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「高野病院から日本の震災復興と地域医療を考える -日本に迫る、他人事では済まされない医療崩壊-」

2017/02/17

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

この原稿は「構想日本」2017年2月9日配信号からの転載です。

http://www.kosonippon.org/mail/detail.php?id=804

 

南相馬市立総合病院
医師 山本 佳奈

2017年2月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

 

昨年末、福島県双葉郡広野町にある高野病院の高野英男院長が、

自宅の火災で亡くなった。81歳だった。

 

高野病院は、福島第一原子力発電所からわずか22kmに位置している。

東日本大震災後、避難することなく双葉郡で唯一の病院として診療を続けていた。

 

高野院長は精神保健指定医・内科医・診療放射線技師・当直医・救急医をこなし、

たった一人の常勤医として

広野町の住民や復興関係に携わる作業員の診療を担い続けていた。

高野病院は、地域に欠かせない存在であったのだ。

 

ところが院長の突然の死により、

高野病院はたった一人の常勤医を失った。

 

高野病院は存続の危機に陥り、

入院患者はもちろん、広野町の住民や復興に携わる作業員の人々の命も

危ぶまれることになった。

 

火災の翌日には、

遠藤智広野町長から桜井勝延南相馬市長に支援要請があり、

南相馬市立総合病院の有志の医師が中心となり

高野病院を支援する会を立ち上げた。


まず、ホームページ※1やFacebookページ※2を作り、

情報発信を積極的に行った。

 

次に、ボランティア医師の募集や、

支援してくださる近隣の病院からの医師派遣の取りまとめを行った。

また「Readyfor」によるクラウドファンディング※3を立ち上げ、

寄付の呼び掛けも始めた。

 

なんとか1月に勤務するボランティアの医師を確保することができ、

2月から3月末まで中山祐次郎医師が常勤医として働くことも決まった。

 

しかし、4月以降に勤務する常勤医は決まっていない。

早急に常勤医を確保できなければ、

入院患者に質の高い医療を提供することは難しい。

ボランティアによる支援も長くは続かない。

4月以降は閉院も免れないだろう。

 

高野病院を襲った今回の危機は、

浜通りや被災地だけの問題ではない。

地方における「医療崩壊の象徴」だと私は考える。

 

たった一人しか勤務医がいない病院は、

同じような状況にいつなんどき陥っても不思議ではない。

高野病院での出来事は氷山の一角に過ぎないのだ。

 

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いったいどういうことなのか?

地方と都市部の各々が抱える問題から医療崩壊の危機について述べたいと思う。

 

総務省の「人口推計」によると

日本の高齢化率は26.7%(2015年10月1日現在)だ。

 

広野町の高齢化率は28.7%、

私の住む南相馬市は31.9%と全国平均を上回る。

意外かもしれないが、

東京から100km圏内に位置する千葉県鴨川市の高齢化率は、

なんと36.2%だ。


人口の約41%を高齢者が占める徳島県の三好市では、

高齢者の減少により空き家が増加し、

満床だった高齢者施設には空きが出ているという。

 

一方、都市部では、地方と比較して医療機関を経営する上での固定費が高い。

政府による医療費の抑制・診療報酬減額が拍車をかけて、

病院経営を悪化させている。

 

例えば、東京築地の名門病院である聖路加国際病院で、

常態化する医師のサービス残業が問題となり、

労働基準監督署が調査をしたと言う。

 

高い固定費と診療報酬の減額によって収入は減り、

都市部にある多くの病院が経営難に陥っている。

 

つまり、地方における急速な高齢化と、

同時に起きている高齢者人口の減少、

都市部における高い固定費、

さらには診療報酬の引き下げが引き金となり、

医療は都会でも地方でも次第に崩壊しつつある。

医療の抱える問題は、医師不足や看護師不足だけではないのだ。

 

民間が経営する病院であるにも関わらず、

高野病院は震災以降、広野町の生活を支えてきた。

 

だが、これ以上民間だけで経営するのは不可能だ。

このまま常勤医が見つからなければ、

広野町に住む住民のライフラインはなくなってしまう。

住民が安心して暮らせるように、

また広野町に戻って生活ができるようにするためには、

個人にこの責任を負わせるのではなく、

行政も支援をすべきなのではないだろうか。

今の県や町の対応は、責任をなすりつけあっているようにしか見えない。

 

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そんな中、24億円の総工費をかけて

「県立ふたば医療センター(仮称)」※4が

福島第一原発から12kmに位置する富岡町に建設される予定だ。

 

誰も住んでいないところに建てることも理解しがたいが、

双葉郡の避難指示が解除されれば、閉鎖する予定だという。

 

高野病院をはじめ、

近隣には建物としては十分機能しうる病院があるにも関わらず、

そんなハコモノを作るのに

これほどの大金をかける意味があるとは到底思えない。

 

どうか、亡き院長が命賭けで守りぬいてきた

地域医療を絶やさないでほしい。

 

広野町に住む住民の命が危機にさらされることのないようにしてほしい。

微力ながら、高野病院を支援する会の一員として

最後まで応援し続けたいと思う。

 

※1 ホームページ(https://readyfor.jp/projects/hirono-med

※2 Facebook ホームページ (https://www.facebook.com/savepatientakano/

※3 クラウドファンディング (https://readyfor.jp/projects/hirono-med

※4 県では、双葉郡の復興及び住民の帰還に向けた環境を整えるため、

         民間事業者が建設する施設を県が買い取り、

         県立ふたば医療センター(仮称)として整備する事業を実施予定。

参考 「上昌広と福島県浜通り便り」(http://japan-indepth.jp/?p=32530
総務省、徳島県、広野町、日本医師会 のHP

 

追伸:4月以降の院長と常勤医が内定しました(2月2日現在)。

しかしながら、高野病院には依然として解決すべき問題があります。

資金と精神科医の問題です。

 

新しく来てくださる先生方の雇用を安定的に継続するためには、

今以上のサポートが必要です。

 

また、震災後、双葉郡の入院施設のある精神科病院は高野病院だけでした。

4月以降の院長・常勤医が決まっても

双葉郡で民間医療機関が経営を継続するのは難しいのです。

 

「院長・常勤医」に関して,

4月以降の見通しが立って来た今、

改めてこの問題の本質的な議論がなされることを心から願っております。

 

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