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高齢化は悪いことではない 2周目の人生も緩やかに現役で-1

2017/08/21

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

梅村聡のあの人に会いたい  

江崎禎英・経済産業省ヘルスケア産業課課長 (上)


患者の自律をサポートするには何が必要なのか、

元参院議員・元厚生労働大臣政務官の梅村聡医師が、

気になる人々を訪ねます。

 

 ~この文章は、『ロハス・メディカル』2017年7月号に掲載されたものです。

2017年8月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

 

梅村 ヘルスケア産業課長になられて何年になりますか。

 

江崎 丸2年になります。

   前の部署(生物化学産業課長)と合わせて、

   健康医療分野の仕事は6年目に突入しました。

 

梅村 色々な所で講演なさっていますよね。

   その発想がユニークで感銘を受けたという声をよく聴くのですが、

   ご存じでない読者も多いと思いますので、

   どんなことを考えてらっしゃるのか、簡単にお話しいただけますか。

 

江崎 分かりました。

   現在、日本の喫緊の課題であり、

   世界でも重要課題になりつつあるのが「高齢化」です。

 

梅村 そうですね。

 

江崎 ただ、「高齢化」が議論されるとき、

   多くの人が出発点を間違えているような気がします。

   誰もが長生きしたいと願い、

   経済の豊かさと医療技術の発展によってそれが可能になれば、

   社会は必ず高齢化します。

 

   本来、高齢化は悪いことではないのです。

   しかし、一般には、経済活動の鈍化や

   社会保障財政の逼迫など暗い話題ばかりが先行し、

   若い世代がお年寄りをどうやって支えるのかという負担論に終始しています。

   この辺りから議論を整理しなければならないと思っています。

 

梅村 その通りだと思います。

 

江崎 生物学的にヒトの寿命は約120年と言われています。

   日本では60歳を「還暦」と呼びますが、

   人は健康で長生きすると、暦が2周するのです。

   問題は、この2周目の人生をどう生きるかというテーマに、

   個人も社会も十分に対応できていないことです。

 

梅村 なるほど。

 

江崎 現在の日本の社会保障システムは、

   1960年代から80年代にかけて、その基本型が作られています。

   この時代、65歳以上の高齢者は全人口の1割にも満たない水準で、

   ごく少数の高齢者を多くの生産年齢人口が支える構造でした。

   この結果、「ジャパン・アズ・ナンバー1」と言われた経済力を背景に、

   国民皆保険に代表される手厚い社会保障サービスを提供することができました。

 

梅村 そうですね。

 

江崎 増大し続ける医療費の問題で言えば、

   40兆円という額の大きさばかりがニュースになりますが、

   いつどのように使われているかは意外に知られていません。

 

   注目すべきは、平均寿命と健康寿命の間に

   10年近いギャップが生じていることです。

   40兆円を超える膨大な医療費の大半は、この期間に使われています。

   しかも、医科診療費の約3分の1は生活習慣病に費やされているのです。

 

梅村 確かにそうなっていますね。

 

江崎 今の日本の医療制度は、

   結核に代表される感染症から労働者を守り、

   経済成長を維持することを目的に整備されました。

 

   問題は、主たる疾患の性質が

   感染症から生活習慣病に変わっているにもかかわらず、

   医療制度はそのままになっていることです。

 

   この結果、健康管理に努めていようが、

   不摂生な生活をしていようが、

   病気になれば全く同じように医療費の給付が受けられるのです。

 

梅村 そうです。

 

江崎 また、2012年時点で日本には約460万人の認知症患者がいて、

   2025年には700万人に達すると言われています。

 

   慶応義塾大学の研究によれば、

   2014年時点で認知症に対する医療費は1.9兆円ですが、

   介護費用や家族の負担も含めたコストの総額は

   約14.5兆円と推計されています。

   認知症患者が700万人を超えると、社会コストは尋常でない規模になります。

 

梅村 単純に掛け算するだけでも大変なことになりますね。

 

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●老後の自律を整える

江崎 現在行われている社会保障制度改革の議論は、

   満杯の客で沈みそうになっている豪華客船に、

   さらに多くの客をどう乗せるかという話に似ています。

 

   多くの問題が噴出する中で、座席が足りないとか、

   1人あたりのスペースが狭くなるとか、

   椅子やテーブルの並べ替えばかりを議論しているようなものです。

 

   椅子やテーブルをどう並べ替えようと、

   船が沈むことには変わりありません。

   必要なのは、どうやって乗船客を減らすかです。

 

梅村 分かりやすいたとえですね。

 

江崎 歳をとれば誰もが当然のように医療や介護のサービスに頼るのではなく、

   リタイアした後も社会との繋がりを持ち続けて自立した生活を送れる、

   そういう環境をどうやって整えるか、

   あらゆる観点から考えることが重要なのです。

 

梅村 理想論としては、その通りですが、簡単ではないですよね。

 

江崎 もちろん、お年寄りの方々に

   若い人と同じように働けというのは無理な話です。

 

   ただ日本の年金制度は良く出来ていて、

   標準的な生活レベルの方を前提に計算してみると、

   リタイア時に数百万円程度の預貯金を持っていれば、

   100歳近くまで従来通りの生活水準を維持することが可能です。

 

   仮に預貯金が少なくても、

   月に2~3万円程度稼ぐことができれば、十分生活を維持できます。

   むしろ徒に年金制度の不安を煽ることで

   掛金を払わない人の増えることが問題です。

 

梅村 国からそういった具体的な情報提供はあまりないですね。

 

江崎 特に、子育てを終えた高齢者にとって重要なのは、

   働いて収入を得ること以上に、

   社会的存在としての自分の居場所を確保し、

   社会の役に立っているという実感を持ち続けることだと言われています。

 

   介護施設で暮らす高齢者の多くが

  「何もさせてもらえない」という悩みを持ち、

   急速に認知症が進行してしまうという現状に

   もっと目を向ける必要があります。

 

   高齢者が緩やかに社会活動や

   経済活動に関わり続けることのできる環境が整えば、

   世代間負担論に終始する必要はなくなるのではないかと思っています。

 

梅村 非常に面白い視点だと思います。

   ただ、医療業界やとか個々の医療機関から見れば、

   そうした取り組みが進んだら、

   船に乗った人たちの面倒をみるという

   自分たちの仕事が減るのではないかと心配になるのではありませんか。

 

江崎 確かにそうした議論はよく聞きます。

   しかし問題は、客が減るかどうかを心配しているうちに、

   船が沈んでしまう可能性もあるということです。

 

   今後患者や要介護者が厚労省の想定通りに増え続け、

   これを現行の医療制度や介護制度のままで対応し、

   その追加費用をすべて消費税で賄うとした場合、

   消費税は20%を大きく超える水準になると言われています。

 

   消費税を8%から10%に引き上げることでも、

   あれだけ議論した挙句2年半先延ばししたばかりなのに、

   数年後に20%を超える消費税増税が受け容れられるとは思えません。

 

   そうすると欧州のように、

   一部の患者の保険適用を制限することになり、

   自動的に混合診療に移行せざるを得なくなります。

 

梅村 それはそうかもしれません。

 

江崎 医療機関では、3時間待ち3分診療と言われるように、

   患者が目の前に来た時だけしか診られず、

   次に病院に来るまでほとんどフォローができていません。

 

   本来、医療にとって「予防」は重要テーマなのですが、

   診療報酬が十分ではないこともあり、なかなか進まないのが実態です。

 

梅村 そうですね。

 

江崎 医師会の幹部の方々にお話をうかがってみると、

   現状の問題点については極めて正確に分析しておられます。

   ただ、全国の医療現場では日々の治療活動に精一杯で、

   現状をいかに維持するかに関心が向いてしまうため、

   どうしても当面の課題である椅子やテーブルの並べ替えの議論に

   終始してしまうともおっしゃっていました。

 

梅村 そうなんですか。

 

つづく

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