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スマホ遠隔診療を利用した重症心血管疾患治療の効果と課題 ~遠隔診療と対面診療の組み合わせで効果的治療をねらう~

2017/06/22

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

国際医療福祉大学医学部 循環器内科 准教授
田村雄一

2017年6月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

 

■2017年現在の遠隔診療が本当に得意とすること

 この1年あまり遠隔診療に関して

数多くのニュースを目にされると感じる方が沢山いらっしゃるかと思う。

 

その背景には平成27年8月10日に厚生労働省が出した

遠隔医療に関する新たな通達がある。

 

従来はインターネット技術が未発達であった

平成9年の遠隔診療に対する「基本的考え方」を示した

厚生労働省通知が公的見解として取り扱われていた。

 

すなわち対面診療の原則を明文化した医師法第20条を踏襲し

診療は医師と患者が”直接対面”して行われることが基本であり、

遠隔診療はあくまで直接の対面診療を補完するものであり、

例示された9つの事例を除いて遠隔診療は原則禁止であると解釈されていた。

 

しかし平成27年の通達では、

これら9つの事例はあくまでも例示であり

他の可能性を制限するものではなく

「患者側の要請に基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で、

直接の対面診療と適切に組み合わせて行われるときは、

遠隔診療によっても差し支えないこと」が強調された。

 

これを受けて様々な遠隔診療サービス、

具体的にはインターネットを介したテレビ電話ツールや

オンラインでのカルテ記載や

レセコンなどを一体化したシステムなどがパッケージ化されて売り出されたり、

オンライン診療を標榜するクリニックが出てきたりと、

にわかに遠隔診療を巡る動きは活性化した。

 

しかし残念ながら多くのサービスは定着せず、

オンラインで全国の患者を診療対象にできるといった

期待されたほどの規模の拡大は認められていない。

 

この背景には、現行制度では

診療報酬が電話等による再診による72点しか加算できず

指導料などは算定できないことから、

コスト的にペイしないことが挙げられる。


一方で筆者らの施設では

難治性心疾患患者に対して対面診療を補う形で遠隔診療に取り組み始めた。


つまり遠隔診療を対面診療の代替手段として扱うのではなく、

よりきめ細かな診療体制を確立することで、

ケアの向上やコンプライアンスの向上および

臨床的悪化の早期発見に寄与できるかどうかを検討している。

 

本稿では心疾患における遠隔診療のあゆみとともに、

遠隔診療が寄与できる具体例を示すことで、今後の展望に関してお話ししたい。

 

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■心疾患と遠隔診療の親和性

 心疾患、とりわけ不整脈治療においては

以前より遠隔モニタリングの技術が盛んに開発されており、

現在では多くのペースメーカや植込型除細動器などの

心臓植込型デバイスに器械自体の機能を監視したり、

不整脈イベントや生理学的パラメータなどの情報を

医療従事者に転送したりする遠隔モニタリング機能が備えられている。

 

そのエビデンスは豊富にあり、

例えばバッテリーやインピーダンスなど

デバイス事態の状態を監視する機能に関しては

対面診療でのペースメーカーチェックと同等の精度を有しているとされており、

それによりデバイスの不具合や不整脈の検出および治療内容の確認などが、

従来の対面診療に比べて早期になされることが既に示されている[1-4]。

 

また遠隔モニタリングを用いることにより

入院期間の短縮[5]のみならず

生命予後改善効果ももたらすことが報告されている[6,7]。

 

心不全領域においても米国での試みであるが

肺動脈内に埋込式圧センサーを挿入して

肺動脈圧をリアルタイムにモニタリングする

CardioMEMSTMというシステムが開発され医療機器として承認されており、

NYHA心機能分類III度の患者を対象とした

無作為化試験であるCHAMPION試験においては、

通常ケアのみと比べて心不全による入院発生を有意に低下させ

その効果は長期的に継続することが確認されている[8]。

 

これらのエビデンスから循環器内科領域においては

イベントの発生を早期に検知して

予後を改善するためのモニタリングシステムは他の疾患領域に比べて進んでおり、

遠隔モニタリングを日常臨床に取り入れることに関しても抵抗がないと言える。

 

一方でこれはあくまでも体内に植込み型の装置を挿入し

モニタリングを行う行為に限られており、

循環器内科領域においても

インターネットを介した対面医療に関してはその可能性は未知数であった。

 

■難病心疾患診療における遠隔医療導入の背景

心疾患の中でも肺動脈性肺高血圧症は

厚生労働省指定の難病であり希少疾患であるため、

特に予後を改善するための新しい治療法は極めて専門性が高く、

専門知識と数多くの経験をもち集学的に治療にあたることができる医師が

非常に少ないのが実情である。

 

一方でカテーテルを植込み在宅で点滴製剤を作成して

常に携帯型輸液ポンプで治療を行う

エポプロステノール持続静注療法(図1)などの医療の高度化に伴い、

患者さんは頻回の通院が必要であることから、

地理的に専門医へのアクセスが良くない患者さんに関しては、

これまで専門的な治療を十分に受けることができない事例が数多く認められていた。

 

また疾患の特性上、

息切れや低酸素血症が強く頻回な長距離移動が困難な患者さんも多く存在していた。

 

従来は通院しやすい地域の医師と連携を取りながら診療にあたっていたが、

心不全の悪化が起こった場合や

エポプロステノール持続静注療法を行っている患者さんの

カテーテルトラブルが起こった場合などには、

専門医からみて遠隔地の患者さんほど対応が遅れてしまう事例が存在した。

 

そこで国際医療福祉大学三田病院の肺高血圧症センターでは、

当院で診療し診断・治療を行っている患者さんを対象として、

きめの細かい診療体制と地域によらずに高度な医療を受けられることを目的として、

スマートフォンおよび心電図・呼吸の状態を

遠隔モニタリングできる機器を使用した

遠隔医療サービスを平成28年から展開している。

http://expres.umin.jp/mric/mric_132-1tamura.pdf

図1:エポプロステノール持続静注療法のイメージ

 

■遠隔医療サービスNAPTECの概要

 遠隔医療を行うにあたり

重症難病患者さんの状態をきめ細かく評価するため、

三栄メディシス株式会社(京都市)との共同研究で

手のひらサイズの携帯型マルチヘルスモニター

チェックミー・プロ(医療機器承認済)を用いて、

クラウドを用いた24時間体制の患者さんの評価を行うことができる体制を構築した。

 

チェックミー・プロを用いることで、

携帯型心電図・酸素飽和度・体温などのデータを

インターネットとクラウド技術を介して即座に主治医に送信・共有することができ、

患者さんの状態の変化をより早く検出したり、

症状が出現した際に迅速に評価することで

不安感を取り除いたりすることができる体制を構築することができた(図2)。

 

また遠隔医療の実施に際しては

汎用性の高いインターネットテレビ電話ツールSkypeTMや

LINEのテレビ電話サービスを主に使用し、

face-to-faceのコンタクトにできるだけ近い環境を整えながら、

チェックミー・プロを併用してバイタルサインを収集することで

きめの細かい評価・管理を行うことができている。

 

それにより従来のテレビ電話のみの評価では不十分であった

患者さんの心臓や呼吸の状態を

リアルタイムでインターネットを介して評価することができるため、

重症難病患者さんに対して非常に有効な遠隔医療を実現することができた。(図2)

http://expres.umin.jp/mric/mric_132-2tamura.pdf

図2:難病遠隔医療サービスNAPTECのイメージ図

 

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■遠隔医療サービスNAPTECの具体例

 現在当院では新規に治療薬の内服を開始した患者さんの多くで

NAPTECを併用しており、

特に薬剤の増量に伴う副作用を自覚した際に、

心不全の併発がないかどうかを確かめるうえでも効果を発揮している。

 

具体的には自宅で増量後に

頭痛と息切れを自覚された患者さんのデータを収集した結果、

体重増加や低血圧は認められなかったことに加えて、

チェックミー・プロで確認したところ

頻拍発作や低酸素血症なども一切認められていなかったことから、

一過性の副作用である可能性が高いことを遠隔診療で説明したところ、

薬剤内服のアドヒアランスが守られて

患者さんに安心感をもって増量できたことを確認している。

 

またエポプロステノール持続静注療法や

トレプロスティニル皮下注などの治療法を行っている患者さんに関しても、

特に遠方の患者さんから、

安心して治療を受けることができるという評価をいただくことができている。


また不整脈を自覚された患者さんにおいて

在宅でチェックミーを使用していただいたところ、

QT延長症候群が同定された例も経験した(図3)。

 

このように来院時には特徴的な心電図変化を来さないケースにおいても

診断・治療に結びつけられることは、本システムの利点であると考えられる。

http://expres.umin.jp/mric/mric_132-3tamura.pdf

図3: チェックミーによってQT延長が捉えられた例

 

■遠隔医療サービスの展望と課題

このようにビデオ通話だけではなく

様々なアプローチを介して行う遠隔医療は、

患者さんの安心感だけではなく

アドヒアランスやQuality of Lifeの向上にもメリットが大きいように考えられる。

 

また専門医の少ない難治性疾患においては、

地理的条件や専門医の偏在に関わらず

全国どこでも同様の質の医療を受けられるようにしていく上で、

効果のあるツールとなることが期待される。


今後さらに普及を進めるためには2つのポイントが挙げられる。

 

1点目はエビデンスの確立である。

最初に述べたように植込み型の不整脈治療デバイスにおいては、

遠隔モニタリングによって

イベントの早期発見や予後の延長効果などが

大規模臨床試験で証明されたからこそ、

徐々に一般化してきたという経緯がある。

 

したがって薬剤の増量アドヒアランスやQuality of Lifeの向上、

さらには入院頻度や疾患予後を検討していく

前向きの臨床試験を行っていくことが必須となる。

 

2点目は診療報酬上の問題である。

現在遠隔診療を行うことでの追加加算の算定は認められておらず、

さらに対面診療と比較すると指導料などの算定ができないため、

コスト面からみた医療従事者のメリットは低くなっている。

 

この点に関しては現在厚生労働省において

平成30年度診療報酬改定に向けた検討がなされており、

期待されているものの、やはり保険収載を積極的に進めていく上では、

遠隔診療が対面のみの診療と比較して

何らかの形で有効であるというエビデンスが必要となるため、

先進的な施設において

こういったエビデンスを確立する取り組みを積極的に行っていくことが必要となるであろう。
(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/h28/shouchou/170116_shiryou_s_4.pdf)。

 

参考文献
1.Varma N, Epstein AE, Irimpen A, Schweikert R, Love C, Investigators T. Efficacy and safety of automatic remote monitoring for implantable cardioverter-defibrillator follow-up: the Lumos-T Safely Reduces Routine Office Device Follow-up (TRUST) trial. Circulation 2010; 122: 325-332.


2.Watanabe E, Kasai A, Fujii E, Yamashiro K, Brugada P. Reliability of implantable cardioverter defibrillator home monitoring in forecasting the need for regular office visits, and patient perspective. Japanese HOME-ICD study. Circ J 2013; 77: 2704-2711.


3.Guedon-Moreau L, Lacroix D, Sadoul N, Clementy J, Kouakam C, Hermida JS, et al. A randomized study of remote follow-up of implantable cardioverter defibrillators: safety and efficacy report of the ECOST trial. Eur Heart J 2013; 34: 605-614.


4.Parthiban N, Esterman A, Mahajan R, Twomey DJ, Pathak RK, Lau DH, et al. Remote Monitoring of Implantable Cardioverter-Defibrillators: A Systematic Review and Meta-Analysis of Clinical Outcomes. J Am Coll Cardiol 2015; 65: 2591-2600.


5.Crossley GH, Boyle A, Vitense H, Chang Y, Mead RH, Investigators C. The CONNECT (Clinical Evaluation of Remote Notification to Reduce Time to Clinical Decision) trial: the value of wireless remote monitoring with automatic clinician alerts. J Am Coll Cardiol 2011; 57: 1181-1189.


6.Saxon LA, Hayes DL, Gilliam FR, Heidenreich PA, Day J, Seth M, et al. Long-term outcome after ICD and CRT implantation and influence of remote device follow-up: the ALTITUDE survival study. Circulation 2010; 122: 2359-2367.


7.Hindricks G, Taborsky M, Glikson M, Heinrich U, Schumacher B, Katz A, et al. Implant-based multiparameter telemonitoring of patients with heart failure (IN-TIME): a randomised controlled trial. Lancet 2014; 384: 583-590.


8.Abraham WT1, Stevenson LW2, Bourge RC3, Lindenfeld JA4, Bauman JG5, Adamson PB5; CHAMPION Trial Study Group. Sustained efficacy of pulmonary artery pressure to guide adjustment of chronic heart failure therapy: complete follow-up results from the CHAMPION randomised trial. Lancet. 2016 Jan 30;387(10017):453-61.

 

 

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