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新型コロナウイルス陽性者の過少計上とクラスター対策について  

2020/03/25

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

 

匿名 技術者S

 

2020320日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

ウィルス

 

 

1:感染症対策において重要な陽性者数が過少に計上されている懸念があります。

根拠は2点です。

 

・陽性者数が上位の他国と比べ、陽性者数増加の傾きが小さい

 

陽性者数が上位の国の陽性者数は、

傾きは変わりますが、

いずれも指数関数的に急激に増えています。

その傾きは、多くの国では3日以内で2倍に増えるハイペースです。

 

しかし日本では緩やかに増加しており、

他の多くの国と傾向が異なります。

 

強力な感染症の拡大初期には、

通常は陽性者数は指数関数的に急増するため、

他国と比べて低い増加傾向は、

防疫の強さまたは検査の不備を示唆します。

 

https://ourworldindata.org/coronavirus

 

 

日本については、

感染症対策で最も重要な検査と隔離の徹底が、

他国に比べて実施できていないため、

防疫の強さがあるとはいえません。

 

手洗いなどで

今年はインフルエンザの予防ができているという話もありますが、

その効果は限定的であると考えられます。

 

 

一方で、日本の検査枠の少なさは

かねてより指摘されています。

 

日本同様に検査できていなかった米国は、

3月以降は検査数を増強しています。

 

https://www.vox.com/science-and-health/2020/3/12/21175034/coronavirus-covid-19-testing-usa

 

仮に日本でも他国同様に

陽性者が指数関数的かつ急激に増加していたとしても、

毎日の検査数が少ないままで変わらなければ、

一日の陽性者も少ない枠内での陽性者の数しか増えないため、

見かけの陽性者増加が抑えられます。

 

 

つまり、検査に至るまでの基準を他国と比べて高く設定し、

少数の疑似症例のみを検査することにより、

多数の陽性者が排除され、

実際の陽性者の増加の傾向が過少に見えている懸念があります。

 

実際に、最近報道されている陽性者の多くは、

複数の医療機関を受診した後で

ようやく検査を受けて陽性が発覚しています。

 

・検査数が少なく、横ばい

 

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

 

・国内における新型コロナウイルスに係るPCR検査の実施状況

 検査数もほぼ増加していません。

 

・帰国者・接触者相談センターの相談件数等(都道府県別)

3/14迄だと相談184,982件に対して7,961件、

4.3%しか医療機関を紹介されていません。

 

https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

 

 

3/4以前の検査数(新規)を参考にすると、

疑似症サーベイランスの都道府県単位の検査数は

一日数件から数十件に留まると思われます。

 

 

3/4は検査数が増加していますが、

濃厚接触者に対する検査数を含めたためで、

疑似症サーベイランスの検査数が増えたわけではありません。

 

 

3/4以降も陽性者数に大きな変化が見られないことから、

疑似症サーベイランスの検査数はほぼ拡充されていない懸念があります。

 

一方でクラスター対策のため

積極的疫学調査に注力する方針は維持されています。 

 

 

なお、感染者が指数関数的に増加する場合でも、

初期には感染率は大きくは増加しないため、

陽性率の変化は微増にとどまります。

 

また、検査の枠が少ない場合、

サンプルの選択方針による影響を受けやすいです。

 

 

つまり検査数が十分でない状態が続くかぎり、

信頼できる陽性者数を得ることは困難です。

 

 

全ての人にPCR検査を実施するべきとは言っていません。

 

 

帰国者・接触者相談センターや保健所が、

他国に準じない基準で、ごく一部の検査だけを許可し、

医師が検査したい疑似症であっても

ほとんど検査が許可されない状態が問題です。

 

 

都道府県によっては

相談者の1%未満しか検査していない所もあるようです。

 

 

この体制では、指数関数的かつ急激に増加することが懸念される

感染症の陽性者数の動向把握が困難です。

 

 

したがって、

人員や検査の流通量が限られる帰国者・接触者相談センターや

保健所がボトルネックとならないよう、

病院から検査機関にPCR検査を依頼できるようにすることが必要と考えられます。

 

 

ただし、厚労省の退院基準では軽症者で病院が埋まります。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09346.html

 

 

今後は軽症者は病院で隔離するのではなく、

病院判断で自宅療養できるような仕組みが必要と思われます。

 

 

他国の基準としては

中国武漢におけるトリアージのチャートが参考になるかもしれません。

https://www.thelancet.com/pdfs/journals/lanres/PIIS2213-2600(20)30071-0.pdf  Therapeutic and triage strategies for 2019 novel coronavirus disease in fever clinics

東京GIGOさんによる日本語訳: https://twitter.com/ekb90377/status/1234519643043221507

 

 

2. 陽性者数の増加が抑制されているため、以下の懸念があります。

 

・感染症の感染力

 (1人の患者が何人に移すかを示す基本再生産数R0や、

 どれだけ短期に陽性者が2倍になるかを示す倍加時間)の脅威が

 過小に見積もられます。

 

 

・疑似例の確定ができず、

 適切な感染防止措置が取れないことにより、

 院内感染の危険性が高くなります。

 

 

・重症者でもめったに医療機関が紹介されないことにより、

 症状の悪化や、複数の医療機関をはしごすることによる

 院内感染の危険が増加します。

 

 出勤も続けられる場合もあるでしょう。

 

 また重症化したあとに通常の診察や救急搬送のルートで、

 病院に運ばれることになります。

 

 日本では、検査も診察もしないという形で、

 医療崩壊が始まっています。

 

 

・見かけ上は、

 陽性数の増加が抑えられているように見えるため、

 医療や国民の準備が遅れます。

 

 

 このため、患者数が急増する時期を予測したり、

 それを遅らせることが困難となります。

 

 あるときから急に病院に重症者が複数来て、

 しかも日々その増え方が増すように見えます。

 

 それが、指数関数的増加の性質だからです。

 

 3.新型コロナウイルスの感染力は、従来想定されているより強い可能性があります。

 

WHOの当初発表では、

 基本再生産数1.4-2.5

 倍加時間7.4日とされており、

 インフルエンザ相当であるとの発言もありました。

 

 しかし通常のインフルエンザでは

 複数国で病院があふれたり、

 多数の緊急事態宣言が出されることはありません。

 

 

 インフルエンザと同じ対処だけで

 対応可能であるとするのは

 時期尚早です。

 

 

・個別の国の陽性数増加をグラフにすると、

 多くの国では4日以内で倍増するペースで増加しています。

 7.4日で倍増するという当初の想定に比べて、急激な増加です。

 余程のことが無い限り、この勢いを減じることは難しいことを前提とするべきです。

 現に、国内でも複数地域で医療が切迫しつつあります。

 

 

・院内感染を防げる形の検査と隔離の体制を、

 他国に倣った形で迅速に構築することが重要と思われます。

 なぜなら、検査してもしなくても

 軽症者や重症者は指数関数的に増え続けることが

 他国の先例より予期されるため、

 検査と隔離の徹底は、

 院内感染や市中感染拡大や医療崩壊を防ぐために

 不可欠であると考えられるためです。

 

 4.クラスター調査ではなく疑似症サーベイランスに注力する方が医療崩壊抑止に役立ちます。

 

・専門家会議で、

 症状の軽い人がクラスターにより

 多数の感染者を増やしている可能性が示唆されました。

 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html

 

 

しかし現在の検査基準では、

感染者との接触がなければ、

ほぼ検査が許可されません。

 

このため経路不明の感染者の多くは、

今の検査基準ではそもそも検査対象外となり、

見逃されることとなります。

 

したがって、

市中に広がった軽症者による感染拡大を考慮すると、

実際の基本再生産数が現在の想定より大きくなる懸念があります。

 

また、軽症や無症状の患者が8割いると思われることを考慮すると、

追跡による全体像把握は今後も困難で、

総数も急速に倍増していくものと考えられます。

 

 

つまり、軽症者による不顕性感染やクラスター発生の多くは

今の審査基準では検査対象外となるため追いきれておらず、

今後も改善されない可能性が高いのです。

 

また、この性質により、

正確な基本再生産数の算出が困難であることも想定されます。

 

現在複数出ている論文でも、

推定される基本再生産数のばらつきが

大きい原因の一つであるように思われます。

 

したがって、防疫の観点では、

特に新型コロナウイルスについては、

基本再生産数より、陽性者数の推移を見て、

倍加時間や傾きを指標とすることが

妥当であるものと考えられます。

 

粗い推定ですが、陽性者増加の傾きを、

退院数増加の傾きにまで伸ばすことが、

患者が溢れる事態の回避の目安になるかもしれません。

 

 

一方で、陽性者の8割は他者に移さないことが示唆されました。

 

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html

 

これはたいへん有用な知見ですが、

濃厚接触者を追跡調査しても多くは陰性となり、

追跡調査で陽性者を見つけることが困難であることを示唆します。

 

3/4の検査の増加数を見ると、

疑似症サーベイランスではなく

濃厚接触者の積極的疫学調査に多くの検査枠が割かれ、

また濃厚接触者の積極的疫学調査の陽性率は高くないことが推察されます。

 

https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

 

 

また、クラスター対策のために多くの枠が使われるけれども

陽性率は低い濃厚接触者の積極的疫学調査と、

それ以外の少量の疑似症サーベイランスの検査数は、

本来は別々に数値を出すべきです。

 

 

しかし厚労省はこれらを合わせた数を

検査数として発表しているため、

本来は疑似症サーベイランス単独で算出するべき陽性率が、

実際より低く算出されている懸念もあります。

 

 

現状で、相談者の数%といったわずかな人数しか医療機関に紹介もされず、

別のルートで病院の診察を受けたとしても、

医師の必要と認める疑似症すら十分に検査できない状況では、

市中感染の拡大や院内感染の予防を徹底することができないのは明らかです。

 

もはや、陽性率の低いクラスター調査に注力して

良い時期ではなくなったと考えられます。

 

 

したがって、

クラスター調査のために使われる濃厚接触者の積極的疫学調査用のPCR検査枠を、

医師が必要と判断する疑似症を検査するために使う方が、

院内感染の予防や市中感染の拡大阻止や実態把握のために有用と考えられます。

 

 

以上、医学的に不正確な記述も多々あるとおもいます。

誤りや失礼がありましたらご容赦ください。

この事態の解決に関わる皆様のご尽力に、感謝いたします。

 

 

帰国者・接触者相談センターの相談件数等(都道府県別)

http://expres.umin.jp/mric/mric_2020_056.pdf

 

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