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指定医療機関の現場から見たCOVID-19パンデミック

2020/03/27

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

都内勤務医

匿名

 

2020326日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

パンデミック

 

私は東京都にある感染症指定医療機関に

勤務する医師である。

感染症の専門家ではない。

 

新型コロナウイルス(COVID-19)感染症がパンデミックした。

 

普段から共に働いている

感染症科の医師やスタッフは、

クルーズ船の患者受け入れの当初から

感染者の診療にあたり、

他にも必ずしも足並みの揃わない院内のスタッフへのルールの周知や

疾患についての啓蒙、

地域の医師会やその他の医療機関との連携調整など、

溢れかえる業務に少人数で立ち向かっている。

 

 

COVID-19による肺炎患者が重症化すれば

当直明けにも関わらず昼夜患者の診療にあたる。

 

私の目にも疲弊は明らかであり、

恐ろしいことに終わりが見えないのである。

 

働き方改革とは全く逆行しているが、

増える業務に現場は立ち向かい続けなければならない。

彼らが疲労で体調を崩すなどして働けなくなった途端、

医療崩壊が始まる。

 

感染症科医師やその他のスタッフの個々人の

きわめて高い職業倫理によって支えられている

綱渡り状態の現場を目の当たりにして、

現場で働く彼らには頭が上がらない。

 

 

先日、COVID-19に対するPCR検査が保険適応となった。

 

 

以前は医師が必要と判断しても

保健所が許可を出さなければ検査できない仕組みだったが、

今後は指定医療機関であれば

保健所を介さずとも検査を提出できるようになり、

検査の閾値は下がったようにみえた。

 

しかし実際には、

検体を取ろうとすれば高度な防御と環境が必要で

その検体の取り扱い(搬送や必要な書類)は特殊であり、

慣れない届出が複数必要になる。

 

 

そもそも一般的な診療条件では検査自体の二次感染リスクが高く、

1日に使える枚数が制限されている事もあり、

私のような感染症診療に慣れていない医師からすれば

非常に難しく感じる。

 

 

他の医療機関でも同様の扱いであれば

多くの医師が同じように感じるはずで、

おそらくこのままでは検査数はそこまでは増えない。

 

検査を増やすこと自体の是非については

ここでは議論しない。

 

本音を言えばどちらでも良い。

 

COVID-19に限らず、

日本人は何かと言えばすぐ検査をしたがる。

 

 

身近な例としては

インフルエンザの検査が必要かどうかの議論と似ており、

検査のお墨付きがなければ安心もできず

仕事や学校を休むことのできない日本人の国民性の前では、

医学的・統計学的には良くないが検査を増やした方が良い、

という意見もやむを得ない。

 

今後、今回の一連の議論が、

その悪しき国民性について

本気で介入しインフルエンザやその他の疾患についても

検査至高主義にならないよう国民全体に啓蒙する事につながれば良い。

 

 

今すぐにこれを改善することは不可能で、

不必要なインフルエンザ検査が見境なく行われているのと同じように

COVID-19の検査を広く可能にすることを求める動きを止めることはできないだろう。

 

 

後日、自分も含め医療従事者も一般の人々も

大いに反省すべきだと思う。

 

しかしここには大きな問題がある。

 

COVID-192類感染症に指定されているのだ。

 

そのため診断された患者は

全員が入院隔離しなければならない。

 

院内感染の危険があることと、

指定感染症に指定されていることから、

感染症指定医療機関にある陰圧室に入院させることが求められるため、

指定医療機関に陽性患者が集中する。

 

 

疑い例ですら一般の医療機関では診療が敬遠され、

類似症どころか明らかにただの風邪患者でさえも

簡単に紹介されてくる。

 

しかし、陰圧室には限りがあり、

私の働く病院では通常の集中治療室を

突貫工事で陰圧室に変えることで対応している。

 

その影響で、

本来集中治療を必要とする心臓外科手術予定の患者の手術が

先延ばしになるといったことも起きている。

 

現場の各専門科でスタッフ達の懸命で臨機応変な対応がなされ、

今のところそれにより健康に害を被った患者はいないのが救いであるが、

余裕がない状況であることは確かだ。

 

COVID-19の感染が広まる一方で、

その他の疾病の患者(特に中等症以上の患者)が減ることはなく、

急性期総合病院が患者で溢れかえっていることに変わりはないのだ。

 

 

医療費が助成制度により賄われ、

積極的疫学調査の対象となりデータが統計的に蓄積され

今後の対応に活かせる事など、

二類感染症に指定されることのメリットもある。

 

しかし、パンデミックに認定されるほど患者数が激増し、

そのほとんどが軽症、無症状なことが予想さるため、

それらの患者については基本的に自宅療養とし、

遠隔診療を行うことで二次感染を予防するなどといった対応を解禁するなど、

2類感染症と一括りにせずに

現場で診療にあたった専門医が疫学的知識や感染症の特性、

症状、患者の状態などを見極めて

臨機応変に対応できる幅をもたせるべきだと思う。

 

そうすれば医療機関を圧迫することなく、

インフルエンザ同様検査を広めることが

現実的に可能となるだろう

(繰り返すが、本来は、検査してもしなくても症状がある場合には自宅療養をするべきだ)。

 

その上で自宅に高齢者がいるなど

二次感染による被害が広がる可能性がある場合などは

ケースバイケースに現場で対応をアレンジできるような制度にすべきだと思う。

 

現状では指定感染症として一括りにされ、

現場で臨機応変に対応できる幅が狭いのが

一番の問題ではないだろうか。

 

 

昨今の社会情勢なども現場の逆風となっている。

 

 

メディアでは多くの芸能人や「専門家」ら、

現場の状況を了解していない方々が

まるでエンターテインメントかのように議論している。

 

そこで無責任に垂れ流される玉石混合(多くがただの石)の情報が、

どれだけ国民や医療現場を混乱させているかをメディアは認知し、

現場で働く医療者の声を世の中に届ける努力をするべきである。

 

また、法律などの制度がなければ

動きがとれない現場が多いのもわかるが、

現場を置き去りにした場所で決められた制度によって

現場が臨機応変に的確に対応することを制限しては本末転倒である。

 

本当に現場で体を張っているのは誰なのか、

職員が歯を食いしばって耐え続けている医療機関はどこで、

どこに重点的に医療資源や人材を投入するべきなのかを見極め、

医療現場の最前線で働く医師が柔軟にストレスなく対応できるような

法整備を行うべきである。

 

 

国難であることは火を見るより明らかだ。

 

今日も医療現場では多くの職員が

最前線で体を張って立ち向かっている。

 

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