各分野の専門家が医師の転職や開業などに必要な情報を配信します。

トップ > 医師からの情報発信 > 地方の自治を根底からむしばむ新専門医制度 ~地方自治体首長と地方中小病院

地方の自治を根底からむしばむ新専門医制度 ~地方自治体首長と地方中小病院

2017/04/19

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

仙台厚生病院 遠藤希之

2017年4月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

 

「新」専門医制度には様々な問題がある。

 

それらが全く改善されていないにも関わらず、

日本専門医機構は未だに今年度施行開始を強行しようとしている。

 

今年二月、医系市長会が

「地域医療への悪影響が懸念される」との声明を出した。

それに対する機構側の回答が聞こえてきた。

 

「地域の病院での後期研修では(中略)

大学病院などに頼むことが多いのではないか。
各施設が専攻医を取り合っていたら、

医師の偏在は続くのではないか。

むしろ、大学などの大病院と、地域の病院が連携をして、

専攻医を循環させる仕組みを作った方が良い。」とのことである。

 

全くの欺瞞である。なぜか。

 

基幹病院>連携施設群の「循環型研修」システムでは、

後期研修医の絶対数が全く足りず、

一旦基幹施設に所属させられた研修医を、

大部分の連携施設に「循環」させることが不可能になるためである。

 

実は、「新」制度に移行する前の代表的な臨床領域の教育病院数はこの通りだ。

内科1,163, 外科2,072, 整形外科2,033, 産婦人科630、小児科520施設

(日経メディカル2016年9月号、特集「始まらない専門医制度」)。

 

もちろんこの全てに3~5年目の後期研修医が必ずいるわけではない。

しかし逆にいうと、

これほどの数の「地方の施設」が

「3~5年目の後期研修医」を欲している、

と考えるべきなのである。

 

たとえ一病院あたり2~3人しかいなくてもよい。

そのような後期研修医は一つの病院に長く務めることで

「地域医療の特徴」に適した「戦力」になってきていた。

その地域にとっては非常に重要かつ「宝物」といえる人材なのだ。

 

ところが「新」制度では教育病院が激減し、

加えて全ての後期専攻医が

「基幹施設のプログラム」に所属しなければならなくなる。

 

これはつまり、自前で後期研修医を雇ってきた多数の施設から

「3~5年目の後期研修医」が、

「循環型研修」のお題目のもとに全て引き剥がされる、

ということに他ならない。

 

機構側のおためごかしが始まる。
「地域の施設が専攻医を取りあうといけない。

大病院を中心とした「循環型研修」を行えば地域医療も保全される。」

 

しかし、これが地域医療と医師の需給バランスを無視した

「欺瞞」なのである。

 

01

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

具体的にみてみる。

 

まず最大医師数を誇る内科ではどうか。

新制度での基幹施設は532施設、

そして連携施設と特別連携施設を合わせると2053、

新制度では研修可能な施設が一見2600 に上る。

 

そこで機構は

「循環型研修なら全ての連携施設に

後期研修医を一定の期間は送ることが可能だ。

つまりこれは、地域医療に配慮した素晴らしい制度だ」と胸を張る。

 

ところが、内科系に進む後期研修医は

(吉村機構理事長作成の平成29年3月17日記者会見時のスライドによると)

直近三年間の平均が一年あたり3147人だ。

 

もし、新制度の基幹施設(大学病院も基幹施設だ)

一か所あたりに平均6人後期専攻医が所属したら、

残る2053施設は、自前で雇おうとも

三年目の医師がほぼゼロになる勘定だ。

 

その後の「循環研修」とやらによる「派遣」は、

基幹施設の意向次第、

大学病院であれば旧来の「医局人事」になる。

しかも三か月程度の循環研修では地域のニーズを汲むこともできず、

ただのお客さんで終わる。

 

身近な外科や整形外科ではどうか。

「新」制度になると、基幹施設は外科188,

整形外科104にまで激減するのだ。

一方一学年あたり外科に進む後期研修医は

過去三年の平均で外科820人、

整形外科は478人しかいない(上記、吉村氏の資料より)。

 

この二つの科をみても、

一旦基幹施設に吸い上げられた後期研修医を、

本来二千以上もあった地方の教育施設に「循環」できるわけがない。

 

上記以外の科でも小児科、産婦人科を筆頭として状況は変わらない。

過去三年の後期研修医数平均は、

小児科458人、産婦人科411人、麻酔科が480人である。

 

それ以外の12の基本領域科は四百人以下どころか、

救急科以外は、三百人以下しかいない。

 

地方の病院がこれらの科の後期研修医を、

自前で連続複数年間雇用したくても不可能な「制度」になるのだ。

 

02

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、現状では18の基本領域の各科いずれにも大(学)病院に行かず、

地域で頑張ろうと決心している若手医師達も少なくないのである。

 

地域特性にみあったそれぞれの科の研修を、

あるいは、基本診療科を越えた研修や診療を、

行いたい若手医師も多いということだ。

そのような志を持つ若手の芽をも、この「制度」は潰してしまうことになる。

 

地方の自治体首長や地方病院の管理者の中には、

どこかの「大病院、基幹施設」の「連携施設」になっているから、

必ずや「研修医」をまわしてもらえるだろう、

と考えている方もいるかもしれない。

 

しかし、それは全くの間違いである。

 

この「新」専門医制度が始まったとしたら、

地域に根付きたい若手医師を雇うこともできなくなる。

 

特に、長年の自助努力で後期研修医を雇い、育て、

地域の拠り所を創り出してきた、

いわば「地域イノベーションに成功した」地方自治体・病院ほど、

地域の医療崩壊を覚悟しなければならない。

皮肉、かつ極めて残念なことではあるが・・・。

 

吉村氏は言う。

専門医制度には各基本領域に分け隔てない

「統一基準」を設けるべきだ、と。


しかし過去に「中央権力」が地方の現場、状況を無視し、

自分たちの都合で「統一基準」を設けたために、

地方自治体が煮え湯を飲まされた例には事欠かないのだ。

地方自治体の首長ならみな経験していることだろう。

 

この「新」専門医制度が開始され、

地方がまた煮え湯を飲まされることにならないよう、切に願うものである。

 

 

お問い合わせはこちら