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新専門医制度により顕在化した日本のNeurologyの苦境

2016/11/17

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

安城更生病院
副院長/神経内科部長 安藤哲朗

2016年11月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

Neurologyの本来の訳語は「神経科」であって、

「神経内科」ではない。

 

しかし日本ではすでに精神科が「神経科」という言葉を使用していたために、

neurologyが「神経内科」と訳されて

広く使用されるようになったという。

 

思えばそのことが、neurologyは内科の一部(subspecialty)という

誤解を生む契機となったのかもしれない。

 

01

 

実は欧米のほとんどの国ではneurologyは

内科とは独立した診療科である。

 

Neurologyの中核は神経症候から

障害部位を推定して

適切な補助検査を選択して質的診断を行い、

そして有効なケアを考え実行することである。

 

そのためにはかなり専門的な神経学的診察の

トレーニングと経験がいる。

 

もちろんneurologistにも

内科的素養が必要なのは当然であるが、

内科的素養は皮膚科にも脳神経外科の医師にも

必要なものであり、

それは卒前教育と初期臨床研修にて

達成されているべきものである。

 

Neurologistには内科の素養に加えて、

精神科的素養が必要である。

 

この十数年の間に社会の高齢化に伴って認知症の患者が増加して

neurologistは広く認知症を診療するようになった。

 

特にレビー小体型認知症では、

身体症状と幻覚・妄想などの精神症状の両方を視野に入れて

診療することが求められる。

 

Neurologistにはリハビリの素養も必要である。

脳卒中などで脳に障害を負った患者に

効果的なリハビリで社会復帰を促すことが必要である。

 

さらにneurologistには脳神経外科や整形外科の素養も必要である。

手足のしびれを鑑別診断して治療するためには、

脊椎脊髄疾患の知識や診療経験が必要である。

 

こうして考えてみるとneurologistは

狭い内科の中に留まっているべきではない。

 

神経系は全身のあらゆる臓器、運動器、受容器にはりめぐらされており、

また周辺の環境を感知し、思考して、活動をする。

 

したがってNeurologyは全身を診る診療科である。

その意味では総合診療科にもっとも近い診療科といえるかもしれない。

 

この文章を読んでいる人の中には、

「Neurologistは神経変性疾患をゆっくり診ているマニアのような医師」という

イメージを持っている人もいるかもしれない。

 

日本のneurologistは社会のニーズに比べて圧倒的に人数が少なく、

マンパワーの問題で神経変性疾患に絞らざるを得ない状況の地域・施設がある。

そういう施設ではneurologistに対して

そのような誤解を持ってしまうかもしれない。

 

しかしactiveなgeneral neurologistのチームがある病院では、

全く違う印象を持つことだろう。

 

例えば私の所属する安城更生病院では、

毎年のようにすべての診療科の中で

時間外の緊急入院はneurologyが一番多い。

 

脳血管障害の急性期治療を始め、

意識障害、高齢者の痙攣など、

いくつかの大学から来た研修医達は

救急診療にneurologyのニーズが多いことに驚き、

またneurologistの活動の幅広さに驚いているようである。

 

救急診療だけではない。

当院のneurologistの一人は在宅診療専従で診療している。

神経変性疾患・認知症・脳血管障害のみならず、

各科のがん患者の在宅の緩和ケアや看取りをしている。

 

Neurologistは全身の診療ができて、

患者やその家族の人生のnarrativeに寄り添う経験も多いので、

在宅診療やクリニック開業にも役立つ能力を身に着けている。

Neurologistは高齢者介護の領域においても

今後は活動を広げていく必要があるだろう。

 

02これからの高齢化社会の医療・介護の鍵はneurologistが握っていると言ったら

言い過ぎだろうか?

 

現在日本では地方でも都会でも

neurologistが不足しており、

アメリカと比べて人口比で2/3程度しかいない。

 

 

私は日本のneurologistを

少なくとも現在の2倍に増やす必要があると考えている。

 

さて、新専門医制度である。

この新専門医制度ではneurologyは

基本領域の内科のsubspecialtyに位置づけられている。

 

そのため初期研修を終わった後も、

一律に他の内科subspecialtyを研修することが義務づけられている。

 

Neurologistのあるべき医師像からみて、

白血病の化学療法とその副作用の対応や心臓のPCIの助手をすることよりも、

精神科やリハビリの修練をすることの方がより重要性が高い。

 

従来までの内科認定医制度は

初期研修でほとんどクリアできるものだったので、

多くのneurologistは「本来neurologyは内科ではない」という思いを持ちながらも

受け入れてきた。

 

しかし新専門医制度において

内科専門医の必要要件が厳しくなるようである。

 

これではgeneral neurologistが育たず、

neurologyを専攻する医師も減少して、

日本の医療はさらに苦境に陥ることになるだろう。

 

新専門医制度の開始は延期になり、

いったん立ち止まって考えることになった。

 

neurologyと内科との関係を再考することを含めて、

高齢化社会において国民の幸福につながる医療は

どうあるべきかを時間をかけて十分に議論すべきである。

 

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