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保険診療報酬の規制はバランスを失せずに

2017/06/13

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

この原稿は月刊集中5月31日発売号からの転載です。

井上法律事務所 弁護士
井上清成

2017年6月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

 

1.審査・調査・指導・監査・処分・返還

保険診療の報酬請求(レセプト)に対する規制が強化されている。

医療費の抑制政策の一環として強化されてきていることが大きい。


本来は、どの程度に医療費を抑制すべきかは、

2年ごとの診療報酬改定を行う際に議論して決めていくことである。

 

レセプトに対する規制によって、

無理やり医療費抑制を実現すべきものではない。

 

もともとレセプトに対する規制は、

政策的に決まった診療報酬改定告示を、

ただ単に額面通りにほどほどに実行すれば足りる。

淡々と診療報酬改定告示に従って無理なくやればよい。


ところが、現状は、何とか医療費を抑制しようと、

支払審査機関(支払基金や国保連)による審査・査定、

地方厚生局による施設基準等の適時調査、

集団的個別指導、個別指導、監査、保険医療機関指定や

保険医登録の取消処分、自主返還の常態化した求めなど、

ありとあらゆる規制手法を駆使しようと総動員されているように感じられる。

 

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2.原理よりも衡平を重視すべき

過剰な医療費は良くないけれども、

適切な医療費まで削減するのは、もっと良くない。


ところが、とにかく医療費を抑制するためには

何が何でも頑張らねばならないという過剰な精神論は、

医療を受けようとするすべての国民に迷惑をかけてしまう。

受けられるべき医療が受けられなくなってしまう弊害は、

避けなければならない。


現状は、あたかも過剰な精神論が

医療界を覆っているかのような感じすらする。

運用場面では、過剰な精神論よりも.現実の衡平を重視すべきであろう。


この観点から、行政上の措置(比例原則抜きの取消処分)や

経済上の措置(カルテ記載不備による自主返還)の運用で

改善すべき点について述べたい。

 

3.行政上の措置における比例原則

 厚生労働省保険局長による定めの一つに、

「監査要綱」がある。

 

その監査要綱の「第6 監査後の措置」のうちの

「1 行政上の措置」では、行政上の措置として、

「取消処分」という行政処分、「戒告」という措置、

「注意」という措置の3種類を定めた。


ただ、そこでは3種類を分けるための要件を、

「故意、重大な過失、軽微な過失」

「不正、不当」

「診療、診療報酬の請求」

「しばしば行った、行った」

といった要素だけで構成しようとしたために、

必ずしも現実の多様な実情に対してきめ細かくは対応できず、

十分に衡平を計りにくいものとなっている。


そこで、行政上の措置において衡平を計っていくためには、

比例原則を明示的に導入すべきであろう。


比例原則は、

山梨県甲府における小児科の溝部(みぞべ)医師が

保険医療機関指定取消処分・保険医登録取消処分を受けたのに対して行政訴訟で争い、

国に完勝した裁判(いわゆる溝部訴訟)でも判示されている。

 

これは、取消処分という行政処分における国の裁量は、

いわゆる比例原則によって限定されることを明確に述べた判示と言ってよい。


甲府地方裁判所は溝部訴訟の平成22年3月31日判決において、

「処分理由となった行為の態様、利得の有無とその金額、頻度、動機、

他に取りうる措置がなかったかどうか等を勘案して、

違反行為の内容に比して

その処分が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合には、

裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があったものとして違法となる」という判断を示した。


先ず、「違反行為の内容」をよく精査して、

「行為の態様」「利得の有無」「利得の金額」「行為の頻度」

「行為の動機」「その処分の他に取りうる措置」などを

勘案しなければならない。

 

その上で、そのような「違反行為の内容」と

「その処分」との比例的関係を検討する。

つまり、衡平を計らねばならない。


このような溝部訴訟で判示された原則は、

広く、行政上の措置における比例原則として採り入れられていくべきであろう。

 

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4.経済上の措置におけるカルテ記載不備

 「監査要綱」の「第6 監査後の措置」では、

「1 行政上の措置」と共に、

「4 経済上の措置」も定めた。

 

経済上の措置として、

診療報酬の返還が要請されるのである。

 

それも、「(3)監査の結果、診療内容又は診療報酬の請求に関し

不正又は不当の事実が認められた場合における当該事項に係る返還期間は、

原則として5年間とする。」とされ、

場合によっては返還額が数千万円から数億円にも及ぶ。

 

こうして見ると、益々、「経済上の措置」としての自主返還についても、

現実の衡平が計られるべきであろう。


その中で特に、過剰な精神論になってしまっていて、

現実の衡平を欠くことが散見されるのが、

カルテ記載不備を理由とする自主返還である。

 

たとえば、医学管理料がその典型例であろう。


それが医学管理料にも諸々のものがあるが、

たとえばそれが「特定疾患療養管理料」だとすれば、

本来、生活習慣病等の特定の疾患を主病とする患者に対して

治療計画に基づき療養上必要な管理を実際に行ったならば、

それだけで所要点数を算定できるはずである。

 

ところが、現実の運用では、(診療報酬改定告示ではなく)通知に

「管理内容の要点を診療録に記載する。」という定めが存在するために、

カルテ記載に不備があるとそれだけですべてが返還させられてしまう。

 

つまり、現実に療養管理を行ったとしても、

その要点を記載しなかったらそれだけで点数すべてを否認されてしまうのである。


もともとこの通知の法的効力自体に根本的な疑念があるのではあるが、

とりあえずそれは横に置いたとしても、

現実の衡平の確保や比例原則的な観点からして、

カルテ記載不備のみを理由とする返還には問題性が大きい。

 

せめて、カルテ記載不備の場合であっても、

しかるべき時には記載の補充修正を認めて、

返還には及ばないものとすべきところである。

 

 

 

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