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混乱する内科新専門医制度 -内科学会教育施設連絡会議に出席して-

2017/08/10

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

安城更生病院 副院長
安藤哲朗

2017年7月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

 

新専門医制度は全体として問題が山積しているが、

内科は他科にはないsubspecialty問題を抱えている。

 

内科学会が新制度を始めれば、

日本の内科系医療は衰退し、

地域医療は崩壊する危険性があると考えている医師は少なくない。


平成29年7月22日、内科学会教育施設連絡会議が東京フォーラムで開催された。

新専門医制度についての発表と討論があるため、

全国から多くの医師が集まった。

 

そこでいくつかの驚くべきことを経験したので、

内科新専門医制度の問題点について改めて指摘する。

 

1.迷走する説明

内科学会教育施設連絡会議の質疑応答の最後に、

「もう時期的に来年度の専攻医の採用の内定をしなくてはならない。

もしそこで採用した人数が、

10月に確定するプログラムの人数よりも多かった場合にどう対応したらいいのか?」

というような趣旨の質問がされた。

 

それに対して、

「その場合は、2020年まで現行の認定医制度を施行するので、

まず認定医をとってその後に専門医を取得する方法も選択できる」

という趣旨の説明がされた。

 

つまり、新プログラムに入らないコースも

移行措置として残すという説明がされたのである。

 

参加した医師の多くがその説明に驚いて、

内科学会は移行措置を配慮しているのだと安堵したと思う。

 

その質疑の直後に会が修了して、

帰りがけに何人かの知り合いと、

「移行措置があることがわかってよかった。今日来た甲斐があった」と

話し合って帰路についた。


ところがその後、病院に訂正メールが来ていた。

そのメールの一部をそのまま引用する。

 

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(以下引用)
本日、教育施設連絡会議の質疑において、

認定医制度審議会より回答した内容につき、

不適切な回答がございましたので、ここに修正連絡いたします。


ご欠席の方が受信された際には、

教育施設連絡会議での質疑のやり取りとして、

ご確認いただければ幸いでございます。

 

【質問1(会場での最後の質問)】
新制度の開始が確定しない中、

例年より遅い状況で現在2年目の初期研修医は待たされている。

専門医機構では10月に募集開始という話があるが、
どうしたら良いのか。

 

【回 答】
現在2年目の研修医の方々の不安はもっともでございます。
新制度が2018年4月から開始となった場合、

現在2年目の初期研修医は新制度の対象者であり、

現制度の対象とはなりません(認定内科医受験対象者とはなりません)。

このため、認定内科医を取得してから

新専門医取得という移行措置を用いた受験はできません。
会場では、現制度・新制度それぞれの募集活動と

現制度・新制度の適用を選択的に「できる」と説明しましたが、

誤りでございます。誠に申しわけございません。

(引用ここまで)

 

この説明の迷走をどのように受け止めたらいいのだろうか。

この件で内科学会に不信感を持った医師は数多いことだろう。

 

数百人以上の医師は、

自分の施設の担う地域医療と

研修医の教育を守るために確かな情報が欲しいと、

全国から手弁当で「東京フォーラム」まで参集したのである。

 

この時期になってこんな基本的に重要なことが誤って説明され、

それがすぐに一通のメールで訂正されるとは、

もはやいったい何を信じたらいいのだろう?

 

まだメールを読んでおらず、

研修医に来年度は移行措置として

現行制度も選択できると説明している人も少なくないだろう。

地域医療を担う病院や若手医師の将来を愚弄するにも程がある。

 

2.内科学会のガバナンスには問題がある

なぜこのような混乱が起きるのだろうか?
会議の進行について気付いたのは、

冒頭にこそ門脇理事長の挨拶があったが、

その後内科学会の理事からの発言はいっさいなく、

すべてを認定医制度審議会会長の横山彰仁氏と、

副会長の宮崎俊一氏が取り仕切って説明していたことである。

 

そして両氏により不適切な説明がされ、

その後両氏の名前で訂正メールが来ていた。

 

このことから、内科学会の理事会は

横山、宮崎両氏の暴走をコントロールできていないのではないかと感じた。

もしそうだとしたら、

日本の内科医療の将来を決める重大問題に理事会が関与できておらず、

もちろん一般会員の意見も反映されていないということで、

内科学会のガバナンスには大きな問題があるということになる。

 

3.J-OSLERは研修の質を担保しない

会議では、J-OSLERという専攻医登録評価システムの説明もあった。

専攻医が経験症例を登録して、病歴要約を記載して、

それをインターネット上で指導医が評価するシステムだと紹介され、

厚労省の「今後の医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」で

高い評価を得たと説明された。

 

内科学会はこのJ-OSLERを

研修の質の担保のセールスポイントとしているようだ。


しかし、J-OSLERが研修の質の担保につながるとは到底信じられない。

おそらく形骸化するだろう。

 

初期臨床研修でEPOCというオンライン登録システムがあるが、

当院では最初から利用していない。

EPOCはどの程度の施設で利用されているのだろうか?


また、研修医教育は、ベットサイドや救急外来で、

研修医と指導医が一緒に診療することが最も効果的であり、

病歴要約のみを見ての指導には限界がある。

 

例えば病歴要約の所見の記載が妥当かどうか、

実際の症例と乖離していないかどうかは評価のしようがない。

 

どこかの雑誌の症例報告の記載を

そのまま持ってきて病歴要約にしてしまう

要領のいい研修医も少なくないだろう。

あるいはそのような行動を助長する可能性すらある。

 

「カルテ記載や病歴要約を見ると100点だが、

患者を実際に診療すると0点」という医師が大量生産される危険性がある。


さらにこのJ-OSLERは患者のIDを入れることになっている。

インターネット上に患者のIDと病歴という

重大な個人情報を入れるリスクに十分対応しているとは思えない。

まだまだ問題が多い。

 

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4.そもそも内科学会はどういう学会か

そもそも内科学会は、

循環器、消化器、呼吸器、神経などのsubspecialtyのゆるやかな連合体である。

 

何かよい研究成果があった場合に、

ほとんどの医師はsubspecialty学会で発表して、

内科学会で発表しようとは思わない。

 

これまでは内科認定医という

初期研修程度の知識と経験でその後subspecialtyに進むことができて、

ちょうどよいバランスを保っていたが、

今回の新専門医制度で総合内科のハードルが上がって、

矛盾が吹き出してきている。

 

もちろん、総合内科医という道もあってもよい。

しかしsubspecialtyに特化した研究医や、

ほどよい総合内科の素養を持ちながらsubspecialtyを主に診療する道もあってよい。

 

医師の勤務する施設のニーズや医師の個性により、

多様性を容認する懐の深い学会であるしか内科学会が生き残る道はないように思う。


そもそも学会は情報交換の場であり、

学会員をエンパワーする団体であるべきだ。

決して学会員を規制して管理する団体であるべきではない。

 

5.今後への提言

まず、内科学会理事会がガバナンスを取り戻し、

認定医制度審議会の暴走をコントロールする必要がある。

 

そして学会員の声を柔軟に吸い上げるシステムを構築すべきである。

専門医制度の改革は、

それができてから、ゼロベースで議論すべきである。

 

準備不足で来年度開始ありきで進めると、

日本の医療は大混乱に陥るだろう。


まずは取り急ぎ、不安の中にいる現在の2年次研修医のために、

できる限り早期に来年度の新専門医制度の凍結を宣言していただきたい。

 

 

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