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新専門医制度は「医師養成」と「地域医療」の両立に努力してきた市中病院を崩壊させる

2017/04/27

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

安城更生病院
副院長/神経内科部長 安藤哲朗

2017年4月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

 

1.市中病院は、いかにして「医師養成」と「地域医療」を
      両立させてきたか

地域によって施設によって状況は多様なので、

まずは私の勤務する病院の状況を紹介する。

 

名古屋市の郊外にある地域中核病院の安城更生病院は749床の急性期病院で、

年間9000台を超える救急車を受け入れる救命救急センターを持ち、

平均在院日数11日台の忙しい病院である。

 

医師数は218人で、そのうち初期研修医が39人、専攻医が51人である。

毎年19人(プラス1年次のたすき掛け1、2人)の初期研修医が入職して、

初期研修を終わった後も8-9割は専攻医として引き続き当院に残る。

 

そしてマイナー科は比較的早く大学に移動するが、

内科や外科などはおおむね卒後5、6年間働き、

専門医の資格をとってから大学院に進むか他院に移動することが多い。

 

この時期にこれを研修するというプログラムがある訳ではなく、

研修の基本はon the job training(OJT)である。

 

1年次から救急外来のチームの一員として、

先輩達と共に救急現場で役割を果たして、

徐々に自分のできることを増やしていく(正統的周辺参加)。

 

また先輩は、後輩の能力をみながら

徐々に課題を与えて教育していく(認知的徒弟制)。

 

2年次が1年次を教え、

3年次が2年次を教えるという屋根瓦制が

卒後1年次から卒後5、6年次まで形成されている。

 

したがって指導医はすべてのことを手取り足取り教える必要がなく、

重要な方針決定と、全体の管轄、危機管理に集中できる。

 

この名古屋地区伝統の研修方式は、

実践的能力を高めるのに極めて効果的で、

初期研修2年次が終わるころには、

どんな疾患の初期診療でもおおむね対応できる能力を身に着けている。

 

卒後3年目から5年目の専攻医の世代には、

当院の救急診療の中心戦力となりながら、専門の経験を積んでいく。

 

内科の場合は、3年目からsubspecialtyに進むが、

同時に救急外来の内科当直や一般内科の外来も受け持っている。

 

研修医時代の同期のほとんどが、

様々な診療科に散らばって同じ病院に残っているので、

おのずと診療科の垣根が低く、気軽に相談できるメリットがある。

 

この世代には、主治医として責任を持って

診療をする態度を身に着けることが重要である。

 

自分受け持ち患者の他の領域の合併症も、

同期の仲間や先輩に相談しながら一緒に責任を持って診療しており、

また退院後も長く外来フォローをしている。


人口当たりの医師数が

全国平均よりも低い愛知県(人口10万人当たり202人で、全国で38番目である)で、

市中病院が地域医療を維持しながら医師養成をするための

長年の努力の結晶がこのOJTと屋根瓦式研修システムである。

 

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2.これまでの専門医制度の医師養成における位置づけと意味

専攻医の3年間は、

これから専門医になるに当たって最も重要な時期である。

 

この時期に、医師として責任を持って患者に向き合い、

地域医療の一端を担う姿勢を身に着けなくてはならない。

 

そのためには、眼の前にやってきた患者を選ばずに

責任を持って対応しなくてはならない。

 

脳卒中をはじめとして重症の救急患者が多い当院においては、

大変な仕事量をこなさなくてはならない。

 

幸い当院にやってくる研修医、専攻医は極めて意欲的な若者が多く、

全く労を厭わずに診療をしている。

そのような若手医師達を全力で育てることが指導医の使命である。

 

当院には、研修医、専攻医は病院の宝であり、

社会の宝なので、大事に育てたいという気運がある。

 

日常診療で適切な指導をするとともに、

専攻医のmotivationを高め、臨床能力を伸ばすには、

多くの症例報告をさせるのが効果的である。

 

症例報告をすることによりプレゼン能力が向上し、

また自分の経験した症例を見直して関連論文を読むことで深く学ぶことができる。

また、適切な症例があれば論文にまとめてもらう。


そして目の前にやってきた患者を主治医として

真摯に向き合って多くの診療経験を積み重ね、

症例報告をいくつかするうちに、

3年間でおおむね神経内科の全領域の症例を経験できる。

 

そして卒後6年たったところで受ける

神経内科専門医試験を受けるために

神経内科の全領域を再度見直すことで、

自分の経験が不足している領域がわかり、

その領域をテキスト、文献で学ぶことができる。

 

また専門医試験は初期の修行の卒業試験として、

それにパスするために勉強することが、

ハードな専攻医研修の先にある目標としてmotivation維持に役立っている。


専門知識・技術は奥が深く、一生勉強を続けなくてはならない。

専門医資格をとっても、

それは神経内科専門医としての質の担保をするという面は少なく、

むしろ神経内科に入門が許されたという免状の意味しかない。

 

専門医を取得したばかりの医師は、まだまだ初心者である。

しかし、「専門医資格を取る」というmotivationを持ちつつ、

専攻医時代に地域医療と真っ向から向き合うことは、

その後の医師人生に重要な「一生学び続ける姿勢」や、

「地域医療に責任を持つ態度」を身に着けるのに、

大きな意味を持っていると私は思う。

 

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3.新専門医制度は市中病院を弱体化させ、地域医療を崩壊させる

新専門医制度が開始されると、

これまで指導医の長年の努力によって

うまくいっていた当院の「医師養成」と「地域医療」の両立が危機となる。


まず専攻医の人数が例年の人数を基準に制限される。

「当院で地域医療を担うためには何人の専攻医が必要」という理由は通用しない。

 

しかも、愛知県は人口あたりの医師数が

全国平均よりもずっと少ないのにも関わらずキャップ制が導入される

(愛知県を制限すると機構が考えた根拠に妥当性があると思えない)。

 

超高齢社会で脳卒中や認知症患者が増えて、

それに対応する神経内科医のニーズがどんどん増えているのに、

基本領域である内科の専攻医の数で制限されることになる。

(ここでは詳しく触れないが実は内科とsubspecialtyの関係には重大な問題が生じている)

 

そして当院の救急診療の中心戦力であった

卒後3年目から5年目の専攻医が

原則1年間強制的に連携施設に引き抜かれる。

 

他の施設から別の専攻医が短期間当院にやってくるかもしれないが、

短期間では「お客様」状態であり、戦力として期待できない。

 

すなわちそれは、名古屋方式の屋根瓦式研修制度の終焉である。

病院の診療能力は相当程度低下するだろう。


専攻医の立ち位置からみても、

慣れない連携病院に短期ローテートすることは、多くのデメリットがある。

 

まず外来が継続できない。

そして慣れない病院では医療事故のリスクが高まる。

慣れたころにはまた転勤になってしまう。

 

当然のことだがボーナスや退職金は大幅に減る。

大学病院に勤務となった場合には、給料も大幅に減る。

場合によっては短期間引っ越しをしなくてはいけないかもしれない。

 

家庭を持っている場合、

特に出産・子育て中の女性医師の場合は、

専門医資格を断念しなくてはならない場合があるだろう。

 

そのような勤務先の短期ローテートは、

研修に意味があるものならばいいが、

意味がなくローテートするとすれば専攻医のmotivationを大きく低下させるだろう。

 

そして何よりも新専門医制度は、

我々が長年かけて培ってきたon the job trainingの制度を壊し、

若手医師が責任を持って地域医療を担う気概を身に着けるのを損なうものである。

 

新専門医制度は抜本的な見直しをしていただきたい。


平成29年4月7日、

厚労省は「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」を

立ち上げることが報道された。

 

その検討会では、地域医療の現場にいる医師の声を十分に汲み上げて、

平成25年の専門医の在り方検討会報告書の内容から検討し直していただきたい。

 

 

 

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