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個別指導は個別研修に徹すべき

2016/10/07

 

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。

 

この原稿は月刊集中9月末日発売号に掲載されました。

井上法律事務所 弁護士  井上清成

2016年10月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

1.混濁した指導と監査

保険診療の報酬請求に関して、厚生労働省の地方厚生局による指導と監査は、

現状、指導大綱と監査要綱によって運用されてきた。

 

指導については、集団指導、集団的個別指導、個別指導の3つに分類されている。

しかし、集団的個別指導はその位置づけが不明瞭であり、

個別指導は監査の前段階に位置づけられることもあり、問題性が大きい。

指導、特に個別指導と監査が混濁しているとも評しえよう。


そこで、混濁してしまっている指導と監査をクリアーに区別して、

指導は指導、監査は監査とし、きちんと分離して、

それらの位置づけを見直すべき時期が来ている。

 

2.指導は研修

もともと指導は、保険診療の内容または

保険診療報酬の請求に関する指導と言われているが、

指導とは一言で言えば「研修」であり、集団指導がこの典型であろう。

研修とか教育とかを言い表わすようなイメージと評してよい。


ところが、個別指導になると、その運用イメージが一変してしまう。

不正請求や著しい不当請求があれば監査に移行してしまうという意味で、

監査のいわば前段階に位置づけられたりする。

 

指導後の措置として「要監査」が定められているのが、その端的な現われであろう。

また、監査への移行がなくても、

指導後の経済上の措置として何らかの自主返還をさせられることが常態化してしまっている。

個別指導を受けたら多少の自主返還は当然、という常識も、

それが研修であると考えればおかしなものであろう。


研修は、将来に向けた改善をその本質とする。

過去の制裁や過去の清算を付帯させてしまうと、

ともすれば将来に向けた改善という本質がゆがんでしまう。

さらには、過去の制裁や過去の清算を恐れて、

診療内容や報酬請求が過剰に防御的にすらなってしまい、

前向きな改善の妨げになることもある。


したがって、個別指導も、集団指導と同じく研修であるとして、

徹底しなければならない。

 

集団指導はいわば「団体研修」、

個別指導はいわば「個別研修」として整理し直し、

「研修」の趣旨を徹底すべきである。

 

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3.集団的個別指導は廃止

集団的個別指導という類型は、不明瞭なものと評してよい。

集団指導と個別指導の折衷だと言うのならば、

指導当日の前半に集団指導(団体研修)を行い、

後半に個別指導(個別研修)を行うという形にすべきところであろう。

しかし、そうではない。


集団的個別指導という意味は、その実質は個別指導であるが、

ある一定の選定基準でセレクトした保険医療機関の集団に対して

個別指導を行うというもののようである。

 

これでは、集団的個別指導という名称は不正確であり、

集合的個別指導というのが正しい名称となろう。

翻ってみると、単に個別指導という時の個別的個別指導は、

対比してネーミングすると、単独的個別指導とか単発的個別指導とでも言うことになる。

 

いずれにしても、個別指導に、集団的(集合的)と

個別的(単独的)という2つの類型を設けているのであって、

やはり不明瞭な位置づけと評せざるをえない。


さらに、問題性を大きくしているのは、集団的(集合的)な選定基準が

「1件当たりの平均点数が高い保険医療機関」という奇妙なものであることである。

 

暴利的な過剰診療を規制するために

「1ヶ月当たりの平均収入が高い保険医療機関」を選定するというのならば、

必ずしもわからないわけでもない。

 

しかし、過剰診療を規制することと集中診療を規制することの2つは全く異なり、

特に後者を規制することは診療行為への不当な行政介入である。


したがって、そのような集団的個別指導という類型は、

直ちに廃止するしか手立てはないと思う。

 

4.監査は行政調査

監査という用語が慣用されているが、

本来の法令上の用語は質問・検査である。

 

講学上の用語で言えば、監査というよりは「調査」であろう。

つまり、調査権限の発動の要件は、「健康保険法規違反の疑いがある時」ということになる。

 

通常の用語で言えば、「不正請求または著しい不当請求の疑いがある時」となるであろう。

したがって、通常の業務をもひと通りチェックするという、文字通りの「監査」ではない。


ところが、現在の運用では、

「正当な理由なく個別指導を拒否したとき」にも監査(調査)ができることになっている。

 

その運用は、既に述べた通り、

個別指導を監査の前段階として位置づけてしまう点で正当ではない。

さらに、「正当な理由なく個別指導を拒否したとき」は、

それが必ずしも「健康保険法規違反の疑いがある時」を意味するとも限らず、

調査権限の発動の要件としては質的に過剰なものがあろう。

つまり、この点にも「調査」と「監査」の混濁があるのである。


したがって、「監査」はあくまでも「行政調査」であるとして整理し直した上で、

少なくとも「指導」とは分離しなければならない。

 

5.指導と監査の体系上の峻別

以上の通り、現在の指導大綱・監査要綱 に基づく指導と監査は

混濁しているところが多々あるので、

今後は、指導と監査を体系上、厳格に分離(峻別)すべきである。

 

できるならば、峻別を明確にするために、

法体系の面でも指導法制と監査法制とを別々に分ける方が望ましい。


そして、実務において重要なのは、

指導と監査を担当する行政機関(主体)を分離することである。

たとえば、少なくとも、指導する機関が監査の要否を判断してはならない。

 

監査の要否は、監査する機関自身が判断すべきである。

一つの解決策としては、指導は地方厚生局が行い、

監査は厚生労働省の本省が自らで行う、という形で分離する方法も考えられよう。


最後になったが、以上の提言が目的とするところは、「指導の充実」である。

集団指導(団体研修)と個別指導(個別研修)を、

監査(行政調査)と切り離した上で、

地方厚生局が精力的にできるだけ数多く、

団体研修や個別研修として定期的に行い、

より適切な保険診療報酬請求を実現していく。

 

このことこそが、国民皆保険制を充実させ持続させていくために、

指導・監査の分野では最も有効適切な施策であろう。

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