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これから専門医を取ろうとしているドクターへ この制度の問題点を知ろう

2017/08/19

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

つくば市 坂根Mクリニック
坂根みち子

2017年8月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

 

来年度の専門医制度の開始が再び危ぶまれている中で、

早く制度を開始してほしいと思っているドクターも多いと思います。


私は、来年度からの開始に反対している医師の一人です。

去る7月21日には、来年度開始の反対署名1620名分、

塩崎厚労大臣に届け、厚労省で記者会見を致しました。(1)


H28年臨床研修終了者アンケートによると9割以上の方が、

専門医の取得を希望しています。

 

日本専門医機構が、整備指針を改訂し、

専門医取得は義務つけていないことを明記しましたが、

先々の就職や、この先必ずでてくるであろうドクターフィーの問題を考えても、

皆さんが専門医を取得しようと考えるのは当然のことと思います。

 

私たちも、専門医制度そのものを反対しているわけではありません。

ただし現状では、明らかに準備が整っていません。

以下、日本専門医機構に対する制度開始のための最低限の要望を述べます。

 

  • ●「質」を担保するための統一基準を公表し、
     「質」が担保されるのであれば、単独施設での研修も認めること


    ●基本領域の選定再議論も平行して進めること

    ●基幹施設となる大学病院の理不尽な仕打ちや
     不自然な循環型プログラムを拾い上げ具体的な改善策を示すこと

    ●専攻医の身分保障をすること

    ●機構の議事録をはじめとする情報を速やかに公開すること

    ●機構は、制度の検証—改善という仕事に特化すること

 

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現状の準備不足のまま制度を開始するのであれば、
最低限、検証して改善する道筋を確保しておかなければ、
皆さんの人生設計だけでなく、
医療供給システム全体に取り返しのつかない悪影響を与えます。

医療は人の生き死にがかかっていますので、
上手くいかなかったらやり直そうでは済まされないのです。

具体的に4点に絞って説明します。

 

1) 質の問題

まずこの制度は、中立の第三者機関が、

学会毎にバラバラだった専門医の「質」を統一するために始めたものです。

 

ところが、現在までのところ、今まで通り学会丸投げです。

機構は学会が策定したものを「検証、承認する」そうですが、

現実問題として今の機構に学会が決めたものを検証する能力はなく、

どのように検証するかの統一基準は一切示されておりません。


質の確保について、

当初、機構の池田康夫理事長(当時)は

アメリカ型の専門医制度の導入を目指していました。

 

アメリカの専門医制度は、学会から独立した第三者機関です。

アメリカでは、研修医は日々の研修で繰り返し評価され

(上級医だけからではなく

コメディカルや年次が下の研修医からも評価される360度評価システム)、

研修の最後に専門医資格取得のための試験があるのです。

 

つまり、日々の研修の評価と試験の二段構えで質を担保しています。

 

アメリカでは指導医も研修病院も絶えず評価を受けます。

たとえば研修病院は、

卒後医学教育認定評議会(ACGME)によって抜き打ち査察を受けます。

 

そこで勤務時間の違反がないか、

講義が適切に行われているか教育回診の質は確保されているか、

など厳しくチェックされます。匿名のオンライン調査もあります。


日本で、学会から独立して、

学会に所属しなくても専門医が取れるようにするというのは、

今の時点では現実的ではないかもしれませんが、

せめて、質を担保するための統一基準がなければ、

制度を開始する意味がありません。

 

制度開始が多少延びても、

今までの制度が維持されるだけなので全く問題ないはずです。

 

2) 研修方法の問題

上記のように、機構は、マンパワーも予算も法的根拠もないまま、

アメリカ型の制度を強引に推し進めようとしたために、

昨年大きな反対運動が起こりました。

 

主に地域医療への配慮が足りないという声が大きく、

制度開始が1年延期され、機構役員は刷新されました。


この制度では、基幹施設(大学病院を想定)を中心に研修施設群を作り

循環型の研修を行う(以下循環型プログラム制と呼ぶ)予定でしたが、

延期・再検討の結果、大学病院以外でも基幹施設になれることや、

出産育児、留学等の理由により、カリキュラム制が選択出来るよう、

柔軟な対応が求められる、という文言が追加されました。


が、この問題の根本は、


①循環型プログラム制、という他国では見られない、

 特異な研修形態を取ることと(2)

 

②専門医取得の基本領域が19領域に決められていて、

 それ以外の領域に入れられてしまった科は、

 基本領域の研修後にさらにサブスペシャリティの研修に入らなければいけないことです。

 しかもこの2つは、厚労省で行われた「専門医の在り方に関する検討会

(以下、在り方検討会)」(H23−25年 座長 高久史麿日本医学会長(当時))で

 決められた、言わばお墨付きの決定事項だったために、

 法的根拠は欠いていても、

 これが今の専門医制度の憲法のようになってしまっているのです(3)。

 

実は、アメリカの研修は90%以上単独施設で行われています。

足りない部分だけ他の医療機関へ行って研修することもあります。

 

理屈からいえば、日本でも研修医育成の質が担保されているのなら、

それで十分なはずです。

 

何故、ここに「循環型プログラム制」などという悪手が滑り込まされたのか。

厚労省の担当者でさえ、

「個人的には理不尽だと思っている」

(厚生労働省医政局医事課医師養成等企画調整室室長 堀岡伸彦氏)と述べています(4)。

 

その裏事情として、

初期研修制度が始まって大学病院から研修医が減り、

市中病院との研修医数の逆転現象を認めており(5)、

その起死回生の一手だったことは明らかです。

 

そして、基本19領域について、

何故その19領域なのか疑問の声が上がっていますが、

各所からの情報をまとめてみると、

結局、日本の医療界の後進性を象徴する

「検討会で声の大きい人の言い分が通る」という場の雰囲気だったと思われます。


在り方検討会のとりまとめには法的根拠はありません。

金科玉条のごとく扱うのは止めて、

実態に合わなければ、臨機応変に変えればいいだけの話です。

 

3) 身分保障と子育て問題

次は、研修医(専攻医)の身分の問題です。


現在、初期研修医は、

給与や労働時間等基本的には身分保障がなされています。

 

ところが、後期研修医からは、最低基準が無いために、

後期研修医の方が初期研修医より給与が安く、

労働時間も管理されていないという場合があるのです。

 

今回の循環型プログラム制では、

数ヶ月ごとに研修先が変る可能性がありながら

身分保障についての議論が不足しています。

 

研修医は年齢的に家庭を持ち、子育てをする時期と重なります。

いつまでも不安定な身分で放置してはいけません。

少なくとも機構は最低限の身分保障が出来るようルールを定めるべきです。


また、女性医師に取っては、妊娠出産と研修の時期が重なります。

女性医師のパートナーは7割が医師と言われる現状で、

今までのカリキュラム制の専門医取得制度でさえ、

共に常勤で働き続けて子供を持つことは非常に困難でした。

 

データが少ないのですが、

現在50代で常勤で働いてきた女性医師の

36%が未婚であるという驚くべき数字があります(6)。

 

これは個人情報をたてに放置しておいていいレベルの問題ではなく、

きちんと検証しなければいけない社会問題です。


結局、働き方改革とセットでなければ、

循環型プログラム制と、サブスペシャリティの問題は、

間違いなく女性医師の専門医取得を阻害するものになります。

 

子育て世代の医師たちにとって、

人生の最も伸びる時期に

身分不安定な研修生活に多くの時間が割かれることになり

(7 小松秀樹 Vol.212 新専門医制度は搾取する)、

子育て中の人が、サブスペシャリティまで到達して専門医になることは、

至難の技ということになってしまいます。

 

4) 機構のガバナンスの問題

現在、機構は1億4年万円(!)という借金を抱えています。

 

専門医制度の開始が遅れ、

予定していた認定料などの収入がなく、経費がかさんだためです。


その借金は、社員や理事を構成する学会や日本医師会からの借入金です。

残念ながら、機構は、

当初の理念であった「独立した第三者機関」ではなくなっています。

 

それでも機構がこのまま突き進むのであれば、

機構には、質を担保する能力も人を集める財力も無いと認め、

制度の検証→改善という機能に特化して頂きたいと思います。


そのために一番足りないのは情報公開です。


議事録の公開、パブコメの公開、それに対する返答、何もありません。


面会を求めても、公開シンポジウムを働きかけても、断られています。


そして、何より問題なのは、すでに各地で勃発している、

制度開始に伴う大学医局からの医師の引き上げや、

有形無形の圧力、学会の圧力を拾い上げる努力と対応策を取っていないことです。


岩手の医療崩壊の例が公になりましたが(8)、

それ以外にも、手を挙げた医療機関を学会が基幹施設と認めない例や、

研修施設群を作るのに、遠くの医療機関と組まされた例、

今まで閑古鳥が鳴いていた医局の教授が

「まず基幹施設であるうちの医局に全員入局させる」と豪語している例など、

問題例は枚挙に暇がありません。


機構の不手際で、すでに日本各地で大混乱がおきているのです。

研修医だけでなく、今まで労働基準法違反の勤務環境で働き続けてきた医師たち、

必死に次世代を育ててきた医療機関を放置していいわけがありません。(9)

 

見せかけの配慮ではなく、

地方地方によって千差万別である医療供給体制の息の根を止めてしまわぬよう、

具体的な配慮が必要なのです。(10)


そのために必要なことは、現場の声を聞くことです。

 

機構には、各学会と医師会の代表、有識者等、各界の重鎮しかいません。

女性医師は毎回形式的に1人加えられているだけです。

 

事務方が少なくフットワークよく動けません。

学会員と大学教授が中心の機構で、

利益が相反するこういった声を拾い上げて是正を促すことが、

はたして可能なのでしょうか?


しかしながら、それが出来ないなら機構の存在意義はありません。

 

日本医師会副会長で日本専門医機構の監事でもある今村聡氏は、

7月23日の講演会(4)で、

今までも各界代表がでている場で民主的に決めてきたことだから、

問題があるのなら各団体が意見を吸い上げてきたはずだ、との立場でしたが、

残念ながら日本の医療界の決め方は族長政治であり、

これから専門医を取る医師、指導医、女性医師などの声は届いておりません。

 

この制度は、長期にわたり、若手の医師たちを不安定な身分で管理し、

強制配置するものです。

 

それでもこの制度を始めると言うなら、

最低限上記述べたことをクリアーにしてからでないと、

これから専門医を取得しようとしている皆さんの未来も潰されてしまうのです。

 

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参考
(1) 新専門医制度の2018年度開始に反対、

    1560人分の署名『専門医制度の「質」を守る会』、厚労相宛に提出
    https://www.m3.com/news/iryoishin/547029


(2)Vol.079 新専門医制度の何が問題なのか ~巧妙に仕込まれたプログラム制の罠~
     http://medg.jp/mt/?p=7481
   坂根Mクリニック 坂根みち子 2017年4月13日 MRIC


(3)専門医の在り方に関する検討会 報告書

   http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000300ju.html

 

(4)「連携施設メーン」専門医研修も可、厚労省強調
   地域医療研究会研修会、2018年度開始への不安相次ぐ

   https://www.m3.com/news/iryoishin/547206

 

(5)大学病院と市中病院の研修医数
   file:///Users/macuser/Downloads/%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E7%97%85%E9%99%A2%E3%81%A8%E5%B8%82%E4%B8%AD%E7%97%85%E9%99%A2%E3%81%AE%E7%A0%94%E4%BF%AE%E5%8C%BB%E6%95%B00000171151.pdf


(6)職業別の生涯未婚率

   http://tmaita77.blogspot.jp/2014/02/blog-post_9.html

 

(7)Vol.212 新専門医制度は搾取する

   http://medg.jp/mt/?p=7016 小松秀樹2016年9月23日 MRIC

 

(8)Vol.149 [ 新専門医制度問題 ] 「新」制度が岩手県の地域医療を早くも崩壊させている   

   http://medg.jp/mt/?p=7707
   仙台厚生病院 医学教育支援室室長 遠藤希之
   2017年7月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会


(9)Vol.089 新専門医制度は「医師養成」と「地域医療」の両立に

   努力してきた市中病院を崩壊させる http://medg.jp/mt/?p=7505
   安城更生病院 副院長/神経内科部長 安藤哲朗 2017年4月27日 MRIC


(10)Vol.096 地方に行きたい医師を拒む”ブラック組織”の罪 

    厚労省の最新調査で明らかになった日本の問題点 http://medg.jp/mt/?p=7519

    相馬中央病院内科医 森田知宏 2017年5月5日 MRIC

 

 

 

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