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精神保健指定医の不正取得事件を通して指定医に求められる役割を考える

2016/11/16

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

社会医療法人公徳会 若宮病院精神科
日向正光

2016年11月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

昨年の聖マリアンナ医大に続いて、

今回新たに99人の精神保健指定医・申請医の不正が発覚し、

指定医89人に対して前代未聞の大量取り消し処分が行われた。

 

その中には精神科の大学教授も含まれている。

患者の人権を無視しても違法性を問われない指定医は、

常日頃から一般医師以上に高い倫理観が要求され、

法に基づいて適切な患者処遇が求められるべきである。

 

ところが、その指定医らが症例の使い回しなどで不正による申請で取得し、

指導医もきちんと確認せずレポートに署名した。

 

どんな理由があったにせよ国家資格の不正取得に対して

厳正に処分されるのは当然のなりゆきである。


これまで多くの方々が指摘しているように、

申請者側に問題があるのは当然であるが、

現在の指定医申請制度にも問題があると思われる。

 

現在の指定医制度は臨床経験5年以上の医師で

3年以上の精神科臨床経験があれば

レポート提出と講習会の参加のみで指定医申請が可能である。

 

学会専門医のように筆記試験や面接試験、実技試験などがないために、

レポートのコピペはもちろんのこと、

申請者になりすまして他者が申請する替え玉申請や

架空の症例をでっちあげて申請しても取得が可能なシステムであるため、

過去にもそのような不正取得の噂が度々耳に入っていた。

 

特に今回処分されている病院を見ると、

大学病院が比較的多いと感じる。

 

大学病院は精神科病院と比較し

医師1人あたりの入院患者数が圧倒的に少ない。

よって指定医申請に関しては症例の奪い合いとなるため、

それが1つの症例を複数の医師で使いまわすことにつながり、

不正取得の温床になった可能性がある。


さらに、指定医は非指定医と比べて診療報酬上の加算もあるため、

病院側が積極的に指定医取得を働きかける土壌もあり、

重要な国家資格にも関わらず、

安易に不正に手を染めてしまったと考えることも出来る。

 

今回の事件をきっかけに指定医制度に関して

厳格な取得制度に変更されていくことになるだろう。


精神保健指定医が一般市民から最も期待されていることは、

例えば今年神奈川県で起きた障害者施設での大量殺傷事件などの反響から推測すると、

他害行為の危険性がある精神障害患者をきちんと病院で入院治療してもらい、

そのような危険性のある患者を病院外に出さないで欲しい、

又は退院させるにしてもきちんと病院や行政の管理下において

殺人や傷害事件などの他害行為を

発生させないでほしいということに尽きると考えられる。

 

私も市民の皆さんと同じ気持ちで指定医の端くれとして、

現行の法律内で出来る範囲のことをさせていただいているつもりであるし、

そのような精神科病院がむしろ一般的であると思う。

 

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現在の措置入院制度の下では、

患者退院後の管理義務はない。

 

しかし、精神障害患者は病識に乏しく怠薬などで

再燃再発を繰り返すケースが少なくない。

 

そこで実際には精神科クリニックや病院では、

怠薬リスクの高い患者には経口薬でなく

月1~2回の抗精神病薬持続性製剤の筋肉注射で

再発や再入院リスクを減らすことも行われている。

 

また多職種で情報を共有し、

患者の重症度に応じて退院前や

退院後の定期的な自宅訪問を行う事が一般的である。

 

特に他害行為のリスクのある患者の場合は

退院前に警察や行政機関、町内会の方々等とのカンファレンスを行って、

退院後に警察や市・県・保健所などの職員、

民生委員や町内会役員、有志の近隣住民による

自宅訪問や自宅周辺の見回りなどをお願いすることもある。

 

常に警察や行政機関等との密な連携を取ることで、

重大な事件を未然に防ぐ取り組みも積極的な病院では少なからず行われている。

 

今後、措置入院に関しては全症例が少なくとも一定期間、

病院や行政機関が退院後の管理を義務化する可能性もあるが、

ただでさえ人手が足りない地方などでは実態になじまないであろう。

 

患者の重症度やリスクに応じて、

他害行為のリスクが高い場合のみ

警察や保健所などの行政と病院が一体となって

対応することが現実的ではないだろうか。


「病識がないから、危険そうだから」等という理由だけで

措置入院患者を病院に長期入院させているのは

指定医の怠慢・逸脱行為であり、

法律的にも人道的にも許されることではない。

自傷他害のおそれが消失したのであれば

直ちに措置入院を解除しなければならない。


一方で、このような患者に今後どのようにかかわっていくことが

本人にとっても社会にとっても望ましいのかということを考えるときには、

つねに患者というミクロの視点と

社会というマクロの視点が必要ではないかと思われる。

 

自傷他害がなくなればすぐに退院させることが

本人にとって必ずしも望ましいとは思わない。

 

自傷他害に至った原因を生活歴や家族歴、既往歴、

心理テストの結果や周囲の人間関係、経済的事情等

さまざまな面から検討し、

薬物療法や精神療法を含めあらゆる手段を講じる必要があると同時に、

退院後については病院だけでの管理には限界があり

行政や地域との連携もこれまで以上に必要になっていくであろう。

 

措置入院解除後の管理義務がなくても

現在でも先に上げたとおり行政や地域との連携は十分可能であるが、

患者の人権に配慮すると同時に、

社会からは一般市民が安全・安心して暮らせるような

担保が求められているためにはどうしたらよいか

市民1人1人が考えてよいアイデアを出して行くことが望ましい。

 

我々精神保健指定医は措置入院した精神障害者を

社会復帰させるにあたって犯罪者にさせないための努力、

そして国民が安心して暮らせるための努力が

今まで以上に求められているのではないだろうか。

 

そのためには精神障害患者の人権に配慮するのは当然のことであるが、

それとともにこのような患者が一般社会で

他害行為を行うことなく生活出来るようにするために、

そして一般市民が安心して日常生活を送れるようにするためにも、

これまで以上に今後関係機関との情報共有や連携を密にし、

さらに関係機関には現実的で対応可能な

新たなシステムを構築することが必要不可欠であると思われる。

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