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新専門医制度:今こそ厚生労働大臣談話に立ち返るべきである

2018/02/22

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

安城更生病院 副院長
安藤哲朗

2018年2月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

新専門医制度厚生労働大臣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成29年8月2日に当時の塩崎厚生労働大臣が、

「新たな専門医制度」に対する厚生労働大臣談話を発表した(1)。

 

その内容は

「新専門医制度には、地域医療への悪影響の懸念、

専攻医が望む研修ができなくなる懸念がある。

日本専門医機構および各学会は、この懸念に真摯に向き合い、

運用の中で問題があれば速やかに是正が行われる必要がある。

そして万が一新たな専門医制度によって

地域医療に影響を及ぼす懸念が生じた場合には、

厚労省は医療法上の国の責務に基づいて実効性のある対応を求める。」

と要約できる。

 

この談話を受けて、

専門医機構の松原謙二副理事長は

平成29年8月4日の機構理事会後の記者会見において、

「機構は2018年4月から新しい専門医制度を開始する。

ただし、途中でいろいろな議論で問題が出てきた時には、

私たちは真摯な態度で対応する。

各学会や厚生労働省とよく相談しながら、

適切な形で決して地域医療に偏りが出ないように対応する。

それを前提として開始したいと思う」と説明した(2)。

 

つまり、厚生労働大臣談話における2つの懸念が

真摯な態度で対応されることが前提条件として、

1年間延期された新専門医制度の2018年4月からの開始が決まったのである。

 

逆に言うと前提条件が崩れた場合には、

開始すべきでない。

 

それではこの2つの懸念に対応がされているかどうかを検証してみよう。

 

一番目に、

「地域医療への悪影響の懸念」については、

すでにいくつかのメディアから検討結果がでている(3,4,5,6,7)。

 

それに対して専門医機構の松原氏は、

「大都市集中、内科激減は間違い」と言っているが、

その根拠となるデータは示していない。

 

内科が15人以下の県が9県もあり

(高知5人、宮崎9人、福井11人、島根12人、

山口・香川13人、秋田・鳥取・徳島14人)、

外科が5人以下の県が14県もある

(群馬・山梨・高知1人、福井・奈良・島根・宮崎2人、

青森・香川3人、山口・佐賀4人、山形・徳島・愛媛5人)。

 

これらの県の友人の医師達に聞くと、

地域医療の維持に大変な危機感を持っている。


私の病院のある愛知県は

内科志望者をみると132人と数は多いが、

従来の平均と比べての減少人数は

全県で一番多いと推定されている。

 

実際に近隣の中核病院の状況を聞くと、

例年の半分程度しか内科志望者があつまっていないところが多い。

 

その一方で、東京の大学病院の友人達に聞くと、

例年に比べて増えているところが多いようだ。

 

東京はシーリングがかかっていたはずなのに

専攻医全体が例年の50%増というのは

どのように理解したらいいのだろうか?

 

しかし、不思議なことに機構の松原副理事長は、

「偏在はない。内科は減っていない」と

根拠を示さずに繰り返しコメントしている(8)。

 

二番目に、

「専攻医が望む研修ができなくなる懸念」についてはどうか。

 

愛知県では、

初期研修から後期研修まで一貫して同一の市中病院で研修して、

その後医師不足の病院に1年前後赴任してから

大学に帰局するというシステムが40年以上前から出来上がっている。

 

屋根瓦式の研修制度が、

今までもっともうまく機能していた地域であるが、

それが今回の循環型プログラム研修で危機的状況に陥る危険性がある(9)。

 

愛知県の研修医達が口をそろえて言うことが

「循環型プログラムが困る。何とかして欲しい。」という希望である。

彼らは様々な不安を持っている。


まだ内科医として一人前になる前の時期で、

subspecialtyも固まってない時期に、

指導医や教えてくれる先輩医師のいない病院に

半年から一年間移動することは、

重要な研修時期を無駄に過ごすことになる可能性が高いのでは?

身分保障はどうなるのか?

引っ越しをしなくてはいけないことになるのでは?

その病院のシステムや電子カルテになれるのに

半年から1年かかるので研修の実があがらないし、

地域医療に貢献もできないのでは?

 

機構も内科学会も現在までのところ

循環型プログラムの原則を崩す姿勢を見せていない。

これは、「専攻医が望む研修ができなくなる」状況と考えられる。

 

さらに、シーリングのかかった眼科で起こった事態を耳にした。

 

ある大学では一次募集のときに

眼科専攻医の定員を減らせと言われて、

何人かの研修医に、

今年はプログラムに入らずに市中病院で研修して、

来年のプログラムに入れるという約束をしたそうだ。

 

すでに眼科などでは

少なくないキャリーオーバーが発生しているのだろう。

これを、「専攻医が望む研修ができなくなる」状況と言わずして

何と言うのだろうか。

 

2点の懸念を検討してみると、

もはや新専門医制度開始の前提条件は崩れている。

 

残念ながら機構には

「真摯な態度の対応」が期待できない。

 

となると厚生労働省に

「医療法上の国の責務に基づいて」対応していただくしか、

医療崩壊を阻止する方法はないように思う。

 

プロフェッショナルオートノミーの原則からみて、

厚労省の関与を嫌う医師もいるかもしれない。

 

しかし、専門医機構がやっていることは

「プロフェッショナルオートノミー」ではなく、

一部の重鎮達の独断専行である。

 

機構は愛知県病院協会の要望書(10)に対しても

全く対応せずに無視している。

 

国民も医師も迷惑極まりない新専門医制度を根本的に見直すには、

多くの国民の声を受けて厚労省に強権を発動してもらうしかない。

 

引用資料

 (1)「新たな専門医制度」に対する厚生労働大臣談話

(厚労省HP:2017年8月2日)

www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000173575.html


(2)新専門医制度2018年度開始、「地域医療等に配慮」が前提

(m3.com:2017年8月4日)

https://www.m3.com/news/iryoishin/549804 (医師限定HP)


(3)専門医研修、地方は低迷、外科「10人未満」27県

(共同通信:2018年1月28日)

https://this.kiji.is/330245957391041633


(4)「内科15.2%減、外科10.7%減」、専攻医の領域別割合

(m3.com:2018年1月4日)

https://www.m3.com/news/iryoishin/578074(医師限定HP)


(5)京都50.8%増、東京50.0%増、専攻医の地域差は拡大

(m3.com:2018年1月13日)

https://www.m3.com/news/iryoishin/578909(医師限定HP)


(6)「新専門医制度」は医師にも患者にも“迷惑”だ

(東洋経済on line:2018年2月9日)

http://toyokeizai.net/articles/-/207487


(7)上昌広:内科・外科志望医が激減、

 眼科志望医ゼロの県も…新専門医制度失敗で地方の医療崩壊

(Business Journal:2018年2月8日)

http://biz-journal.jp/2018/02/post_22256.html


(8)「大都市集中、内科激減は間違い」、日本専門医機構

(m3.com:2018年1月20日)

https://www.m3.com/news/iryoishin/581029(医師限定HP)


(9)安藤哲朗:愛知県の救急医療は新専門医制度により崩壊する

(MRIC:2016年7月19日)

http://medg.jp/mt/?p=6874


(10)新専門医制度に関する緊急要望書

(愛知県病院協会HP:2017年7月11日)

www.byouin-k.jp/aichi/?p=713

 

 

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