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医療事故調は手堅く運用

2019/12/26

カテゴリー税務、労務、法律

*この原稿はMRIC by 医療ガバナンス学会の許可を受け転載しています。 

 

この原稿は月刊集中11月末日発売号からの転載です。

 

井上法律事務所 弁護士

井上清成

 

20191218日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 

弁護士からの発信

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1 制度施行から4年余り

医療事故調査制度は、

2015年(平成27年)10月1日から施行され、

もうすでに4年余りが経過した。

 

この間、医療事故発生報告の件数も、

その報告の時期も、非懲罰性の運営も、

秘匿性の運用も、すべてが当初の想定通りに

ほぼ手堅く推移している。

 

医療安全がブレなく、

炎上せずに推進されつつあると評しえよう。

 

このように手堅く推移しているのは、

全国の医療機関が自覚を持って

誠実に対応しているからにほかならない。

 

類似のものとしては、

日本医療機能評価機構の運営する

医療事故情報収集等事業や産科医療補償制度がある。

 

それらにも、医療事故調査制度のコンセプトを

より十分に取り入れて改善して行けば、

さらに一層、良いものとなっていくことであろう。

 

2 医療事故発生報告の件数

制度施行の2015年(平成27年)10月から

現時点〔2019年(令和元年)10月末〕までの

4年1ヶ月間(49ヶ月間)の医療事故発生報告の累計は

1535件であった。

 

1ヶ月平均は31件少々であり、

この平均件数は施行当初から

今に至るまでほとんど変わっていない。

 

マスコミの一部には件数が少なすぎると

誤解して報道している記者もいるらしいが、

決して少なすぎることはなく、むしろ想定通りである。

 

実は、医療事故調査制度の詳細を設計した関係者の間では

その当初の想定は月間30件前後だったのであった。

 

まさにそのものズバリである。

 

したがって

このまま推移していくことが望まれよう。

 

3 医療事故発生報告の時期

マスコミ報道によると、

医療事故発生報告の時期

(患者の死亡から医療事故調査・支援センターへの事故報告までの期間)は、

2018年1月から12月までの1年間の平均日数が71.7日で、

最短は1日、最長は911日であったらしい。

 

もともと事故発生報告は

1~2ヶ月が適切と想定されていたことからすると、

妥当な平均期間と言えよう。

 

ひと口に医療事故と言っても、

直ちに明瞭に「医療事故」だと判別できるものから、

何らかのきっかけからしばらく経過して

はじめて「医療事故」と判明するものまで様々である。

 

大切なことは、

一日でも早く事故報告をすることではない。

 

患者さんのご遺族へは一刻も早く説明することが必要であるが、

センターへの報告は別の事柄である。

 

すべての死亡症例を管理者の下で

一元的にチェックするシステムを確立させ、

ゆっくりでもよいので、

丁寧に判別したり検証したりする作業こそが

重要と言えよう。

 

また、別の考慮ではあるが、

不幸にして「医療事故」が

「医療紛争」になってしまった場合には、

「医療事故」の報告や調査は中断してでも、

先に「医療紛争」の早期かつ適切な解決を図ることが望ましい。

 

残念ながら、「医療紛争」の解決までに

1~2年を要することは珍しいことではないので、

「医療事故」の発生報告が

2年以上かかることも不自然ではないのである。

 

4 非懲罰性の運営

厚生労働省のホームページには、

「医療事故調査制度に関するQA」が掲載されているので、

医療事故調査制度の運営の参考にされたい。

 

たとえば、そのQ1(A1)では、

「制度の目的」が掲載されていて、重要である。

 

「今般の我が国の医療事故調査制度は、

 同ドラフトガイドライン(筆者注・WHOのドラフトガイドラインのこと)上の

『学習を目的としたシステム』にあたります。

 したがって、責任追及を目的とするものではなく、

 医療者が特定されないようにする方向であり、

 第三者機関の調査結果を警察や行政に届けるものではないことから、

 WHOドラフトガイドラインでいうところの

 非懲罰性、秘匿性、独立性といった考え方に整合的なものとなっています。」

 

「責任追及を目的とするものではなく、」というのは、

 この非懲罰性、秘匿性、独立性のうちでは、

「非懲罰性」のことである。

 

「医療事故」かどうかの判断は、

「管理者」の専権とされていて、

 責任の有無は問われない。

 

もちろん、

医師法21条の「異状死体等の届出義務」や

刑法211条の「業務上過失致死罪」とも、

全く別個のことであり、互いに全く関係はないのである。

 

現に、医師法21条についても

刑法211条についても、

その運用は落ち着いたものとなっていると言えよう。

 

この度、死因究明等推進基本法も制定されたが、

医療提供関連死の適用は除外された。

 

民事についても、

現在、医療事故を巡る訴訟の件数は落ち着いている。

 

したがって、制度目的たる「非懲罰性」は、

適切に実現されていると言え、

極めて良好と評しえよう。

 

5 秘匿性の運用

一般的に「秘匿性」とは、

患者・報告者・施設が特定されないことを指す。

 

医療事故調査制度は、

この「秘匿性」の原則を採用し、

「公開」や「公表」を原則としていた

それまでのシステムを転換させた。

 

まさにパラダイム・シフトと言ってよい。

 

実際、医療事故調査制度における「秘匿性」の原則は、

調査報告書の「非識別加工」や

非公開・非公表という「非識別性」の形で、

具体化されて適切に運用されている。

 

現に、4年1ヶ月の間で、

「医療事故」が公表・記者会見などされて

炎上した事例は、一つもない。

 

医療事故調査制度の適切な推進にとって、

誠に喜ばしい事である。

 

このように推進できた理由の1つは、

医療事故調査制度を定める

医療法の施行規則(厚生労働省令)において、

たとえば第10条の10の4第2項や第3項で、

「当該医療事故に係る医療従事者等の識別

 (他の情報との照合による識別も含む。次項において同じ。)が

できないように加工した報告書を提出しなければならない。」

 

「当該医療事故に係る

 医療従事者等の識別ができないようにしたものに限る。」といった

 厳格な規定を置いたことにあると言えよう。

 

類似の制度である「医療事故情報収集等事業」や

「産科医療補償制度」などにも、

同様な規定を置いて同様に運用すれば、

一層より良いものに改善できるのである。

 

 

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