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絶望の専門医制度

2017/01/25

 

この原稿はハフィントン・ポストからの転載です。

http://www.huffingtonpost.jp/michiko-sakane/the-despair-of-specialist-system_b_13985802.html

 

坂根Mクリニック
坂根 みち子

2017年1月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

2016年12月16日に、

日本専門医機構から専門医制度新整備指針が発表された。

前回、各方面から批判の嵐にさらされた制度の仕切り直しである。


ざっと目を通してみて驚いた。

とてつもない管理体制が始まろうとしている。
ここまで来ると人権侵害に近いのではないか。

これから専門医を取ろうとする人達はこの制度で人生が大きく左右されるが、

多くの人はわかっていない。

強力な管理統制医療になってしまうこの制度の問題点を指摘する。

 

専門医制度の根幹は、専門医の質の担保であるはずだ。
どんなところで研修しようと、

結局のところ、専門医としてのレベルに達しているか否か、

それだけが必要条件ある。


ところが、この指針を読んでも、

どうやってその質を確保するのか全くわからない。

神は細部に宿ると言われているが、

細部は全く明らかにされていない。

研修プログラムは別途定める、で終わりである。

これでは制度の「管理者」次第でどうにでもなってしまう。

 

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さらに驚くべきことに、


1、この先、医師は必ず何らかの専門医になる、

  そしてそのために卒後5年以上指定されたところで

  研修しなくてはいけない、のだそうだ。


6年かけてやっと卒業したと思ったら、

いきなりあと5年の研修が全員に課せられてしまったのである。

卒業した医師全員が専門医になる必要がどこにあるのか。

何でも診れるジェネラリストを増やしたいのではなかったのか?

 

2、専門医の経験目標の中に、

  地域医療の経験という項目がある。


何のために、こんな馬鹿げた項目をいれたのか。

例えば、高度医療を担う心臓血管外科のスペシャリストに

地域医療を必須化する必要がなぜあるのか、全く理解できない。


仕切り直しで機構がもっとも気を配ったのは、

研修施設が大病院や大学病院に限定されて、

専門医を目指す医師達が偏在し、

地域医療が崩壊しないようにという一点に尽きるようだ。

 

そう言えば、専門医に僻地医療を義務付けよ、

と言う外野の声も聞こえていた。

その結果がこれか。


ビジョンも何もあったものではない。

医師不足対策が専門医制度に紛れ込んでいる。

各専門学会の委員はいったい何をしていたのか。

 

私は循環器内科の専門医である。

夫は典型的な、過重労働の、病院から帰って来ない勤務医だった。

親は遠く(それでも何度も助けてもらったが)、

3人の子育ての負担はほぼ私が担ってきた。


子育てしながら専門医を取るのに一番の問題は、

研修指定病院での常勤歴だった。

 

研修先は医局が決めるから、

都合良く研修指定病院へ配属されるとは限らない。

また循環器内科は救急も多い過酷な科であり、

子持ちの女医がハードな研修病院に配属されないように

「配慮」してくれるために、

研修指定病院で勤務出来ない面もある。

 

日々分刻みで走り続けてきたが、

親と同居でもなければ、実際 いけと言われても、

帰って来ない夫と子供を抱えて循環器の常勤は無理だったと思う。

 

私は卒後4年間の研修の後、大学院へ進学し、

夫の留学に付いて渡米した2年間を含め、

6年間の大学院生活中に3人の子供を授かり非常勤勤務を続けた。

 

博士号取得後も子育てと常勤の両立は難しく、

しばらく非常勤勤務を続けた。

だが、非常勤であっても(今でも珍しいことだと思われるが)

自分で入院させた患者の心臓カテーテル検査はやらしてもらい、

外来だけではない臨床経験を亀の歩みのように積み重ねていった。


その当時は、時短勤務や産後復帰支援などというものはなく、

がんじがらめに制度ではなかったために

逆にこちらの熱意で何とでもなったのである。

 

数年後、常勤に戻るために専門医試験を受けることにした。

循環器専門医は、6年の臨床経験と学会所属、

そして、3年間の指定病院での研修が必要である。


この指定病院での研修歴が少し足りなかった。

だが、非常勤で外来診療と検査を続けてきた私にとって、

たとえ書類が整ってペーパーテストが通ったとしても、

専門医として入院患者の治療経験が足りなかった。

循環器内科専門医になるには、質の問題を抱えていたのである。


私は、非常勤でもカテーテル検査をやらせてくれていた病院の上司と掛け合い、

金銭面は今までの非常勤のままで、

勤務日数を増やし常勤扱いにしてもらった。

 

今だから言うが、先方の病院にとっても常勤医が足りなかったので、

win-winであったのだ。

 

そして救命救急センターもあるその病院で、

週に1度は朝のICU回診から参加して

(週1日でも小学生の子供が3人いて、7時前に家を出るのは至難の業)、

病棟フリーの日を設定し、入院患者のカルテから、

他のドクターの判断、その根拠、オーダー、患者の治療経過をつぶさに見て

学習する時間を設定した。

 

その間救急搬送があれば、救急外来へ飛んでいき、

循環器病棟で急変があれば真っ先に駆けつけ、

手技や判断の再トレーニングを自らに課した。

 

そのかわりといってはなんだが、

心エコーやトレッドミル検査、経食道エコーなど

得意分野では労力を無償提供し、時に若い研修医を教える側に回った。


この日々がなかったら、私が循環器の専門医を取ることも、

常勤として戻る選択肢もなかったであろう。


常勤復帰後も両立のためにありとあらゆる勤務パターンの試行錯誤を繰り返した。

その間、専門医としては、

PCI(心臓カテーテル治療)まで出来るようにならないと

半人前と感じるようになっていった。

 

だが、子育てしながらPCIするには、

交代制勤務が必要条件で

(そうでないと、頭を下げ続けながら、同僚に負担をかけながら仕事を続けるしかない)

医局の人事内でそういった働き方は出来なかった。

 

最終的には医局を離れて、

有志の仲間達6人と循環器に特化した小さな救急病院で、

交代制勤務で24時間PCI体制を構築することにつながっていった。

 

話を戻す。

今回の指針では、こういった、院に行きながら、

子育てしながら、という「ながら族」的な研修法を認めていない。

 

指針には「特定の理由(海外への留学や勤務、妊娠・出産・育児、

病気療養、介護、管理職、災害被災など)のために専門研修が困難な場合は、

申請により、専門研修を中断することができる」とあるが、

必要なのは、all or nothingの制度ではなく、

様々な理由で週1日や2日しか研修できずとも、

研修を積み重ねていける制度である。

 

医師の交代制勤務が出来ていない現状が放置されたままで、

研修病院での常勤歴を専門医の条件に入れるということは、

事実上多くの女性医師を出産から遠ざけるか、

専門医取得から遠ざけることを意味する。

「質」が最終目的であるなら、途中経過には多様性を認めて欲しいのだ。


アンタッチャブルな話であるが、

私の出身の筑波大学循環器内科でも、

最近まで子供がいてPCIまで手がけた女医は私ただ一人だった。

つまり、結婚をしないでPCIに邁進するか、

子供を持てば循環器の王道であるPCIには手が出せないか、

実質二者択一になっているのである。

 

専門医機構のメンバーを見るとほぼ男性医師で占められているようだが、

子育てをしながらキャリアを積むことがどういうものか、

想像することさえ出来ない多様性のない人選なのだろう。

 

現実には女医のパートナーの7割は医師である。

男性医師が帰って来なければ、

パートナーの女性医師の活躍は期待出来ない。

 

他にもメンバーが現場を知らないと思われる

机上の空論がたくさん盛り込まれている。

 

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研修施設群の形成について
「専門研修基幹施設が中核となり

複数の専門研修連携施設とともに専門研修施設群を構成する。

専門研修専攻医は、施設群内の複数施設を

年次で定められたプログラムに則って計画的に異動する 」のだそうだ。

これは質の担保というより、研修医確保の視点しか感じられない。


さらに、一見研修施設に認定されれば研修医が確保できるように思われるが、

研修施設には必ず基準をクリアーした指導医がいなければいけないのである。

そもそも地方には指導医の確保さえ困難な医療施設がたくさんある。

結局大学病院しか基幹施設に認定されないところが続出するだろう。

 

さらに、以下の項目
「基幹施設での研修は 6カ月以上とし、

連携施設での研修は 3ヵ月未満とならないように努める」


質の担保をどうするか決めずに、

どうでもいいような形式ばかりにこだわる。

これもやはり、研修医確保の駆け引きの産物であろう。

 

「専攻医に対する評価は、専門研修指導医によるものだけでなく、

メディカル スタッフおよび施設責任者等による多職種評価を考慮する」
この項目もよくわからない。

 

極端なことを言えば、人間性がどうでも、

ものすごい技術を持った人が専門医にいることも大事である。

 

「各基本領域学会が指定する学術集会・研究会・講習会に参加し、

専門医として総合的かつ最新の知識と技能を修得する」


学会参加義務は本当に必要なのだろうか。

多くの医師にとって、学会参加は専門医のポイント獲得のためだけで、

実態はポイントをお金で買っているようなものではないだろうか。

 

学会に行かなければ専門医としての最新知識を習得できないという前提は、

ネットが発達した現在において、現実と乖離していると言わざるを得ない。

 

また実際には、大きな学会が開かれるたびに、

その期間、地域医療を担う医師が不足し、

現場の医療に悪影響を与えていることをご存知ないのだろうか。

 

指摘すれば切りがないのでこのくらいにしておく。
今までの制度では専門医の「質」の担保が

不十分だったところから始まった議論だったはずである。

それがいつのまにか学会と機構の主導権争いや医師確保の問題に変質していった。


最終的に、専門医としての最重要事項「質の担保」は担保せず、

多様性を認めず、画一的な管理体制を強いる絶望的な制度が出来上がった。


この制度は、医師の人生設計、キャリア、

さらに家庭生活、子育てに多大な悪影響を与える。
現場から声を上げなくてはいけない。

 

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