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群馬大学病院事件を防ぐ;新規診療許可制度私案 ~標準から逸脱した医療の早期発見のために~

2016/10/28

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

元亀田総合病院副院長
小松秀樹

2016年10月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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群馬大学病院事件の第三者調査委員会は、

結論部分で、以下の課題を提示した。


「日常診療の中に標準から逸脱した医療が登場した場合、

それを早期に発見し、より安全な医療へと是正する

自浄的な取り組みをするにはどうすればよいか」


筆者はこのための一つの手段として、

新規診療許可制度を提案する。

 

すべてを解決するのは不可能だが、

多少なりとも現状を改善できれば幸いである。

 

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●新規診療許可制度

新規診療許可制度は、個別病院内で、

申請・審査・許可・実施・結果報告を一連の流れとして制度化するものである。

 

うまく機能すれば、新規診療を開始するにあたって、

病院管理者は有害事象の総和が大きくなる前に問題を把握できる。

より早期に対応することができる。


文末に新規診療許可制度私案を示した。

この制度は、医療として有用だと認定されたものを導入するための制度であり、

医療としての有用性を検証するものではない。


かつて、ある大学病院で下顎骨が短くなった症例に対し、

骨延長術を実施したが、まっすぐな延長器を使用したために失敗した。

 

別の病院で、日本で承認されていない弯曲した延長器を輸入して、

自由診療として治療し成功した。これは臨床試験ではない。

 

器具が日本で承認されていないだけであって、

具体的患者を治療するための診療である。

このような事例をできるだけ簡単に審査しようとするのが、新規診療許可制度である。


診療が正当なものであるかどうかは、

審査制度が整っていると判断される他国の保険制度の判断を援用するものとした。

日本で保険診療が認められている診療行為について、

実施することが適切であるかどうか、いちいち病院で審査しないのと同じである。


新規診療許可制度では、

日本で保険診療として認められているものも、

病院で初めての侵襲を伴う医療は新規診療として申請することを求めた。


この制度は新しい医療に積極的に取り組んでいる病院のためのものである。

基本的姿勢は、有用な医療を実施しやすくするために、医師を支援することである。

 

ルール全体を通して、手続きと判断を分かりやすく、簡便にした。

見学や研修、指導者を招いたりするのを病院が積極的に支援する。

必要な薬剤や器具の輸入を手助けする。

新たな診療を導入するのに、

病院が支援することで把握しやすくなり、安全性も高まる。


取り締まりや抑圧のための制度と見なされると、隠される可能性がある。

医師からの反発が強くなり、ルールそのものが葬り去られる可能性がある。

このため、医師にメリットをもたらすものとした。


結果報告を初回だけにしたのは、手続きを簡便にするためである。

侵襲の小さい診療について、詳細な報告を何度も求める必要はない。

 

実質を伴わない煩雑な報告は反発を招き形骸化する。

そもそも、診療の結果に対し、問題がないかチェックするのは、

ルールに書く必要のない病院管理者の権限である。

 

大きいリスクが予想される診療行為については、

管理者は制度にこだわらず、自身の権限で、

成績を注意深くフォローすればよい。

 

管理者は制度に頼らず、

常に病院の活動に問題がないか把握しなければならない。

 

●新規診療許可制度私案

I.目的
臨床目的として行われる新規診療について、迅速に審査する。

臨床研究の適否を審査するものではない。

II.新規診療技術の分類
 1. 世界で初めての診療技術
  十分な準備の下、臨床研究として許可を得て実施する。

  基礎的実験など膨大な準備が必要である。
 2. 外国で臨床試験段階の診療技術
  追試の臨床試験として実施する。臨床研究として許可を得て実施する。
 3. 外国で実用化されている診療技術
  審査体制の整っている国、西欧あるいは合衆国の

  公的医療保険の対象となっているものを対象とする。
  国内未承認医療機器・医薬品の使用、

  あるいは、承認されている医療機器・医薬品の保険適応外使用を含む。
  日本で臨床試験が行われている場合、行われようとしている場合、

  可能な限り臨床試験に参加させてもらうべく努力する。
  臨床試験に参加することが不可能な場合、

  あるいは、日本で臨床試験が実施されていない場合、

  原則として自由診療として実施する。
 4. 日本で評価療養として既に認められている診療技術
  評価療養としての実施を目指す。
 5. 保険診療に含まれるが、病院として初めての侵襲を伴う診療技術

III.上記内容の1、2については臨床研究審査委員会で審査する。

  3、4、5については、別に定める規定に従って組織化された

  新規診療審査チームの審査を経て院長が許可する。

IV.準備と手続き
 1.準備
  1)必要がある場合、準備のために先行施設で当該技術を見学する。

    あるいは研修を受ける。
  2)資格が設定されている場合、可能なら資格を取る。
  3)動物を使った研修があれば研修を受ける。

    他にも受けられる研修があれば、可能な限り受ける。
  4)新規医薬品などでは、研修は必ずしも必要はない。

 

 2.申請と許可

 1)以下の内容を簡潔に申請書に記載し、事務局に提出する。
  (1)新規診療の内容:診療行為の名称、機器、医薬品の名称、目的、

     概要、利点、リスク、先行施設での成績。
  (2)申請に至るまでの準備状況。(新規医薬品では不要)
  (3)指導者の招聘。(新規医薬品では不要)
     エキスパートの招聘が必要かつ可能な場合、

     病院が、指導者を招聘し、指導者による診療行為も

     病院の賠償責任保険の対象とする。
  (4)指導者を招聘しない場合、その理由を記載する。
  (5)患者への説明文書:
     実施前に患者には、新規診療であること、準備状況に加えて、

     支払い方式(自由診療、評価療養、保険診療)と

     予想される自己負担金額について説明する。

     通常のインフォームド・コンセントにおいて、

     院内ルールで要求されている項目についても説明し、文書で合意を得る。


 2)事務局が書類を確認する。

   新規診療分類3については、

   事務局で、外国で公的医療保険として実施されているかどうかを示す資料を添えて、

   新規診療審査チームに回付する。

   抗がん剤などについては、米国では適応疾患が必ずしも固定されていない。

   当該国の定評ある三次資料の判断に従う。

   一次資料を集めて、診療の適否を個別に判断することはしない。

 3.許可
   新規診療審査チームが審査の上、院長が許可する。

   院長は、必要があれば専門家の助言を得る。

 4.結果報告
 1)初回症例の診療行為実施後、有害事象と治療経過をまとめ事務局、

   新規診療審査チーム経由で病院長に報告する。
 2)報告には招聘した指導者の役割分担、当院職員の役割分担を記載する。
 3)今後の方針を記載する。
 4)インシデントが発生した場合、通常通り医療安全管理室に報告する。

   インシデントには生じうる合併症も含める。
 5)初回症例だけの報告を求めているが、

   これは、医師の負担を軽減するためであり、

   以後の成績をモニターしないということではない。

   リスクの大きい医療については、公式、非公式にモニターを継続する。


   注:日本の医師は批判受容力に乏しいことがあり、

     モニター制度に対し、ヒステリックな反応をすることがある。

     また、内科医は手術の実情を知らないまま、

     善悪の判断をしたがる可能性がある。

     病院管理者による非公式モニターは、有用であり、反発も少ない。


 5.継続と差し止め
   問題があれば、院長が差し止める。

V 個人輸入
個人輸入が必要な場合には、

別に定める規定に従って必要な書類を薬剤部に提出する。

 

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