよいであろう。

 

以上のように、

国内で皆が自覚して適切な役割分担をし、

国内での感染をできる限り抑制していくことが期待されている。

 

 

 

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