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福島第一原発事故後の除染・復興作業員における入院時の生活習慣病に関する後方視的観察研究

2017/01/23

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

この原稿は2016年12月14日BMJ openにて公開された論文の日本語説明資料です。
Non-communicable diseases in decontamination workers in areas affected by the Fukushima nuclear disaster: a retrospective observational study

http://bmjopen.bmj.com/content/6/12/e013885.full

 

南相馬市立総合病院・外科
澤野豊明

2017年1月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

I. 調査概要

 

1. 背景

労働衛生は世界的に重要なトピックである。

世界保健機関(WHO)は、

特に健康的脆弱な層に関して、その重要性を強調している。

 

中でも出稼ぎ労働者は、

働く場所が頻繁に変わるその特徴から健康状態を悪化させやすく、

健康的脆弱者であると考えられている。

 

以前の研究では、

出稼ぎ労働者の社会経済的状態(SES)が低いことが

労働上リスクの上昇や医療機関へのアクセスの悪化を招き、

結果的に生活習慣病による死亡率を高めることが示唆されている。

しかし、出稼ぎ労働者の健康状態に関しては

彼らの雇用の不安定さから適切な研究がほとんどなされていないのが現状である。


除染作業員は、

2011 年3 月11 日に起こった東日本大震災によって引き起こされた

福島第一原子力発電所事故による放射能汚染地域で、

放射線被曝逓減を目指した除染作業を行うため雇用されている。

 

復興の加速に伴い、

県内外から作業員が入り被災地域で従事しているが一方で、

急激に多くの作業員が流入し彼らの健康状態に関する情報が不足している。

 

作業員の放射線被曝量は

2015 年には平均0.6mSv/年(Max 7.8mSv/年)と低い一方で、

除染作業員では生活習慣病や感染症、外傷のリスクにも

直面している可能性がある。

 

以前私たちが発表した症例報告では、

コントロール不良な生活習慣病に続く

クレブシエラ・ニューモニエ敗血症により死亡した除染作業員を取り上げ、

今後のさらなる除染作業員における生活習慣病の理解が必要と訴えた。

 

南相馬市は福島第一原子力発電所から13-38km に位置する市で、

原発周辺の除染作業員の多くが居住している地域である。

 

そして、南相馬市立総合病院は原発事故の影響を強く受けたこの地域で、

除染作業員に対する診療上重要な役割を担っている病院である。

同病院に入院した除染作業員を調べることにより、

作業員の健康状態を把握することができると考えた。

 

2. 目的

福島第一原発事故の影響を強く受けた地域で、

入院した除染作業員の生活習慣病の有病率および

その生活習慣病の治療状況を評価することにより、

除染作業員の健康状態を明らかにする。

 

3. 方法

本研究は南相馬市立総合病院に

入院した患者の診療情報を元に行われた後方視的観察研究である。


対象:2012 年6 月1 日(南相馬市が除染作業を開始した日)から

         2015年8 月31 日までに南相馬市立総合病院に入院した患者のうち、

         居住住所が相馬郡・双葉郡域外で、

   かつ診療録から除染作業員と判断された入院患者。

 

   検査結果データベースより抽出した項目:

    性別・年齢・居住住所・入院時診断・発症が勤務中か否か・

    生活習慣病の有無・アルコール消費量・喫煙状況・婚姻状態・保険加入状況

 

【調査】
・入院した除染作業員の健康状態を評価するため、

   高血圧、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病の有病率および治療状況を分析した。

 生活習慣病が入院診断に及ぼした影響を評価するため、

 それぞれの入院診断と入院診断の発症が勤務中であるかを調べた。


・生活習慣病に関しては下記のように定義した。

 高血圧:収縮期血圧≧140mmHg または拡張期血圧≧90mmHg または降圧薬服用中。

 脂質異常症:LDL コレステロール値≧140mg/dL または

       HDL コレステロール≦40mg/dLまたは中性脂肪≧150mg/dL

         または脂質異常症改善薬服用中。

 糖尿病:随時血糖値≧220mg/dL またはHbA1c≧6.5%または糖尿病薬服用中。


・生活習慣を評価するため、

 アルコール消費量をアルコール常用者または1 日エタノール換算40g 以上に、

 喫煙量を非喫煙者、喫煙者、1 日15 本以上喫煙者にそれぞれ分類した。


・婚姻状況の健康への影響を評価するため、

 非結婚状況にある作業員と結婚している作業員の生活習慣病の有病率を比較した。


・保険加入状況に関しては、

 日本では国民皆保険を導入されてはいるものの、

 労働災害や交通事故で病院を訪れた際には別の保険は適応されるため、

 対象者の保険状況を直接記載した。

 

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II. 調査結果

2012 年6 月1 日(南相馬市が除染作業を開始した日)から

2015 年8 月31 日までに南相馬市立総合病院に入院した患者のうち、

居住住所が相馬郡・双葉郡域外で、

かつ診療録から除染作業員と判断された入院患者は

113 名(うち112 名が男性、年齢の中央値は54 歳(年齢範囲18 歳-69 歳))であった。

 

そのうちの98 名(86.7%)が福島県外出身であった。

72 名(63.7%)の高血圧患者のうち、

57 名(79.2%)の患者が高血圧の治療を受けていなかった。


同様に、脂質異常症患者45 名(39.8%)のうち37 名(82.2%)が、

糖尿病患者27 名(23.8%)のうち18 名(66.7%)が未治療であった。

83 名(73.5%)がアルコールを常用し、

28 名(24.8%)のアルコール消費量がエタノール換算で1 日40g を超えていた。

加えて、94 名(83.1%)が現喫煙者であった。

11 名(9.7%)の保険が非加入状態であった。

また77 名(68.1%)は非結婚状態だった。

 

 

III. 考察

・本研究を通し、除染作業員の健康状態を保つためには、

 職業上放射線被曝や外傷を防ぐことに加え

 生活習慣病の管理が欠かせないと考えられた。

 

 本研究では入院患者の約80%が内科疾患での入院であり、

 アルコール常用者や喫煙者の割合が多く、

 更には生活習慣病の未治療率が高かった。

 

 このような方達では生活習慣病による死亡率が上昇するため、

 生活習慣病の予防管理が欠かせない。

 

 除染作業員では半年毎の健康診断が義務付けられているが、

 現状では効果的ではない可能性が示唆された。

 こういった出稼ぎ労働者に対しては、

 生活習慣病を管理するため、

 包括的でかつ持続的な健康サポートが必要不可欠である。


・職業上除染作業員には外傷のリスクがあることが示唆された。

 除染作業員は全国各地から集まった経験値の少ない作業員が多く、

 そのことが外傷のリスクを上昇させているかもしれない。

 それに加え、放射能汚染により人が入らなくなり荒廃した地域では

 蜂による健康被害も報告されている。


・除染作業員は社会経済的状況(SES)が低いために、

 さらなる健康リスクに晒されているかもしれない。

 本研究で認められた保険加入率の低さや非結婚者の高い割合は

 SES の低さを示唆するものであると推測する。

 

 除染作業員はある種の日本社会で不利な立場にある方々と想像される。

 しかし、本研究では情報が不十分であり、

 推測の域を出ないため、さらなる研究が必要である。


・本研究は福島第一原発事故後に雇用された

 除染・復興作業員の健康状態に関する最初の研究である。

 しかし、1 病院に入院した除染作業員のみを対象とし且つ対象者も少ないため、

 必ずしも除染作業員全体を反映しているとは限らない。

 今後、除染・復興作業員全体の健康状態を把握するためのさらなる研究が必要だ。

 

Ⅳ. 結論

入院した除染作業員では生活習慣病の高い有病率が認められた。

長期低線量被曝のフォローアップが必要な一方で、

高血圧、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病の管理が必要不可欠である。

 

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Ⅴ.発表雑誌

発表誌:BMJ Open
発表日:2016 年12 月14 日オンライン版
リンク:http://bmjopen.bmj.com/content/6/12/e013885.full
論文題目:Non-communicable diseases in decontamination workers in areas affected by the Fukushima nuclear disaster: a retrospective observational study
著者:澤野豊明1、坪倉正治1、尾崎章彦1、レポード・クレア1、野村周平2、

   嶋田裕記1、越智小枝3、塚田学1、根本剛1、加藤茂明4、金澤幸夫1、

   大平広道1
著者所属
1:南相馬市立総合病院
2:インペリアル・カレッジ・ロンドン公衆衛生大学院 疫学統計教室
3:相馬中央病院
4:常磐病院

 

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