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独善的・軽率的な心理と刑事責任 -刑事責任抑止は院内システムで-

2020/03/26

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。  

 

この原稿はMMJ2月15日発売号に掲載された原稿からの転載です。

 

井上法律事務所 所長弁護士 

井上清成

 

2020225日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

弁護士からの発信

 

1 医療行為と刑事責任

 厚生労働省の「医療行為と刑事責任の研究会」

(座長・樋口範雄・武蔵野大学法学部教授)が、

平成31年(2019年)3月29日付けで

「医療行為と刑事責任について(中間報告)」を取りまとめ、

昨年(2019円)末の12月27日に公表し、

今は厚労省ホームページに掲載されている。

 

 

その「医療行為と刑事責任について(中間報告)」の公表資料によると、

「医療行為と刑事責任の関係」は、

医療事故の当事者たる医療従事者への業務上過失致死罪(刑法第211条)の

適用の有無を中心とした問題であり、

刑事捜査、診療実務等の観点から

刑事医療過誤裁判例の分析等を行うため、

有識者による研究会を開催(平成29年4月から開催)したものであった。

 

 

高名な刑法学者も複数、

そのメンバーとして参加している。

 

 

その公表資料では、

「今後詳細な分析を行う必要があるものの、

 刑事裁判例については、

 通常の医療従事者のモラルや協調性をもって業務に従事し、

 また、通常診療で行うべき確認行為を行っていていれば

 医療事故に至らないような事案が多くを占めると思われた。

 また、調査した事例の範囲では

『必要なリスクを取った医療行為の結果、患者が死亡したケース』について

 刑事裁判で有罪となった例は存在しなかった。

 いかなる事案が刑事訴追されるかについては、

 個々の事案に即して、

 担当検察官の具体的な判断によるべきことは当然であるが、

 医療従事者として一般に求められる注意を怠ることがなければ、

 必要なリスクを取った医療行為の結果、

 患者が死亡した場合であっても

 刑事責任を問われることはないものと考えられた。」

 ということであった。

 

 

2 独善的な心理と軽率的な心理

その研究においては、

独善的な心理と軽率的な心理

という分類をしている。

 

 

独善的な心理とは

「周囲の指導や警告、院内のルール、当時の一般的な治療法等を無視し、

 あえて医学的な知見の裏付けのない行為に及ぼうとする心理」を指し、

 

軽率的な心理とは

「本来、行うべき行為をうっかりして行わないような心理等

(前提知識があり、行うべきでない行為であることを認識し得たはずなのに、

 その認識を欠く心理を指す。

 本来、行うべきでない行為をうっかりして行うような心理を含む。)」を指す。

 

 

そして、研究の総括では、

「刑事裁判例のうち、

 独善的な心理を背景とした因子を含む事案については、

 周囲からの警告を受け添付文書等を確認したり、

 院内ルールを遵守したりしていれば、

 結果を回避し得たものであった。

 また、通常の医師のモラルや協調性をもって医業に従事していれば、

 医療事故に至らないような事案であった。

 

 また、軽率的な心理を背景とした事案については、

 回避がきわめて困難な状況や、

 およそ不可能と思われる注意義務が問題となっているわけではなく、

 通常の医師の能力をもって、

 通常診療で行うべき確認行為を行っていれば

 医療事故の発生を回避し得たものであった。」

ということであった。

 

 

3 院内システムでの抑止を

以上の分類によれば、

「独善的な心理」の事案については

「その主たる責任が医療従事者個人にあるのに対し、」

 

「軽率的な心理」の事案については

「個人の問題のほかにシステムエラーを問題とすべき場合が多く、

 医療従事者個人よりも、むしろ病院等の管理体制に原因があることが少なくない。」

との比較もなされている。

 

 

しかしながら、

その比較は相対的なものに過ぎず、

刑事責任の抑止は

いずれも院内システムによるコントロールこそが重要と言えよう。

 

 

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