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「川内村に診療を届ける」

2016/10/18

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

京都大学大学院 健康情報学分野
西川佳孝

2016年10月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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私は、消化管内視鏡・がん診療を専門にする内科医です。

普段は、京都大学の大学院生として、

研究、内視鏡診療に従事する傍ら、診療のため、

飛行機で2週に一度のペースで福島県へと通っています。

私が勤務する地域の1つに、福島県川内村があります。

2016年春から、診療所と介護施設での診察を担当しています。

 

川内村は、福島第一原発の南西20-30kmに位置し、

一度は全村民避難の方針となりましたが、

比較的低線量であったことから、

全ての自治体の中で最も早く、

2012年1月31日に帰村宣言がなされました。

 

その後、徐々に帰村可能区域が拡がり、

2016年6月に全区域で帰村可能となりました。

 

現在では約3000人の村民のうち約1800人が帰村しています[1]。

他の地域よりも帰村率は高く、

高齢化も進んでいますが、

村役場の関係者など、若い方も多くおられます。

生活を守るために医療が不可欠です。

東日本大震災から5年が経過してなお、

医療機関受診の困難さを痛感します。

 

川内村の診療所は1つのみです。

受診される方々には、

「今日しか出て来られないので空いていて助かりました。」

「(村外の)かかりつけ医で処方された薬が無くなって困っていました。」など、

切実な声をお聞きします。

 

村外の受診先も、近隣の富岡町、大熊町、双葉町の医療機関は再開されていません。

県立大野病院が、楢葉町で復興診療所を再開しましたが、

こちらも外来のみ。

 

救急疾患の場合には、

いわき市、平田村、郡山市などが受診先となります。

いずれも、車では1時間以上かかります。

急ぐ場合は、ドクターヘリが出動することもあります。

 

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私が専門とする消化管内視鏡は、

地域の診療においても重要です。

 

2014年のがん統計では胃がんの死亡数は約47000人と全がん中第3位、

近年上昇傾向の大腸がんの死亡数は約48000人と第2位です[2]。

 

確定診断には内視鏡検査が必要です。

有効性に基づく胃がん検診ガイドライン2014年版では、

胃がん検診の検査項目として胃内視鏡検査が推奨されました[3]。

川内村でも内視鏡診療が継続的に受けられるよう、

小さな取り組みを少しずつ進めています。

 

診療所では、まずは検査条件を整えることから始めました。

胃内の泡を綺麗に消すための前処置の配合(薬剤の細かな分量)や

投与量の準備を京都大学と同じ条件にそろえました。

 

内視鏡部の同僚である臨床工学技士の樋口浩和さんに、

川内村から問い合わせると即座に教えて下さいました。

大学では全部スタッフがやってくれていたことを、

自分でしっかり覚えて持ち込む。

 

細かいことですが一つずつが私にとっても非常に勉強になります。

機材の配置や検査中の介助の仕方なども少しずつ改良しました。

 

甲斐もあってか、早速、精密検査を要する病変を検出しました。

その方は、旧知の医師に連絡すると

「紹介ありがとうございます、承知しました。」と、

速やかに専門施設へとご紹介することが出来ました。

 

内視鏡中は、実は術者や介助者の「力を抜いてください。」

「お腹張りますよ。」などの声掛けも大切です。

 

私からの注文を「勉強になります。」と、

スムーズに聞き入れてくださる川内村の診療所スタッフに感謝しています。

川内村では、介護施設での診療もさせていただいています。

65歳以上の人口は約40%で、

全国平均約25%よりも高く、介護の大きな需要があります。

 

しかし、東日本大震災以降、村には介護施設がありませんでした。

これでは、介護必要度の高い高齢者を家族にもつ村民が

家族そろって帰村することは叶いません。

そこで、「故郷へ帰りたいという思い」を実現するべく

特別養護老人ホームかわうちが建設されました[4]。

 

80名の入居者のうち約半数は川内村や双葉郡の住民です。

また、施設で働く職員も38名中、16名が川内村の出身です。

 

介護施設は、入居者の方の「生活の場」です。

地域の方と顔なじみのスタッフが多く在籍し、地域ぐるみの生活をしています。

 

婦人会の有志が交流のために訪問してくださったり、

近所の神社の祭りの際に子供獅子舞が施設に寄ってくれたりします。

 

私の地元神戸では、

祭で「だんじり」が通り過ぎるのを家族に車椅子を押されて

嬉しそうに沿道から見守る方々を毎年みかけました。

 

施設の入居者の皆さんもまた同じように、

こういった催しを楽しみにされているのです。

 

診療の際には、「楽しかったです。」「散歩しました。」などと、

喜びの声を聴くことが出来ます。

これらは、入居者にとってかけがえのない心の支えとなっています。

同施設は介護施設ですが、入居者の平均年齢は80歳をこえ、

入居者には少なからず医療需要があります。

 

高血圧や糖尿病などの慢性疾患を抱える方、

麻痺など身体の不自由を抱える方もおられます。

軽度の処置は施設内で対応します。

 

訴えはなくとも、はっきりとした心雑音を聴取し、

心臓の弁疾患が判明した方もありました。

 

もともと悪性疾患と診断されていた方で、

定期的な診察で経過をみながら、

医療機関との連携をはかった例もあります。

 

腫瘤や腹水の診察を毎回行い、何度もご家族とも面談しました。

「川内村の施設で一緒に時間を過ごしたい。」という家族の希望がある場合には、

介護施設で出来る限り普段通りに過ごしていただき、

必要なタイミングがあれば、医療機関に受診いただくなど、

家族のご希望にそえるように調整をはかっています。

京都で、悪性疾患の方を診て来た経験が活かせていると感じます。

肺炎や尿路感染症などで急ぎの病院受診を要する場合には、

石川郡平田村の医療機関と連携し、受け入れられます。

 

そちらへは、車で約1時間。一人で受診いただくわけには行かず、

運転手、付き添いのスタッフが必要です。

 

また、専門的な診療を依頼する場合には、

平田村のほか、南相馬市、いわき市、郡山市などの医療機関へ、

1時間以上かけての受診となります。

 

施設で重症肺炎を疑っても、

病院についた頃には解熱していた、こともありました。

しかし、1時間という搬送時間を考慮すると、

時期を逃すと重篤になり得るので、常に気を使いながら、

いますぐ受診するか、明日まで待てるか、

1週間程度の期間を見て良いかの判断をするようにしています。

ご本人や、面会のご家族から、

「ありがとうございます。」と言われると励みになります。

川内村を訪れると、

「私は川内村出身です」と嬉しそうにおっしゃる方が沢山おられます。

故郷で、家族と過ごすということの意味を噛みしめておられるのだと思います。

 

医師不足や看護師不足といった医療資源の不足が叫ばれて久しいこの時世に、

東日本大震災の爪痕が残る地域に、

少しばかりの貢献ができるのは、医師冥利に尽きます。

 

決して奢ってはいけないのですが、私が診療を続けられる大切な理由の1つです。

一方で、川内村で診療させていただくことで、様々な発見があります。

どのような医療・介護の在り方があるのか、

福島県と京都府で診療しながら考えていきたいと思います。

参考文献
1. ふくしま復興ステーション 避難指示区域の状況
http://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/list271-840.html
2. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html#mortality
3. 有効性に基づく胃がん検診ガイドライン2014年版
4. MRIC Vol.219 特別養護老人ホームかわうち開所 ~帰村のキッカケに
http://medg.jp/mt/?p=6233

 

 

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