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英国におけるオプジーボ(一般名:ニボルマブ)承認状況と薬価

2016/10/04

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

大阪府保険医協会
小薮幹夫

2016年10月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

「費用に見合った価値」の観点から、

とりわけ抗がん剤など高額新薬について

もっともコストコンシャスな薬価規制を行っている

英国(医療費に占める薬剤費比率は概ね1割程度を推移。日本は26.6%_*1)に着目し、

オプジーボの承認状況やNHS償還価格の状況について、

可能な限り規制当局より開示されている一次資料を参照して考察した。
*1_包括医療に係る薬剤費を含む推計値(2011年)(保団連/厚労省保険課)

 

http://expres.umin.jp/mric/mric_219-1.pdf

 

1.英国におけるオプジーボ承認状況

(1)高額薬剤の費用対効果評価はNICEが行っている
英国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence: NICE)
主として費用対効果の観点から新規診療技術や高額薬剤(全ての新たな有効成分を有する抗がん剤を含む)について、NHS償還の可否判断とNHS償還価格を勧奨している。NICEがNHS(国)に勧奨するのは処方者(医師・薬剤師)へのガイドラインも含まれる。
NICEが評価を行う対象となる治療等は、(i)NHSとして最優先課題に基づくもの、(ii)罹患率、死亡率の高い疾病、(iii)提供される医療に地域格差があるもの、(iV)医療費への影響に関わるもの、(V)時代の要望・必要性のあるもの─であり、これらを基準として提案されたものを保健省の承認を経て選定される_*2 。
*2_「健保連海外医療保障 No.97」(2013年3月)

 

(2)悪性黒色腫への適応を承認
当初、NICEはオプジーボ(一般名=ニボルマブ)の悪性黒色腫に対するNHS保険償還に関して、標準治療薬に比較した優位性を認めるも、薬価が高すぎると消極的だった。
しかし、2016年1月22日、NICEは悪性黒色腫患者への適応に関するFinal guidanceにおいて、ファーストライン治療として、以下レジメンの下で、NHSに対してNHS保険償還を推奨した。
オプジーボ単独療法:3 mg/kg、2週間間隔(維持期含む)、重篤な副作用が観察されるまで、60分以上かけて点滴静注。
日米における肺がんへのレジメンと同様に、2週間間隔としたのは、臨床的有益性/有害事象を早く観察するために頻回の点滴が必要とNICE Appraisal Committeeが判断したためとしている。
結局、標準治療薬との費用対効果評価_*3 と、悪性黒色腫患者という比較的小さい患者集団_*4 に適応を限定していること(英国は予算制)が承認のポイントになったのではないか、と推定できよう。ともあれ、承認の可否判断が遅すぎるとしばしば批判の対象になっているNICEにとって、EU諸国に先駆けて、異例のスピード(約6ヶ月)で承認された。
*3_ICER(増分費用対効果比)が£30,000以下であったと公表されている。NICEが保健省に償還を推奨するICER閾値の目安は、£30,000まで。
*4_2012年に悪性黒色腫と診断された患者数=13,348人(cancerresearchuk.org)

 

(3)非小細胞肺がん(NSCLC)への適応拡大
肺がんへの適応については、2016年8月現在、審議中である。NICE評価委員会ドラフトでは、推奨とはなっていない。ポジティブと結論づけられない理由として、ファーストライン標準治療薬(ドセタキセル)との費用対効果(ICER_*5)が劣ると指摘している。
*5_Nice Committee Papers(April 2016)に依ると、£103,589(Base-case Results)

但し、肺がんは英国で2番目に多いがん疾患であり、毎年約44,000人(うち、6000人は喫煙と無関係)が診断されている_*6こと、生存率がノルウェイ、オーストラリア、スェーデン、カナダの後塵を拝していることから、患者団体からの強い圧力にさらされている。英メディアの報道も早期承認を求める論調が目立つ。
*6_うち、非小細胞肺がん患者は27,300人(Health and Social Care Information Centre 2014)

英国議会の情報に依ると、製薬企業による後述の「費用対効果に優れないと評価された医薬品の価格を調整(ディスカウント)することにより、患者のアクセスを確保するための措置 」_*7‘patient access scheme:PAS’の対象として、16年9月にFinal guidanceを発表する見込みである_*8。
尚、‘Early Access to Medicines Scheme (EAMS)(2014年4月に創設された未承認薬へのドラッグ・ラグ解消のためのアクセススキーム)_*9 によって、450人の肺がん患者(2015年3月~2015年12月)が無料で治療を受けている。
*7_ 「諸外国での費用対効果評価の活用方法」(中医協費-2 25 .4 .10)
*8_http://www.parliament.uk/business/publications/written-questions-answers-statements/written-question/Commons/2016-06-09/40151(09 June 2016)
*9_2014年4月から2015年11月までに18のプログラムを受理し、500人以上の患者が参加した。

 

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2.英国におけるオプジーボ薬価

(1)製薬企業(Bristol-Myers Squibb:BMS_*10 )申告価格(UK LIST PRICE)
*10_2011年9月、BMSはオプジーボを日本・韓国・台湾以外の全世界において独占的に開発・商業化する権利を小野薬品から取得している。

http://expres.umin.jp/mric/mric_219-2.pdf

通常は、製薬企業の申告価格(リストプライス)に基づいた価格で保険償還されるが、抗がん剤など高額薬については、(1)国(保健省)が許容する製薬企業の利益率の範囲で(PPRS:医薬品価格規制制度)、(2)かつ費用に見合った価値かどうかをNICEが精査した上で、償還価格が決められる。上市後は、製薬企業が新たな科学的根拠を提出した上で、保健省の合意を得ない限り、償還価格を引上げることは出来ない_*11 。
*11_The Pharmaceutical Price Regulation Scheme 2014、「健保連海外医療保障 No.97」(2013年3月)

日米英のオプジーボ薬価比較(3mg/kg、体重60kg、2週に一回)

http://expres.umin.jp/mric/mric_219-3.pdf

 

(2)NICEは肺がん患者への適応拡大については依然として否定的、BMSと価格交渉中

NICEの費用対効果検証結果からすれば、「高すぎる薬価」がネックとなり、オプジーボ推奨のハードルはきわめて高いと思われる。しかし、製薬企業は提示したリストプライスを下げずにNICEの推奨を獲得することを可能とする方法がある。

BMS is proposing a dose cap PAS to mitigate this financial uncertainty and allow Nivolumab to meet NICE cost-effectiveness criteria for England and Wales. The scheme will cover the cost of nivolumab therapy after 26 administrations. The cost of therapy post cap will be covered by BMS until disease progression or cessation of nivolumab therapy.
As nivolumab is administered once every two weeks, the cap will be placed at one year.(Nice Committee Papers, April 2016)
BMSは、NICEに対して、26サイクル(1年)を終了した患者についての薬剤費用について、薬剤治療が中止されるまで、BMSが負担するというPAS(patient access scheme)を提案している。NICEのガイダンスに沿って治療しているすべての非小細胞肺がん患者に適用される。
なお、NHS傘下のUKMI(Uk Medicines Information)_*14 や一部報道では、NHSが最初の26サイクル(1年)の費用として、£31,000(年間薬剤費のおよそ半分)を支払った後、引き続き治療を継続した肺がん患者の薬剤費用をBMSが負担する内容としている。
*14_http://www.ukmi.nhs.uk/applications/ndo/record_view_open.asp?newDrugID=5805

ディスカウントの詳細な内容については、ある程度の枠組みは公開されているが、最終合意事項については原則として非公開である_*15 。他国が英国価格を参照する際に用いられると、メガファーマの世界戦略にとって好ましくない影響を与えるからである。保健省にとっても、製薬企業との価格交渉を有利に導くためには非公開が望ましいといえる。NHSとBMSが合意に達し次第、両者は特別なポータルサイトで相互検証/監査をうける。
*15_The Pharmaceutical Price Regulation Scheme 2014

詳細な内容は分からないとしても、NICEの費用対効果評価基準を満たせない高額薬が、どの程度ディスカウントをすれば推奨されるか、過去の事例から推測することは可能である。例えば、製薬企業のPAS提案を受けて、悪性黒色腫治療薬を承認した時のICERは、ヤーボイ(一般名:イピリムマブ)vs ゼルボラフ(一般名:ベムラフェニブ); £31,418【12年11月】、ゼルボラフvs ダカルバジン; £39,617【12年6月】といずれもNICEが推奨する目安である£30,000より高くなったが、PAS条件付きで推奨された。
下表は、ドセタキセルとのICER値が50%低下(費用対効果が改善)するには、オプジーボの薬剤コストが56%削減されなければならないとしたNICEの16年1月時点の試算である(Nice Committee Papers, April 2016:Details of the patient access scheme Table 4,5を一部改変。LYG;獲得生存年 QALY; 質調整生存年 ICER:増分費用対効果比)。

http://expres.umin.jp/mric/mric_219-4.pdf

ヤーボイ、ゼルボラフの事例も踏まえれば、リストプライスの少なくとも半額程度の値引きに相当するディスカウント条件付きで、或いは他の薬剤との併用療法でトータルコストを下げて、9月に予定されるFinal guidanceにおいて、NICEが保険償還を推奨する可能性は高いといえよう。当然ながら、日英の薬価差はさらに大幅に拡大する。

このように、製薬企業が提示したリストプライスを下げずに、政府と価格交渉をすることは、英国製薬産業協会(Association of the British Pharmaceutical Industry:ABPI)と保健省が合意したルール‘patient access scheme(PAS)’に基づいている。
PASの手法に関しては、いくつかのパターンがあるが、オプジーボの場合は、‘Dose cap scheme’(規定回数を超える部分を企業負担とする)に分類され、抗がん剤では一般的である。
尚、Scottish Medicines Consortiumに依ると、NHSスコットランドは、BMSからのPAS提案に沿って、2016年6月より、進行性または転移性非小細胞肺がん患者の治療を開始している 。スコットランドと北アイルランドのNHSは、ガイドラインや償還価格を独自に決定することができる。

 

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