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指導・監査・処分の改善に向けて ~健康保険法に憲法25条(生存権)の趣旨をみたすべき~

2016/12/19

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

この原稿はMMJ12月号(12月15日発売)からの転載です。

井上法律事務所
弁護士 井上清成

2016年12月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

1.レセプト請求の指導・監査

現在、健康保険法、国民健康保険法、船員保険法、

高齢者の医療の確保に関する法律に基づき、

厚生労働省の地方厚生局は、

病院・診療所の保険診療報酬請求の指導や監査を行っている。

 

かつての社会保険庁・社会保険事務局の時代と比べると、

現在の地方厚生局による指導・監査は、

その運用面で改善されてきていると評してよい。


しかし、運用のもととなる法令が

「指導大綱」「監査要綱」といった通達レベルのものに過ぎず、

健康保険法を中心とする法律レベルが旧態依然のままである。

 

このままでは運用の改善にも限度があろう。

そこで、日本国憲法第25条に定める「生存権」の趣旨を充たして、

健康保険法第2条に定める基本的理念を補充修正した法律改正をし、

ひいては、指導・監査の改善につなげていくべきである。

 

2.健康保険法改正の理念

健康保険法改正の理念は、

「医療における主権」と「国民の生存権・受療権」と言えよう。


医療における主権の問題とは、

医療における究極の決定権者は誰か、という問題である。

 

もちろん、厚労大臣でも財務大臣でも、

広く政府でもないことは明白であろう。

そうかと言って、医療者でもない。


医療における主権者は、患者である。

しかし、その「患者」とは、

今現在、治療を受けている個別具体的な患者には限られない。

 

現在、疾病にかかり、または、障害があるにもかかわらず、

今もって医療を受けていない、

または、受けられない潜在的な「患者」も含まれる。

 

さらには、今は疾病も障害もないが、

将来は疾病や障害が生じて「患者」となるであろう者も含まれるであろう。

 

つまり、広く「国民」すべてである。


したがって、

医療における主権はすべての国民にある、と言ってよい。

 

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3.国民の生存権・受療権

すでに述べたとおり、

日本国憲法はその第25条で広く「生存権」を保障した。

 

生存権の健康の側面は、

「健康的生存権」と称してもよい。

 

この「健康的生存権」の医療の分野における権利が、

すべての国民が必要に応じて医療を受ける権利、

すなわち「受療権」にほかならない。


また、「受療権」を制度として現実に保障するために導入されたのが、

「国民皆保険制」である。

 

「受療権」の現実の保障のために、

国民のすべてに公的な医療保険制度を行き渡らせた。


このようにして、憲法第25条の生存権が、受療権、

そして、国民皆保険制として具体化されたのである。

 

したがって、保険診療の政策に、

そして、健康保険法の条文にも、

この趣旨・目的を明示しつつ、

国民皆保険制によって基礎付けられた受療権(保険診療受給権)を

現実化・具体化させることが要請されていると言えよう。

 

4.保険医の責務

翻って、保険診療に携わる医師・歯科医師、すなわち保険医は、

これらの国民の健康的生存権、患者の受療権、

国民皆保険制に適切に応える責務を負っている。

 

この保険医の責務は、

目の前の当該患者に対してはもちろんのこと、

広く国民に対する責務と言ってよい。


保険医は、その責務を自らの責任と権限において実現していくべきである。

保険医が自らの責任において国民の健康と受療を守るべく行使する権限を、

保険医の「診療権」と称することができよう。

 

保険医は、個々別々の患者に対して診療を実施する際には、

当該患者の具体的な症状と当該患者を取り巻く具体的な環境などの諸事情を総合考慮し、

専ら患者のためにその裁量を駆使して、

診療内容への不当な第三者介入から患者を守りつつ、

診療を実施しなければならない。

 

これは保険医の責務であると共に、

保険診療実施の権限(保険診療実施権)でもある。


保険医は、その有する「診療権」を適切に行使して、

自らで責任をもって、患者、広くは国民に対して、

必要に応じて適切な保険診療を行っていかなければならない。

 

5.個別指導の改善・充実

レセプト請求の指導・監査との関係で言えば、

保険医の診療権を実現していく方策は、

個別指導の改善とその充実であろう。


現在、指導は、集団的個別指導や個別指導を中心として運用されている。

しかし、指導の中心を、監査と連動している集団的個別指導や個別指導から、

集団指導に移行すべきであろう。

 

つまり、集団指導のような「研修」に改めるべきである。

今の指導は、指導という名の下で「調査」が行われていることが少なくない。

集団的個別指導と言うよりも集団的個別「調査」、

個別指導と言うよりも個別「調査」というのが、

その少なくない実態とも言えよう。


したがって、集団指導は集団「研修」に、

個別指導は個別「研修」に改めるべきである。

そして、中途半端な集団的個別指導は廃止しなければならない。


その上で、疑わしいレセプト請求をピックアップして

「調査」するかのような「指導」システムから、

より広く網羅的に充実させた「研修」をその実態とする

「指導」システムに移行していくべきである。

 

つまり、より多く、より広く、

集団または個別の研修を充実させるのがよい。

 

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6.算定要件の手続面の改善

集団指導・個別指導の「研修」としての改善・充実を図るとともに、

もう一つの重要な改善項目は、診療報酬の算定要件の手続面であろう。


診療報酬の算定要件は、

主として中央社会保険医療協議会で議論され、

その結果が診療報酬改定の形で告示される。

 

その要件のうちの実体的要件は十分に議論されるけれども、

手続的要件の議論は薄く、むしろ事務局任せになっていることが多い。

 

手続的要件とは、

たとえば、カルテへの要旨の記載などのことである。


実際、はなはだ微細な記載要件に過ぎて、

診療現場の実情に合わないことも多い。

 

今までの個別指導では、

その微細な記載不備にばかり焦点が当たっていることも多く、

そもそも記載要件の合理性・相当性にも

疑問を呈さざるをえないことも少なくないように思う。


したがって、今後は、診療報酬改定に際しては、

そもそも「研修」の大本となるレセプト請求の手続的な算定要件の定め方にも留意して、

改善を図っていくべきである。


●日本国憲法第25条(生存権、国の社会的使命)●
第1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

第2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、

            社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

 

●健康保険法第2条(基本的理念)●
健康保険制度については、

これが医療保険制度の基本をなすものであることにかんがみ、

高齢化の進展、疾病構造の変化、社会経済情勢の変化等に対応し、

その他の医療保険制度及び後期高齢者医療制度並びに

これらに密接に関連する制度と併せてその在り方に関して常に検討が加えられ、

その結果に基づき、医療保険の運営の効率化、

給付の内容及び費用の負担の適正化並びに国民が受ける医療の質の向上を総合的に図りつつ、

実施されなければならない。

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